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シャルロットの日常  作者: アルタ
彼の居場所を
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35/64

10 ☆1

 ……。


「なあ」

「はい?」

「一体何が原因で魔王なんかやってたんだ?」

「話したくありません」


「なあ」

「はい?」

「本物のベルナーはどうなったんだ?」

「さあ?。どこかへ行っちゃいました。あ、姿は借りてもいいって了解貰いましたよ。

 だから今、彼はベルナーの姿をしていないかもしれませんねぇ」


「なあ」

「はい?」

「なんでこんなややっこしいことまでしてシャルロットさまに会いたかったんだ?」

「愛です」


 その瞬間ミカエリスは、ぶーーーっと紅茶を噴出し、むせこんだ。

 愛だというなら、とりあえず危険は無いのかな? なんてのんびり考えてみる。が、危険はこの闇の魔王ではなく、別のところからやってきた。


「ただいまー……って、みかみんやん」

 金髪の商人リラレは、窓からそーっと入り込むと「あいつらきたで」と囁いた。


「あー、アカデミーの人がきちゃいましたねぇ。どうしましょうねぇ」

「そうねー。逃げも隠れもしないけど……ややこしいよね」

 そうして二人はニッコリ笑って言ったのである。


「「みかちゃん(ミカエリス君)、どうしよう?」」

「丸投げしないでくださいっ!!!」




「後どれくらいで、きそう?」

 シャルロットがリラレに問い掛けると、彼は「10分くらいやなぁ」と答えた。

 どうやら、子供達自作の対ミカエリス用罠スペシャルが作動しているらしい。

 無駄なく資源を有効活用することが出来て全く喜ばしい限りである。

 ……などと喜んでいる場合ではない。


 実力はここに揃っているメンバーに数段劣るものの人数だけはそろえているアカデミーである。その数に物を言わせて狙ってくるに違いない。


 確かにここにいる魔王は、事情を知らない妖精からすれば非常に恐ろしいものであるだろう。

 いや、「復活したけど、隠居したいんですよ~」などという魔王の発言を誰が信じるだろうか?

 ミカエリスは「俺なら絶対信じねーな」と心の中で呟く。会ったことはないけれど、それまでずっと思い込んできた価値観が急に変るはずもない。

 ……変わるはずも無いけれど。


 でも、シャルロット様の言葉なら信じる。それならできるから。



 ふと、ミカエリスがシャルロットを見ると、彼女は魔王を見ていた。

 一体あの二人の間にはどんな関係があったのだろう?と、彼の心が少し痛んだ。

「ジークハルトさん、調子はどう?」

「そーですねぇ、さすがシャルロットさんですよ。薬も良く効いてますし」

「薬?」


 ミカエリスが首を傾げると、シャルロットはポシェットから手のひらにすっぽり収まる大きさの小瓶を取り出した。薄い緑色が光のあたり具合で青色にも見える小瓶。その中には透明な液体が入っている。


「私が100年前にようやく開発した薬よ」

「あの、魔王は病気もちなのか?」

 眉間にしわを寄せて彼女の助手が呟くと、金髪の商人はおかしそうに噴出す。


「そーなんか?。闇の魔王さん」

 窓に寄りかかっておかしそうに笑いつづけるホビットに、魔王は悪びれた様子も無く

「うーん、ありていに言えばそういうことなんでしょうかねぇ」

と、紅茶入りブランデーを注いだ。

 それにシャルロットが角砂糖を1個おとす。まさか魔王の病気は糖尿病ではあるまい。


「僕の病気……というか、今では体質のようなものになっているんですけどね。

 当時はそりゃあびっくりしましたよ。完全な事故ではなかったにしろ、

 自分の姿の変わりようにはビックリしちゃいましたしねー」


 魔王の言い方に引っ掛かりを覚えて、ミカエリスは眉をしかめた。

 こいつ、さっきから肝心な事実をすっとばして話をしている。シャルロット様くらいしか分からない内容の話を。

 ちょっとむっとした顔を向けると、魔王はニコニコしていた顔を一瞬引き締めて、ニヤリと笑った。


「!」


 どうやら嫌われていることに気づいた。要するにあいつからしてみれば、愛しい人にべったりくっついている助手などという存在はただのお邪魔虫なわけで。

 そういえば、今アカデミーの奴らが引っかかっている罠も、もともとミカエリス用だったわけで。



――よく今まで闇夜にまぎれて殺されなかったよな、俺。


 彼女の忠実なる助手は背中に走る悪寒を我慢しながらひきつった笑いを浮かべた。それもシャルロットの目が無かったらどうだったか。


「あー、でも薬が効いたなら良かったわ。

 私も200年前の約束が果たせたし、肩の荷も降りるってものよ」

 知らず、出来の良い助手を守ることとなった上司はのほほんとしたものである。


 その姿を目を細めて観賞しつつ、

「シャルロットさん、もう一個約束ならあるじゃないですかー」

「そだっけ?」

「はい」

相変らず笑顔を絶やさないまま、魔王は明るい笑顔で言ってのけた。



「僕が復活したら、結婚する約束だったじゃないですか」



 へー、結婚。


 ……結婚??

 即座に否定して欲しくてシャルロット様を見るが、彼女はお茶をすするばかり。


「シャルロット様?」

 問い掛けてみても、「うーん、あの約束はねぇ」と歯切れが悪い。

 もしかして、本当に婚約しちゃってたんですか?。そんなことを考えてしまう。

 でも、本人の口から語られたことで無ければ信じるまいと思い直す。


「シャルロット様、本当なんですか?!」

 奴の封印から200年経ったその日に急に隠居する気になった理由。

 ……そして、俺がアカデミーに置いていかれた本当の理由。

 それが、もし、奴との約束を果たすためだったなら?

 シャルロット様の寿命残り200年を奴と過ごすために出て行ったのだとしたら?

「みかちゃん……・」


――俺は。


「シャルロットさん。ここはアカデミーと近すぎて嫌ですか?。

 だったら、他の国でも僕は構いませんよ?」


――俺は。


 やたら嬉しそうにニコニコしてる魔王が急に憎たらしくなってきて拳を握り締める。

「シャルロット様!」

 否定して欲しい。

 そんな馬鹿げた約束はしていないって。

 でも……

 シャルロット様の困惑したような瞳で分かってしまった。――本当のことなんだって。

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