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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第2章 疾風と迅雷の友情譚
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 第四話 追憶の前に

「そんで、とりあえずどこ行くよ?」


 ハヤテが腹部を抑えつつ言った。

 まだダメージが残っているようだ。いいパンチを持っているな、ナギさん。あれで魂装者アルムなのか……。


「あれ、そういえば今日ってどこに行くの?」

「そこはオレとジンヤで決めてあんだけど、いくつか案があるから、どれにしよっかなって悩んでるわけよ」

「女性陣の意見も聞いたほうがいいんじゃない? なんにも決められない男もまずいけど、なんでもかんでも勝手に決めちゃうのもよくないと思うし」

「お、お前が男語るかよ。成長したなあ、ジンヤよ」

「僕だってそれくらいはね。……というか、ハヤテに任せると不安だし」

「なーにが不安なんだよ、オレに任せとけば大丈夫だっての!」

「本当かなあ……」

「なんだよ、じゃあジンヤの案、聞かせてもらおうか?」

「うん、いいよ」


 事前の打ち合わせでここなら鉄板だろうというところは決めてある。だが時間的に余裕があれば他にもいくつか案があったので、僕はそれを告げることにした。


「『特別展示 春の武装展第二弾 ~魔剣妖刀特集~』を見るために博物館!」

「却下だろっ!?」

「なんでッ!?」

「なんでいけると思ったそれでっ?!」

「いけるよね……ね、ライカ?」

「……? 行かないの? 早くしないと閉まっちゃうよ?」

「行く気満々ッ!?」


 ハヤテが驚愕に大きく仰け反った。


「あー……ジンヤ、やっぱお前の彼女だけあってちょっとすげーな?」

「そう?」

「……どーすか、ナギさん、デートでそれは?」

「え、えっと……彼女さんが有りなら、有りなんじゃないかな?」

 

 □ □ □


「くしゅんっ」

「どうした、キララ? 風邪か?」


 くしゃみをしたキララを心配するヤクモ。


「いや……なんかわかんないんスけど、アタシのツッコミが足りてない気がする……この世界のどこかで……」

「は?」

「いや、なんでもないっス!」


 □ □ □


「まあ、それは次の機会に二人で行ってもらうっつーことで……」

「「えー」」


 僕とライカの声が揃った。


「そんなに行きてえのかそれ……」

「絶対ためになるよ」

「なんでデートでの基準そこに置いてんだよ」

「ダメか……」

「ダメだろ。んじゃ、オレの案出していいか?」


 僕は頷く。


「動物園とかどーよ?」

「普通……」


 と僕。


「妖刀……」


 と虚ろな瞳で呟くライカ。


「……あはは、不評だね」


 と苦笑するナギさん。


「いやいいだろ普通で! 奇を衒うとこじゃねーんだって!」

「ねえ、ハヤテ……動物見てどうするの……?」

「そっくりそのまま返すが剣見てどうすんだ!」

「楽しい!」

「動物も楽しいからな!」

「そこまでいうなら……」

「……なんでオレがすげえ動物園行きてえみたいになってんだ……?」

 

 なにやらハヤテは不服そうだが、とりあえず最初の行き先は決定した。


「妖刀…………」


 未練がましそうに呟くライカ。

 ……ちゃんと次のデートでは連れて行こうと僕は胸に誓った。


 □ □ □


「ジンヤ! 見ろ! ゾウいるぞ、ゾウ!」

「本当だ! デカい!」


 僕らはゾウを発見するなり、柵に駆け寄る。


「デケえな!」

「見て、ハヤテ! ライオン!」

「うお、マジだ……かっけえな……」

「かっこいいね……」

「でもゾウの強ぇぞ」

「でもライオンの方がカッコイイよ」

「うーん……まあ確かに……。っつーか、ライオンってなんで『百獣の王』なんだろうな、ゾウのが強ぇのに」

「ゾウ好きなの……?」

「いや、別に。純粋な疑問」

「カッコイイからじゃない?」

「なるほど……」

「そもそもさ」

「ん?」

「別に王だから一番強くなくちゃいけないってことはないんじゃない?」

「あ~……」


 僕とハヤテはなんだか微妙な気分になった。

 

 □ □ □


「……もう、子供じゃないんだから」


 ライカは動物園ではしゃぎ回る二人の男を見て、思わず呟く。


「……あはは。ハヤテくんすっごく楽しそう。いつも子供っぽいんだけど、今日は特にだ」


 ナギも困ったように笑いつつも、優しげな視線で二人を見ていた。


「そっちも?」

「うん。ジンヤくんも?」

「普段はもうちょっと落ち着いているんだけどね……あんなジンくん、初めて見るかも」

「ま、楽しそうだからいいけどね」

「まあね……でも、彼女放ったらかしなのはどうなの?」

「……だよね~」


 □ □ □


「「すみませんでした……」」


 正座だった。

 園内にあったベンチに、僕とハヤテは正座させられていた。


「まったく……どうしちゃったの、ジンくん」

「ハヤテくんもだよ? しっかりしてよね、ホント……」


「「だってライオンが……」」


「「は?」」


 僕らの言い訳は二人の少女の鋭い視線に封殺された。


 □ □ □


 動物園の次は、水族館に行くことになった。商業地区内にあるこの動物園は、水族館が隣にある……というか、動物園と水族館が一体になってるのだ。


「サメだ! ジンヤ見ろ!」

「か、かっこいい……!」


 僕とハヤテが駆け出そうとした直前――僕はライカに、ハヤテはナギさんに叩かれた。


「もうその流れやったでしょ!」


「ハヤテくん、サメと私どっちが大事なの……?」

「サメ……ゴッ、がああああああああああああああああああああああああああああ……ッ!」


 再びハヤテを穿つナギさんの拳。


「そんなに好きなら、サメの餌にしてあげようか……」


 ナギさんは穏やかな表情で物騒なことを言う。


「勘弁してくれ……そんなB級映画みたいな末路は……」

「じゃあ、サメじゃなくて私を見てね?」

「水族館なのに……」


 ニコニコとした笑顔を浮かべたナギさんに手を引かれていく――というか、連行されていくハヤテ。

 僕は肝に銘じておこうと思った、ああいう関係もいいとは思うけど、僕はもう少し健全な関係を目指そう……身が持たない。

 

 □ □ □


 それからは、僕らは我を忘れてはしゃぐのを自重して、落ち着いて鑑賞をすることを心がけた。


「ナギ、ナギ、見てこれ」


 にょろりと細長い体を砂の中から出している。ぎょろりと大きな瞳、引き結んだ口。愛らしい顔つきが地面からぴょこんと出ている様は可愛らしかった。


「わぁ~、可愛い!」

「お前のが可愛いよ」

「そういうのいいから」

「……。……ほら、ここ読んでみ、こいつの名前」

「チン………………んん………?」


 水槽には『チンアナゴ』と表記されていた。

 ……う、うわあ、しょうもない。

 ナギさんは顔を真っ赤にしている。

 拳を握りしめてぷるぷる震えていたかと思えば、ぐっと親指で力強くある方向を示した。


「ハヤテくん」


 サメがいる水槽だった。


「餌になれと……!」


 こくりと頷くナギさん。


「なんでだよ……いいだろ別にチンアナゴって言うくらい……それがやらしいって思う方がやらしいんだよ」


 ぶつぶつ文句を言うハヤテ。


 一方でライカは、


「ジンくん、このチンアナゴって可愛いね。ファイバースコープみたい」


 と、かなり女子力が低い感想を漏らしていた。

 ファイバースコープというのは、体内を見るためや、スパイや兵士が死角から相手を確認するのに使う管状の機器だ。ライカのイメージしているのは映画などで見た後者の用途だろう。


「ハヤテ、これはどうなの」


 ライカが躊躇いなく口にしたことについて聞く。


「いや、そういうのって、恥じらいが大事だろ?」

「なるほど」


 確かにその通りだ……かなりどうしようもない感心をした。


 □ □ □


 一通り館内を見て回った後は、アシカショーを見ることにした。

 アシカが器用に鼻の上にボールを乗せて、様々なポーズを取っている。


「なんでアシカがあんなにバランス感覚すげーか知ってる?」

「さあ?」

「アシカのヒゲって感覚が通ってて、それが超敏感でな、そのヒゲでバランス取ってるんだよ」

「へぇー……、ハヤテ詳しいね」

「さっきあっちに書いてあった」

「なんで得意げに披露してきたかなあ」


『はーい、それでは次はお客様に協力をお願いしようと思いまーす』


 そこでショーの進行をしていた飼育員さんが、客席を見回し始めた。


『それじゃあ、そこの仲の良さそうなカップルさん、お願いします!』

 

 飼育員さんがこちらを指差す。

 僕とハヤテが同時に立ち上がった。


「オレらだろ?」

「僕らでしょ?」


『あー……それじゃあそこのカッコイイお兄さん二人で!』


「「え」」


「ほら、ハヤテくん、早く行かないと」

「アシカ……」


 ライカが悲しげな声を漏らす。アシカに近づきたかったのだろうか……。

 逡巡していると、飼育員さんがこちらに来て手を引いていってしまう。

 フラフープを手渡される。これをアシカに向かって投げると、アシカが器用に輪の中に首を通すという芸だろう。

 僕は輪を一つアシカに向かって投げる。

 くいっと首を曲げて可愛らしい仕草で輪に頭を通した。

 拍手が起こる。


「負けねえ……」


 ハヤテは飼育員さんから輪を二つ奪うと、同時に投げる。

 これまたアシカは二つ同時に輪を首にかける。


「む……」


 僕は輪を三つ取る。

 少し輪がズレるも、またもや三つ全てに頭を通す。

 拍手が増した。


「やるなジンヤ……だがよ」


 ハヤテは輪を持つと、十歩程下がりアシカから距離を取る。さらに驚くべきことに、アシカに背を向け……そして、輪を背後のアシカへと放り投げた。

 輪は狙いを過たず、綺麗にアシカは吸い込まれるように落ちる。

 アシカの方が驚いているように固まったままで、そこに輪が入った。

 凄まじい拍手が起きる。

 ハヤテは客席に向かって手を振っていた。


「いや……アシカより目立ってどーすんの」

「オレの勝ちな」

「ぐっ……最後のやつ、風使ったでしょ」

「なんのことやら」


 下手くそな口笛で誤魔化すハヤテ。

 客席に戻ると、ナギさんは呆れた表情をしつつも強く手を叩いてた。


 □ □ □


「もー、ハヤテくんなにしてるの? ショーの注目奪っちゃって」

「いーじゃん、盛り上がれば」


 少年のように悪戯っぽく笑うハヤテ。


「アシカ……」


 ライカは虚空へとフラフープを投げる練習をしていた。


「また来ようね……」

「うん……」


 今度はなんとしてもライカにフラフープを投げる役目を託そう……と僕がそんなことを考えていると。


「そういやさ」


 ハヤテが話を切り出す。

 僕らは現在、館内にあるカフェテリアで昼食を取っていた。


「そろそろ聞かせてくれよ。せっかく座ってゆっくりできるし、ちょうどよくね?」

「ああ、そうだね」

「なんの話?」


 ライカが首を傾げる。


「僕らの話をハヤテに。ハヤテの話を僕らに。昔、そういう約束してたんだ。ライカのことは、前にハヤテに話してたから」

「へぇ~……なんて話てたの?」

「こいつ、ライカちゃんの話になるとすぐ顔赤くして照れくさそうにしててすげー面白かったよ」

「ハヤテだって、ナギさんのこと話すときはいつもみたいにへらへらせずに真剣で面白かったけどね」

「あっ、テメッ! それ内緒だって!」

「ハヤテだって今の話はそういう約束だっただろ!」


 僕らが言い合うと、ライカとナギさんが笑う。


「私、ハヤテくんとジンヤくんの話が聞きたいかも」

「あ、それ私も。……というか、なんでずっと秘密にしてたの?」

「……なんか、ちょっと気持ち悪いよね? 男同士で」

「ね、確かに」


 女性陣が頷き合ってる。

 ……言われてみればそうだが。


「別にそんな大した話じゃねえし、大した意味があって秘密にしてたわけじゃねーっての……じゃあまあ、最初に話しとくか。つっても大した話じゃねえよな?」

「うん、まあそうだね」


 ハヤテにとって大したことはなくても、僕にとってはライカやクモ姉、父さんや母さんと並んで僕の人生に大きな影響を与えた大切な話だ。


「どっちが話すよ?」

「じゃあ、僕から」


 そして僕は語りだす。

 彼と過ごした、あの黄金のような輝く日々を。

 …………もしくは、あの二度と思い出したくない、地獄のような日々を。


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