第三十一章
ある晴れた月曜日、望は休暇を取り、二人で遠出のドライブをすることにした。行き先はN県にある高原の湖だった。望は朝早くから起きて弁当を作り、いつになくはしゃいでいた。僕も久しぶりのドライブを楽しんでいた。
湖畔に着くと、望は車を降り、思い切り深呼吸した。そして足元に咲く野花に顔を近付け匂いを嗅いだ。
「あんまりいい匂いがしないわ」
「野草は大抵がそうなんじゃないの?」
僕は笑いながら答えた。
「そうね。匂いのいい薔薇なんて、みんな人が改良したものだものね」
「それにしても気持ちがいいなぁ」
「ええ。晴れだし、とっても気持ちがいい」
「今日は日曜じゃないし、どこも空いてて得した気分」
僕は空に顔を向け、思い切り伸びをした。望も僕を真似て伸びをした。
「ねえ、康平君が見る夢ってこんな風景なんじゃない?」
「うん、よく似てる」
「へぇ、綺麗な夢なんだね」
「綺麗といえば綺麗なんだろうけど、そんなことを考えたことがなかったな」
「サンシャインと話に夢中になっているから?」
「うん」
「希さんとも?」
「そうだね。でも、最近、夢は見ていないんだ」
「そうね……そうだと思った。だって、最近の康平君、真夜中に起きてることが多いから。でも、残念だな。サンシャインの話が聞けるのを楽しみにしてたもの。サンシャインは、いつものグリーンの服を着ているの?」
僕は望のその言葉を聞いて、自分の耳を疑った。彼女に何度かサンシャインの話をしたが、サンシャインがグリーンの服を着ているということを、彼女に話した記憶がなかったからだ。僕は言葉を失い、望をじっと見つめていたが、やっとのことで口を開いた。
「ねえ、何故、サンシャインがグリーンの服を着ていることを知っているの?」
「……」
望ははっとし、湖を眺めていたのに、あらためて僕のほうに向き直り、僕の顔を見つめた。今度は望が黙り込む番だった。僕はもう一度、訊ねた。
「どうして知っているの? もしかして、君は宮崎望じゃなくて葉山希じゃないの?」
「いいえ、違うわ。私は宮崎望よ」
「本当に?」
「……」
望はしばらく黙って考え込んでいるようだったが、意を決したかのように僕に向かって言葉を発した。
「康平君、ごめんなさい。私、嘘を吐いてる」
「君は葉山希なの?」
「ええ、でも、この身体は宮崎望のものなの」
「ど、どういうこと!?」
「あなたと話をするために、彼女に身体を借りたのよ」
「君は亡くなっているの?」
「ええ」
「……!」
僕は驚きで息が詰まりそうになった。
「驚かせてごめんなさい」
「い、いつから入れ替わったの?」
「康平君と一週間の旅行に行ったときからよ。でも、ずっと入れ替わっているわけじゃないわ。望は私のために時々、身体を貸してくれているの。でも、この頃はほとんど私に貸してくれていたんだけど……」
あんなにおとなしかった望が、何故急に明るくなったのか、その理由が漸く分かった。僕は頭を振り「君に訊きたいことがありすぎて、一体何から訊いていいのか分からないよ」と言うと、希は「時間はたっぷりあるわ」と言った。
第三十二章に続く




