140.機動列車ガイア号
帝国の流通網を表と裏の両面から支えていた要人としてアイゼン侯が狙われた。
帝国のインフラを破壊する行為は後々革命勢力側の統治に係るため狙わない。
そのセオリーを無視し、リスクを承知で計画し、実行し、爆破を成功させた。
アイゼン侯の乗る七両編成『機動列車ガイア号』は駅を出発し加速したところで、線路に仕掛けられた爆弾により爆発した。
線路が数百メートル先までたわみ、盛り土と積み石が崩壊。周囲の建物にまで被害が及んだ。
それを合図として、潜んでいた革命勢力側の『グロウ』が都市制圧に乗り出す。
「かかれ、ここに『串刺し皇女』はいない!!」
それが彼らの自信だったのだろう。
「アイゼンフロストの死を確認しろ!」
「動いてるぞ、あの列車……」
「逃がすな!」
「違う……列車に脚が……?」
レールを外れた先頭車両に格納されていた4本脚が車両を支え、浮かせた。
「装甲列車兵器? 完成していたのか!!」
「構わん、動きは遅い!!」
「デカイ的だ!! 撃て!!」
革命勢力は、『機動列車ガイア号』に集中砲火を浴びせる。
繰り返される襲撃。狙われる列車。その手段として爆破があることはわかっていても、周到に用意された爆発物を全て見つけるのは困難だ。
だから、おれは……いやおれたちは造った。
爆弾ごときでは吹き飛ばない列車を。
しかし、これは当初の計画されていた『装甲列車兵器』ではない。
いわば、おれたち『鉄の友の会』の趣味、工作、遊び心の集大成である。
車両が三つのブロックに変形。
中央を浮かせて支える脚部両ブロックが半回転していく。
全高が伸びて、機体を支える4本のレッグダンパーに重量がかかっていく。
中央ブロックが上にせり出し、折りたたまれていた腕が露出。
その片腕は黄金に輝いている。
「な、なんだ……! さらに変形した?」
「デカい、ギア……?」
「弾が効かないだと」
中央ブロックの胴体から視覚装置と高感度アンテナを搭載した頭部がせり出す。
そして片腕から侵食するように、全体の装甲が黄金に変わっていく。
最後に圧力開放の白い蒸気が放出された。
全高10m、優にギアの三倍もの大きさで、我らがガイア号は立った。
ガイア号は元々「変形させるなら、人型にしたいよね!」というおれたちの全く実用性の無い、創作意欲と遊び心によって生まれた、おもちゃの類だった。
当然、変形過程における強度問題。変形中の無防備な状態。脚部への負荷。それだけの巨体を動かす動力炉が無いなど、問題だらけだった。
だが、戦いの中で最高を追い求め培われた技術が一つ、また一つと課題をクリアしていった。
『ネフィリム基幹』による重力制御が、変形時フレームにかかる負担と、脚部への負荷を軽減。
セキュリティ対策で必要となった熱魔法制御が、動力炉の稼働効率を大幅に向上させ、動力炉の出力が上昇。
机上の空論だったおれたちのロマンは、一応の形を見た。
ただし、それは実用とは程遠いものだった。
負荷が軽減しても、変形は慎重に、スローに、そっと行わなければならないし、動力炉の出力が向上したといっても、莫大な魔力消費と引き換えに、大きい的ができるだけだ。
おれたちはさらなる技術革新を待つ。そのはずだった。
砂漠で拾った秘宝がその状況を一変させた。
英霊シャムマヌルの『大地・鉱物』属性が、機体の金属組成を変質させる。
土魔法の『硬化』を超える、硬度・靭性を獲得。
敵ギアが放つ弾丸は全て跳ね返った。
「どうやら、このガイア号の装甲を抜ける特殊な弾は無いようだな」
「そのようでございますね閣下」
アイゼン侯は葉巻を片手に、どっしりと座席に鎮座していた。
もちろん、ガイア号にアイゼン侯はいない。
屋敷の中だ。
予めこういう事態を想定して計画され、敵をおびき出し殲滅させる罠。
『輸送王』として大戦期から帝国の運輸を支え、秘密施設での研究を続けてきた男。
そう易々と殺せはしない。
《そろそろ、このうるさいハエ共を叩いてもよろしくて?》
「ご随意に」
アイゼン侯はシャムマヌルにガイア号を委ねた。装甲列車兵器は元々無人兵器として想定していたため、義体を介したクレードルによる操作で動く。
ガイア号は近くにいたグロウを掴み、頭部から押し込んだ。
「離せデカブツ!」
《さきほどから図が高いぞ、下郎めらが》
グロウは暴れる。特殊対装甲加工を施したナックルガードを展開し、殴る。
その圧倒的強度の違いで殴るほどに腕はもげた。
「うそだろ?」
抵抗も虚しく沈黙、押しつぶされ爆発した。
《弱い弱い》
原始『ガイア』の腕はもう一つの問題を解決した。
近接戦闘力だ。
おれたちが遊びで変形させたことは別にして、『装甲列車兵器』には元々弱点があった。その唯一の弱点は取り付かれると排除する手段が無いこと。せいぜい遠隔の大出力魔法でもろとも吹き飛ばすことぐらいだった。それでは消耗戦になる。
シャムマヌルの特異属性『大地・鉱物』。
それは機体の金属組成を強化させるだけではない。
組成を変化させ熱伝導性をも制御する。
動力炉が生む熱エネルギーを最大効率で運用。
エネルギーロスが無い分、当初の想定以上の出力を、超低エネルギーで実現することで、近接戦闘力を獲得した。
「アイゼン侯の隠し玉か……だが、動きは遅い。近づかなければどうということは――」
敵は当然、距離を取った。
黄金の腕が回転。
《金剛の制裁を受けるがいい》
原始の巨腕が飛んだ。
回転した黄金の拳が、眼にも止まらぬ速さでグロウをはね飛ばした。
「え?」
「なんだよこれは……!」
「うわぁ、逃げろ!!」
腕は空中で静止。
元の位置に吸い付くように戻った。
《妾に背を向けるとは無礼な。死刑》
二発目。
まとめて3機のギアが錐揉み状態で乱回転しながら宙を舞った。
これが、これこそが最高のロケットパンチだ。
無理やり炸薬で発射し、ワイヤーで制御するのではなく、より強力かつスマートで劇的だ。
まず重力魔法で瞬間的に腕を軽くする。これはムーブフィストと同じ。
反動に耐える機体スペックと逆腕がガイア号に無いからだ。
反重力で軽くなった腕は回転で発射と着弾のタイミングを調整しながら加速。
発射エネルギーは磁性。
組成変化により磁性反発性を発生させ、操作。
その初速はおれたちのムーブフィストの時速600kmを優に超えるマッハ1。
グロウが避けることは不可能。
かつその重量で受けることも不可能。
単純にして無敵。
黄金の拳が囲んでいたギアを跳ね飛ばしながら直進していく。
「簡単すぎてつまらなかったところだ! 秘密兵器、ここで公開してくれてありがとう!」
一機、建物の陰からカスタムグロウに似た機体が現れた。
他とは違う直線的な機動。
仲間を犠牲に撃ち終わりを狙ってきた。
《死体がしゃべるな》
引き寄せられた拳も、凶器。
「っぐ!」
敵機は掠めてよろけた。
その間に、発射体勢確保。
《避けたか。だが終わりだ》




