第二十三章
「このポスターの女の子は私なの」という望の言葉を聞いて、夢に出て来た女の子に「私をさがして」と言われて困惑していた僕の胸のつかえが一気に取れた。そう言われれば、ポスターの少女は目元も口元もまさしく望そのものだった。望の顔をじっと見つめると確かにあの少女の面影が残っている。だから、少女の顔をどこかで見たことがあると思ったのだろう。それにしても望にそっくりな希の顔を見たとき、気付くべきだった!
酔いを醒ますために入った二十四時間営業のファミレスでアイスコーヒーを啜りながら、そんなことを考えていた。望は島田さんのことや商店街の人たちのことを楽しそうに話し、「康平君が何故ここを離れられないのか分かるわ」と言った。僕はといえば、望の話をほとんど上の空で聞いては適当に相槌を打っていて、望はその僕の様子に気付き、「ちょっと、聞いてる?」と少しふくれっ面で言った。僕は「ごめん、ごめん」と言いながらも、また一人で物思いに沈んでいたので、望は「一人で悩んでいないで、話したいことがあるなら話して」と言った。
「あのポスターを撮ったのはいつ?」
「私が小学生になるちょっと前だと思うわ」
「子供タレントとかをやっていたの?」
「ううん、お母さんと街を歩いていたら、知らないおじさんに是非モデルになってくれってスカウトされたのよ」
「へえ、凄いね。あの写真、可愛いもんな。望は小さい頃、可愛かったんだろうね」
「小さい頃? 今は?」
「今もだよ」
僕は照れながら、僕を見つめる望の視線から顔を背けて言った。
「でもねえ、お父さんは本当に怒っていたの。あの後、本格的にタレント活動をやらないかって誘われたんだけど、お父さんが、『絶対だめ、これで終わりだ』って反対したの」
「そうだろうなぁ」
「でも、私もタレントとか全然興味なかったし、お父さんがおじさんに断ってくれてほっとしてた。あちこちに私のポスターが貼られて、誇らしいどころか恥ずかしくてたまらなかったの。だって、私、内気だったもの」
「そうか。そうだよね。今でもそうだしね」
「うん」
「それはそうと、……望って僕の夢に出たことある?」
「は?」
「その、望によく似た人が僕の夢にしょっちゅう出て来るんだよ。君とは以心伝心出来るから、もしかしたら、望が意思を持ってそうしてるのかな、なんて思ってたもんだから」
「そ、そんなこと出来るわけないじゃない。また、オカルト?」
「そんな風に言わないでくれよ。僕だって困っているんだよ。君と出逢ってから不思議なことばっかり続いて、正直参っているんだよ」
望は僕の言葉を聞いて悲しそうな顔をした。僕はその様子を見て慌てて「だからって、君と出逢えたことは感謝してるよ」とすぐに付け足した。
たぶん、望には全部洗いざらい話したほうがいいのだろう、僕はそう決心すると希のこと、夢の中の出来事、ポスターのことを話した。望は最初から最後まで目を丸くしながら僕の話に耳を傾けた。けれども、僕の話していることを全然疑いもせず、本当のことだとして真剣に聞いてくれているのが分かって、僕は嬉しかった。そして僕は話の最後に、望に一番訊きたかったことを訊いた。
「ねえ、僕と君が兄妹だってことはない?」
「そんなはずないと思うわ。確かに私は養女だけれど、男の子の兄弟がいるってお母さんは言っていなかったもの」
「じゃ、女の子の兄弟はいるの?」
「分からない。今度、お母さんに訊いてみるわ。もしかしたら、双子の姉妹がいたりして」
双子の姉妹! そう聞いてハタと思った。もしかしたら望の双子の姉か妹が希なのではないだろうか? でも、それならどうして望の姉が僕の妹なんだろう? またしても降って湧いた疑問が僕の行く手を遮った。
第二十四章に続く




