139.黄金の巨腕
砂漠の遺跡を探査したおれたちを待っていたのは、古代文明、広大な地下都市。
「うわぁ……」
人工的に建設したのだろうか。
さすがは超文明。ワクワクが止まらない。
「探検しようか」
「いや、真っ暗で何にも見えないんだけど」
「はははは! 暗いのが怖いなんてマクベス君ったら」
「いや、普通に見えないから」
おれは暗視モードではっきり見えている。
義体のライトを点けていなかった。
《何をしている、早く我が秘宝を見つけよ》
「じゃあ、ナビしてよ、女王陛下」
《不敬な。う~ん……あれ、どこかしら?》
広大な地下空間を歩き回された。
「こっちも忙しいんですけど」
「疲れたよ。もう帰ろう、グリム君?」
《ああ、おのれ、妾を焦らせるとは小僧共め……》
水源を見つけたり、鉱床を発見した。違う、今おれたちが探しているのは原始兵器だ。
「あぁ、もう。女王陛下、まだですか?」
「もう夜になっちゃいますけど、女王陛下」
《ああ、ええっと……ええっと……》
仕方ないので『状態検知』で周囲を探査してみた。
砂に埋もれた都市の建物の中に、何かが引っかかった。
「これじゃないか?」
風化せず残っている巨大な宮殿のような空間、その柱と柱が立ち並ぶ中央に、格子状の建造物があった。まるで檻だ。
《おお、でかした……!! いや初めからやらんか!!》
「さてと」
檻に触れた。
「あばばば」
「グリム君!?」
義体にアラート。
腕がボロボロになった。怖い。
「腐食……」
《そうだわ。妾の力『鉱物』の力が仕掛けられているのだった》
属性『鉱物』か……腐食というより分解に近いのか。
にしても、あぶねぇな。
「最初に言えよ!! 忘れすぎでしょ!!」
《うぅ……だって、1万年も前のことだし……》
シャムマヌルの声が落ち込む。
「まぁ、誰にでもミスはあります。気を取り直してくださいよ。目的のものは目の前です」
《うん、そうだな。そうであるぞ》
「さぁ、この宝箱を開ける魔法を、女王陛下」
《うむ! 任せよ!!》
「うわぁ、グリム君の思いのままだ、この人」
シャムマヌルが何かしたのか。
檻が勝手に開いた。
「おお、すごい女王陛下!!」
「さすが女王陛下!」
《うむ、中は妾の機体ゆえ、宿るのは他愛ない。魔法を止めただけのこと。そう騒ぐな。あーっははは》
わかりやすく調子乗ってる。これで大したものじゃなかったらただじゃおかない。
中には黄金の『巨腕』が鎮座していた。
腕だけで通常のギア本体ほどもある。
《恐れおののけ、小僧共よ! 神聖なる我が『ガイア』の右腕なるぞ!》
「へぇ、すごいですね」
「うーん……何製なんだ? 金じゃないし」
「腕でこれだけ大きいなら、全体は……あれ、他はどこですか?」
マクベスの言うのはもっともだ。それが大事だ。
腕以外は?
《ええっと、どこだったかしら……?》
「腕だけかよ!!!」
腕だけでも、シャムマヌルの義体製造には十分なのだが、期待させておいてこれはがっかりだ。
《こう、この辺りにあるのは確かよね》
「この辺りって?」
《こう、この砂漠のどこかに――》
「シャムさん、砂漠って広いんだぜ?」
シャムマヌルのいい加減なナビでは残りを見つけるのは大分先の話になる。
「よし、あきらめよう」
「そうだね。面倒だし」
《待て、妾の力が欲しいだろう? 妾の『ガイア』は地上最硬、最大の機体であるぞ》
「じゃあ、残りがどこにあるのか正確にわかるんでうか?」
《……わかる》
「嘘の間だった」
「帰ろう、グリム君。お腹すいたよ」
《むぅ、さては小僧共、妾を敬っておらんな!? 妾は女王であるぞ!!!》
「グリム君、ああ言ってるけど……」
「真面目な話、身分とか国が無い時点で成立しないし、たぶんぼくら民族的にもあんま関係ないんだよな」
《真面目に正論を言うな!! 人の心が無いのか!?》
かわいそうだから腕だけ回収して、義体はつくってあげよう。
にしても腕だけでもったいないのも確かだな。
「めんどくさいな。ぶっ壊して弾にでもしちゃうか」
原始武器壊して弾にしたら、何でも貫けるだろうな。
《やめよ!? なんと恐ろしい、罰当たり、人でなしめ!!!》
「冗談ですよ……冗談」
「グリム君、冗談じゃない間だよ」
いや、やらないけど。
そういう使い方もあるにはあるな……
おれはやらないけど。
《この腕一つでどれほどの力を持つか分かっておらぬな?》
「わかりますよ」
そう、おれにはわかる。
デカイだけじゃない。
この腕、独特の形状、構造。
「女王陛下、この腕は飛びますね?」
《ほう、とぼけていてもさすがは慧眼であるな……一目でわかるとは、感心した》
この巨腕が、飛ぶ。
それとシャムマヌルの『鉱物』の属性から、おおよそのからくりは読める。
おれたちは『ムーブフィスト』を発破装置とFG鋼材のワイヤーで構築したが、これはもっとシンプルで強大な力を内包している。
いや、そうだ。
このサイズ感……あれに使えるかもしれない。
装甲列車兵器計画で、脚部の展開ギミックを設計したとき、「もっと変形させたいよ!」というおれたちのあくなき探求心で造った、変形するだけの列車。
《さぁ、わかったなら他のパーツも捜索するのだ!!》
「アイゼン侯へのお土産にしよう」
他のパーツはいらない。
もう、これだけでいい。
《えぇ、乗り気だったのではないのか? やっぱり壊すのか? 妾の機体を壊すのか? 怖い、現代の小僧共、何を考えてるのかわからぬ、怖い》
「グリム君の考えが読めないのはみんなそうですから」
《お前もだ!! 妾のことうっすら『自称女王の変人』だと思っておるだろう!? 本当に女王であるのだぞ!!》
「「ははは!!」」
砂漠から黄金の腕を発掘。
だって、他のパーツが何を封じているのかわかったものじゃない。
今は、腕だけで十分。
属性『鉱物』とこの腕が合わされば、とんでもない威力を発揮するだろう。
おれの、いやおれたちの理想のロケットパンチが。
おれはこれを、実用とか役目を果たすための仕事とはとらえていなかった。
ただ、多忙で行きつく暇もなく、天空都市で一人寂しい中の、気休めに思っていた。
それがまさか遊びで造った変形列車を一変させるとは知らず……アイゼン侯の運命を変えることになるとは想像もしていなかった。




