11 ☆4
アカデミーの秘密。空中都市の中に満ちている、その膨大なまでの魔力を生み出す仕組み。
それは全て召喚したドラゴンから生まれ出たものだった。
どんなに才能があろうとも、自分の体内や自然界に存在する魔力を集めても限界がある。
しかし、召喚した竜から魔力を引き出し、その膨大な魔力を使って
アカデミーを浮かせ、
アカデミー内の天気をコントロールし、
アカデミー内を豊富な魔力エネルギーで満たし
アカデミーでモンスターを飼うようなことができるのだ。
「最初はドラゴンの側にもこの国にいるだけの理由があったのかもしれないが、その恩恵を与えられるのが普通だと思った勘違い者が多かったんだろうよ」
空中都市に来ることが出来た奴は「選ばれた妖精」であるという、
――なんて愚かな優越感。
そして、一度味わってしまえば、地上に戻って生活するなんてことに耐え切れなかったのだろう。召喚獣の王たる竜を媒体を使って繋ぎとめた。無理矢理に。
「ドラゴンによって繁栄したなら、アカデミーはドラゴンによって滅ぼされるべきだと俺は思う」
「……それは、貴方もそれに荷担したから?」
「そうだ。俺は、アカデミーに協力してドラゴンを召喚した」
扱いきれない力だなんて考えもせずに。
ちらり、とキリルの顔を見やってから彼は続けた。
「ブーケさん、俺達ってのはどこまで便利に、豊になれば気がすむんだろうな」
もっと便利に。
もっと快適に。
そう、どこまでも貪欲に知識と魔力を貪るのがアカデミーだった。
ドラゴンは1匹では足りなかった。
最初の桃竜に加え、黄竜が呼び出された。アカデミーの優秀な闇の魔術師達が召喚し、慎重に媒体につなぐ。
「その優秀な闇の魔術師達は、更に青竜、そして赤竜も召喚し、アカデミーは繁栄を極めた。
俺は4回目の召喚に立会い、彼らはなんて素晴らしいのだと思ったよ。
まるで、金鉱を掘り当てたような喜びに浮かれていたといってもいい」
だが、それを成し遂げた先輩の魔術師達は喜んではいなかった。
「もう手を貸すんじゃないぞ。今に恐ろしいことになる」
以前とはうって変わってやつれてしまった彼らは、悲しそうな目をして去っていった。
――あれほど将来を期待されていたというのに。
「そう。あのときまでは上手く召喚できた。そして媒体が繋ぎとめた」
だが、それからしばらくして、アカデミーに残る魔力が足りなくなってきた。
「原因は魔力を無尽蔵に消費するアカデミーの研究?」
「そうだ」
アカデミーの上層部は、またドラゴンを召喚すれば良いと言う。
全く簡単に言ってくれるぜ。
しかし、バカなことに闇の魔術師達も楽観的だった。4回も上手くいったのだから、次も上手くいくだろうと。
そう。それは魔王が現れる少し前の話。
窓の外を見ると、修復作業のための大掛かりな魔法陣が発動し、砕けた瓦礫が運び出され、再度新しく修繕する作業が始まっていた。地上のように、手作業でやれば半年から1年はかかる作業であるが、この分では明後日にでも終わるに違いない。
「ところで、召喚されたドラゴンをこの地につなぐ鎖って何だと思う?」
突然問いかけられて、シャルロットは一瞬はたと止まった。
「守護神、もしかして、守護神と呼ばれる彼がそう?」
アカデミーでもその存在を知られず、一番奥の部屋でドラゴンをつなぐ存在。
「正解だよ」
しかし、仮の守護神と呼ばれた少年は悔しそうに唇を噛み締めて首を横に振った。
「僕は、本当は違うんです。本当の守護神なんかじゃ」
「元々、それまで呼び出されたドラゴンたち全てを繋いでいた媒体、守護神は別の人物だった」
――ベルナー。
彼ほど才能に恵まれた人物はいなかった。
もてはやされるのをみては、ああなりたいと願った。
あれくらい力があればと憧れた。
次第にそれは強い嫉妬になった。
「この少年はベルナーを罠にかけて彼から4匹のドラゴンを奪い、アカデミーから追放してしまったんだよ」
その言葉に、少年は悔しそうにうなだれた。
「才能があったのは本当のことだ。
だが、ベルナーから奪ったドラゴンたちはもともと力が弱まった状態だった。
だから、召喚したばかりの黒竜の魔力がどれほど凄まじいものかなんて分からなかったのさ」
召喚経験の浅い闇の魔術師である俺、媒体経験の乏しいこいつ、そして、俺の助手だったジークハルトの3人を中心としたメンバー。そんな不十分な準備態勢のまま召喚は進められた。
呼び出す標的となったドラゴンは黒竜。
――誰もが何とかなるんじゃないかって思った。
「しかし、異変はすぐ訪れた。
黒竜は新しい守護神を拒み、俺は魔力を全て奪われた。弁解するようだが、俺たちの魔力はそんなに低くない。あの、黒竜が異常に強大な魔力を持ちすぎていたんだ。あいつに比べれば、今までのドラゴンなんて子供みたいなもんだ」
「結局、ドラゴンは実態を保つのが面倒になったのか、残った中で一番魔力の強かったジークハルトに憑いたよ」
しかし守護神の器じゃない彼にとっては体を乗っ取られるにも等しかったことだ。
見る見るうちに魔力を失いかけていった。
「彼が死んで、それで失敗が丸く収まるようだったら、アカデミーの連中は腰をあげようとはしなかったろうな」
それが変わったのは、ベルナーからこの少年に移していたはずの赤竜が抜け出してどこかへ行ってしまった時だった。
原因は、多分、黒竜との接触。
黒竜は制御できなくなった。ジークハルトの体から勝手に外に出ては暴れ、中に戻っては魔力を食おうとする。
アカデミーの中で暴れられては被害がひどくなるため、一旦地上の森の中に隠した。そうして、最初は魔力を引き出す方向に持って行けはしないかと、何度か試みたが、あまりにも相手の力は強すぎてどうにもならなかった。
「ジークハルトはアカデミーから追放されたよ」
二度とアカデミーには近寄らないように、呪いまでかけられて。
薄情な連中だよ。本当にな。俺も含めて。
勿論、プライドを捨てて先輩達やベルナーに教えを請おうと探したりもした。だが、彼らは見つからなかった。
赤竜はどこかに行ったまま帰らない。
ジークハルトは黒竜を制御しきれず時々外へ出している。
そうしているうちについに青竜までが彼から飛び出し、このキリル君についたわけだ。
「アカデミーは焦っている。このままじゃドラゴンたちが次々とが逃げてしまう。
そうなったらアカデミーは浮遊する魔力すら失い、落ちてしまうんだ」




