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⑥天と地という世界

 オジサンの連絡先は、また大事にしまった。ファスナーのポケットに。

 オジサンの丸文字がまた見たくて、手紙を書くことにした。どんどん、オジサンに引き寄せられている。

 男性とか女性とか、そういう枠にいない。そういうのは、関係なく。オジサンが好きなのだ。


 彼氏が、私の自宅前で待っていた。すぐに分かる。あの金髪。あのサングラス。間違いない。

 気付いたので、来た道を戻った。足をねっとりと降ろしたり、持ち上げたりをしながら。彼氏から、遠ざかってゆく。


 一番一緒にいる人。その人から、音をたてないで逃げる。普通だったら、ありえないことだ。

 でも、今はそれしかない。近くの喫茶店が目に入った。迷うまもなく入った。


 オジサンから、メールが来ていた。

『オーケーです。』

『ボウリングはどうですか?』

 そんな文面だった。シンプルすぎて、笑ってしまった。

 緊張が、この二文から伝わってくる。すぐに、ハイと送った。


 人間に、恋が出来ないオジサン。人類に、順位を付けられないオジサン。

 だから、ここまで楽しいのかもしれない。だから、初恋みたいな、心のふわふわが、溢れているのだろう。


 喫茶店でメニューを眺め、片肘をつく。オジサンだったら、何を頼むか。オジサンだったら、どんな表情をするか。そんなことばかりを、考えていた。

 ストライクを取ったら、ハイタッチしてくれるかな。ボウリング、上手そうだな。そうやって、デートの妄想もした。


 私の隙間に、スッと入ってきた。オジサンは、私にない部分がかなり多い。

 今までに、接してこなかったタイプだ。なのに、一番しっくりくる。不思議な生き物に思えてきた。


「すみません」

「はい。ご注文をどうぞ」

「オレンジジュースをください」

「かしこまりました」

 彼氏のことは忘れたい。忘れて、オジサンに集中したい。

 自宅に戻る隙は、なさそうだ。でも、彼氏もそこまで、しつこくはないだろう。


「こちら、オレンジジュースになります」

 オレンジ色のグラスが、光っていた。オジサンの瞳と、同じくらい光っていた。


 ヘアカット中に、オジサンとこんな話をした。

 100パーセントのジュースに、オジサンがハマっている。そんな話。特に、オレンジジュースが好きだと、言っていた。


 その影響で、頼んでしまったみたいだ。人間には、順位が付けられない。だけど、飲食物には、優劣が付けられる。それが、オジサンだ。オジサンらしい。

 少しだけ、オレンジジュースを羨ましく感じてしまった。でも、オレンジジュースみたいに、なりたいとは思わない。


 オレンジジュースを、体内に流した。酸っぱさのなかに、やさしい甘さがあった。

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