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Episode36 レクチャー

 学生達にとってHRが始まるまでの時間というのはとても貴重なものである。読書や終わっていない課題を終わらせたり、足りない睡眠時間を補ったり。そして、このクラスでは――。


「被告人――紅崎悠一。何か言い残す事はあるか?」


 裁判が行われていた。(自称)臨時裁判所長官の慈愛の言葉(笑)に対して、紅崎は食って掛かる。

「あるよ!!大体何で教室に入った途端に俺は磔になるんだよ!?」

「それは被告人が被害者――姫矢美咲を自宅に連れ込んだ挙句、毒牙に掛けたからだ」

 事の発端は紅崎が美咲と同棲している事が発覚したからである。それを妬む非リア充達が審議に掛け、現在に至る。が、その起訴内容は事実と程遠いものだった。

「何一つ合ってねえよ!!俺は無実だ」

「そうよ、悠一は悪くないわ!同棲の話だって私からお願いしたのよ」

 紅崎を助ける為に美咲も助け舟を出したが、それは失敗だった。

「ストップ、美咲。そんな事を言ったら――」

「長官、判決を」

「「「「「私刑(リンチ)だ!!私刑(リンチ)だ!!」」」」」

「極刑はやむを得ない。被告人――紅崎悠一を私刑(リンチ)に処する」

 その一言は逆に裁判官達を怒らせてしまい、紅崎は私刑(リンチ) (誤字にあらず)になってしまった。

「あっ、ちょっ、やめっ、アッーーーーーーーーーーーーー」

 紅崎は裁判官達に囲まれ、私刑(リンチ)に遭った。

「あれ?駄目だったの?」

 美咲は、どうして自分の一言で私刑(リンチ)になったのか理解出来ていなかった。そんな若干の天然ぶりに女帝(エンプレス)はため息をつく。

 その近くでは牧瀬もため息をついていた。何故なら彼女の目の前には、

「そんな……悠一君と美咲さんが………同棲していたなんて………」

 あまりのショックに長内が呆然としていた。馬原に至っては、

「同棲だと……許せん、私刑(リンチ)に参加してくる」

 などと言い出した為、それを防ぐ有効な手段として現在牧瀬の椅子になっている。本人は「我々の業界ではご褒美です(キリッ)」と言っていて、まんざらでもない様子である。

 そんなカオスな教室に青鬼が現れ、一喝すると元の状態に戻った。



「イテテ、随分と酷い目に遭った」

「ごめんなさい、悠一。私のせいで……」

「いいよ、美咲が助けてくれただけでも俺は十分だよ」

「そう………良かった」

 昼休み。人目も憚らずに二人だけの世界に入り込む紅崎と美咲。それを見て馬原と牧瀬は軽く胸焼けを起こす。

「何だ、あのバカップルは?早く爆発すれば良いのに」

「奇遇ね、恭也。私もそう思っていたところよ」

 そしてもう一人―長内は二人を羨ましげに見ながら、

「悠一君と同棲なんて羨ま……じゃなくて、不純です!!」

 美咲を怒るが下心が丸見えである為、全く効果が無い。

「あらっ、あなただって一時期同棲していたんだから良いじゃない」

「ッ!?それは……その……大体、その話を誰から聞いたんですか?」

「あ~、すまん、長内。俺の昔を教えたから、それで………」

「もう、悠一君のバカッ!!」

 原因を聞き、長内は機嫌を損ねてしまった。機嫌を直す為に助け舟を求めて馬原達に視線を送るが、

「こっち見んな、リア充め。お前なんか爆発しちまえば良いんだ」

「天然幼馴染みとツンデレ転校生の取り合いっていうのも楽しみね」

 全く持って協力してくれそうな気配が無く、馬原に至っては血走った眼でこちらを睨んでいる。

 孤立無縁な状況で紅崎に出来ることは、頭を抱えるだけであった。



「ここが………その生徒会長の自宅ね」

 放課後、約束通り水無月宅に来た紅崎と美咲。インターホンを鳴らすとややあって水無月本人が出て来た。

「良いんですか、お嬢様がのこのこと出て来て………」

「大丈夫よ、警備はバッチリだから。それより、この娘が?」

「はい、先程話した通りの――」

「姫矢美咲です。よろしくお願いします」

 お互いに自己紹介が終わり、水無月邸へ入る。

リビングに入るとそこには、

「へぇ~、お姉ちゃん達はこんな凄いのと闘っていたんですね」

「ええ、そうですわ。だからあなたはもっとご自身の姉を誇らしく思うべきですわ」

「はい。私の為にお姉ちゃんと悠一さんはいろいろと尽力してくれたみたいで、とても感謝していますよ」

 自分の姉達を自慢している美穂の姿があった。

「美穂、どうしてあなたがここに?」

 美咲がこの場に居る必要が無い美穂がいる事を疑問に思い、問いかける。その質問には水無月が答えた。

「私が由梨菜に頼んだのよ。久しぶりの学校生活で慣れない事もあるだろうし、あなたがいた組織に狙われるかもしれないでしょ」

「その………何から何までお世話になってすいません」

「気にしないで。私もコネクターの知り合いが出来て嬉しいわ」

 和やかな空気の中で、紅崎は由梨菜が美穂に先程見せていた動画を見てある事に気づく。

「それって、俺達の戦闘記録じゃないのか?」

「ええ、それが何か問題でも?」

「いや、俺は問題ないけど、美穂ちゃんは知らない方が良かったんじゃないかな?」

「良いんですよ、悠一さん。お姉ちゃん達の事を何も知らないでいるのは辛いですから」

「そう、それに、隠し通してもいずれバレる事だし知っても問題無いわ。けど、これだけは覚えておいて。もし、あなたが襲われるような事が起きたら迷わず私達に助けを求めなさい。私達が助けに行くからね」

「了解です、お姉ちゃん。悠一さんもよろしくお願いします」

「頼む程の事じゃないよ。美穂ちゃんに何かあれば美咲が悲しむから、助けるのは当たり前の事だよ」

 美咲と悠一の言いつけに笑顔で頷く美穂。その様子を見て、水無月と由梨菜がポツリと呟く。

「なんだか、本当に夫婦みたいね」

「ええ。我が子に言い聞かせる夫婦そのものでしたわ」

 その言葉を聞き、紅崎と美咲は顔を赤らめる。その反応にEmperorとEmpressは呆れながら水無月達に忠告する。

「すまぬな、この者達はまだそう呼ばれることに慣れていないのだ」

「まあ、からかう分には問題無いわ。息もぴったりのコンビだからね」

 それを聞くと僅かに水無月の顔が曇った。

「パートナー、か。懐かしいな…………」

 それを見て紅崎達は首を傾げる。

「どうかしましたか、会長?」

「いいえ、何でも無いわ。それより、あなた達はまだ大切な人やモノを失ったことが無いから良いけど、今の状況だと間違いなく危ないわ。あなた達はお互いに依存しすぎ、少し考えものよ」

「あっ、はい。すいませんでした」

「良いのよ。あくまでコネクターの先輩としての注意だからそんなに深く受け止める必要は無いわ」

「はい。分かりました」

 その後、コネクターとしての心構えや戦闘記録を見せながら欠点や戦術のレクチャーをして紅崎達は過ごした。


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