⑦酸味という世界
口が、オレンジジュースの味のまま、自宅に戻った。
オジサンが頭にいる。今は、そのふたつがメインで、私を作っている。
オレンジジュースと、オジサンしかいない。彼氏はもう、私のなかにいなかった。
誰もいなかった。自宅の前にも、どこにも。ほっとしたまま、照明を灯した。
彼氏が家の前から、いなくなっていたことで、ため息が出た。もう、会いたくなくなっていた。
オジサンとのデートは、明日ではない。あと何回か、ベッドで夜を越さないといけない。
その間には、彼氏と会ってしまうだろう。どこかで、必ず会ってしまうだろう。会って話をしないと、オジサンとの幸せはない。
洗面所で手を洗う。彼氏に関するすべてが、キレイに落ちることを願いながら。
顔に水を当てていた。バシャリバシャリと。冷たさで、シャキッとした。
彼氏との別れに、ここで完全に決心がついた。何があっても、別れる。
ベッドに飛び込んだ。オジサンからのメールを待ちながら。
期待と悩み。そのなかで、ゆらゆらしていた。
今が、一番疲れているだろう。でも、ここを乗り越えたら、素晴らしい景色が見られるだろう。
そう思う。富士山の頂上のような。
ピコン。
期待を持ちながら、開く。オジサンからの、メールだった。
『もしかしたら。もしかしなくても。彼氏いませんか?』
『かかかか、彼氏いる顔していたので』
オジサンは、察しがいい。私の彼氏のことも、当ててみせた。
メールでも、落ち着きがない。オジサンの色が出すぎている。どれだけ、個性が強いんだよ。
ピコン。
また、メールが来た。彼氏からではなかった。オジサンからで、安心した。
『お友達という、カタチではありますけど苺王、角煮んしたいのです』
『彼氏がいたら、普通は誘ってきませんからね』
いちおう、と打とうとしてイチゴオウになっていた。ふふふと笑った。
それに、確認が角煮になってる。微笑ましい出来事だった。
でも、それはすぐに、ため息に変わった。熱湯に入れた、氷の如く。
彼氏と別れないとイケない。そこからオジサンとのすべてが、ようやくスタートする。
絶対に別れたい。でも、簡単には別れられない。
オジサンのメールは、既読しただけで、返さなかった。オジサンが、ずっと頭にいる。でも、彼氏とのことを、先に片付けたい。
彼氏に電話することにした。するとそこに、玄関チャイムが響いた。
彼氏だ。ものすごいドアを叩いている。私は出るのが怖くなった。話すのも怖くなった。
だから、彼氏にメールを送った。
『別れよう』




