5 ☆3
「これ、アルファベットを3つずつずらしたら、丁度合いますね」
「「「あ」」」
一部の妖精がぼちぼちとそのからくりに気づき始める。
「そうです、そうなのです。
換字式と呼ばれるこの方法はローマ字に変換して行う方法です。
例文の1文字目「H」は3つずらして「H」→I→J→「K」になります」
「H」→I→J→「K」け
「B」→C→D→「E」
「K」→L→M→「N」ん
「G」→H→I→「J」
「V」→W→X→「Y」じゃ
「X」→Y→Z→「A」
「K」→L→M→「N」の
「L」→M→N→「O」
「Q」→R→S→「T」と
「L」→M→N→「O」
「R」→S→T→「U」う
だから問題の「YIXZH」は「BLACK」→「ブラック」→黒が正解です。
「Y」→Z→A→「B」
「I」→J→K→「L」
「X」→Y→Z→「A」
「Z」→A→B→「C」
「H」→I→J→「K」
ここまで終わったところで、シャルロットは一回休憩を入れることにした。
頭から湯気を出しそうな妖精もいる。とりあえず30分の休憩時間を設けて、甘いもの補給とばかりにティータイムを提案すれば、子供達も大賛成した。
今日のおやつはベルギーワッフル。粗めのザラメを入れて、型で焼いたベルギーワッフルは食べると甘さが染み渡るようである。
温めたミルクを飲み干せば、緊張していた頭がほぐれるような錯覚に陥るな、とフォルスはマグをテーブルに置いた。ツンドラは3個目のベルギーワッフルに手を伸ばしている。セブルスは珍しく、これまでの問題の復習をしていた。
「今日はあと2問です。最後まで頑張って考えたら、今日使った自動速記ペンをあげるので頑張ってね」
彼女の言葉がやる気にさせたのかもしれない。
では一息ついたところで4問めです。
「レッド」→「34.51.41」、「ピンク」→「14.42.43.13」、と表した時、
「21.23.15.51」と「55.51.23.23.53.35」を混ぜると何色になるか?
「ヒントはレッドをRED、ピンクをPINKと英語に変換してくださいね」
シャルロットが付け加えると、
「グリーン」「緑」「黄緑?」「青と黄色まぜたら何色~?」
と、バラバラと答があふれはじめた。先ほど食べた格子状のベルギーワッフルからヒントを得たのだろう。多くの生徒の紙には5×5のマトリックスが書かれていた。
「なーんかこの数字に、法則があるような気がしたのよね」
「数字も1から5までしかないからね」
ツンドラとセブルスが再度答えを確認している。
そう、この暗号は5×5のマスに埋めるマトリックス形暗号なのだ。
つまり、左上のマスを11、行を10の位・列を1の位として、下記のように箱に住所のような番号をつける。
1112131415
2122232425
3132333435
4142434445
5152535455
このマスに「レッド」→「34.51.41」と「ピンク」→「14.42.43.13」を入れてみる。
KP
R
DIN
E
今度は左端からアルファベットで埋めていくと、例文と一致する。
AFKPU
BGLQV
CHMRW
DINSX
EJOTY
最後に問題文のアルファベットを捜して当てはめると……
「21.23.15.51」→「BLUE」(ブルー)
「55.51.23.23.53.35」→「YELLOW」(イエロー)となる。
よって答は、青と黄色を混ぜた色ということになり、緑が正解なのだ。
「今日の授業はレベルたっかいなぁ……面白いけど」
「確かに。ただ、パターンをある程度知っておけば、今後似た問題に直面したときの糸口になるかもしれない。今日の授業は、解くための柔軟な頭がないといけないというのではなくて、そういう考え方があるということの紹介みたいなものだからね」
そういいつつも彼女は、かなりの人数がついてきていていることに驚いていた。ベルナーが一体どんなスパルタ教育してるのか気になるところである。
では最後の問題です!
□□□■=1、□□■□=2、□■□□=4、□■■■=7のとき
■■□■はいくつでしょう?(注意;多分高校レベルです)
最後に数学らしい問題をもってきたところ、皆うんうん唸ってしまった。
この暗号を考えたのはミカエリスだ。(本物はもっと難しくて入り組んでいるため、問題として出す時には途中まで解いた状態で出題しているが)。記号と数字の列の暗号作りは彼の得意分野で、当時いろいろなものを並べては考え込んでいた記憶がよみがえる。
「数字を見すぎて……いまじゃデリバリーサービスの電話番号まで暗号に見える」
そう言って額に手を当てながら、ピザの配達を頼んでいたのはいつの話であったか。
アカデミーの妖精さんは大抵研究職が大半だ。
しかし、彼は研究者の資格を持ちながら、進んで実験助手と秘書を希望した。どちらにウェイトが置かれたかといえば、明らかに後者である。(彼女は自分が結構大雑把だったから見るに見かねたと考えていた)。
研究がしたかったなら、個人で研究室をもてるほどの実力だったのに、どうして助手になりたいと思ったのだろう。
「シャルロットさん、わかったよ」
そんな思考は、フォルスが手を上げたことによって中断される。
彼が個人の研究室を持ちたくなかったのかどうかは分からないが、自分がいなくなった今、アカデミーいち大きな研究室は彼のものになる。ただ、彼女は活躍を祈ることしかできなかった。