137.神の扉を開く者
英霊一の曲者ボーイがいる。
名前はヴィルセナ・バビリムス。
重力を操る原始『ネフィリム』の機士だ。
他の機士が、イシスの義体完成を知るや否や、「おれもおれも!」、「妾も妾も!」と騒ぐ中、彼はおれに忠告してきた。
『順番を間違えるなよ。おれはお前の勝利に貢献できる』
ヴィルセナの提案は、無視できないものだった。
だからルージュ殿下に頼み、空中都市までお使いに行ってもらった。
そして、彼の要求は、義体では無かった。
◇
砂漠のど真ん中で彼を見つけた。
おれは傘を差しだした。
「日焼けしちゃうよ?」
「誰?」
「ぼくだよ、ほら、砂漠の妖精だよ」
「砂漠の妖精とは、まだ知り合ったことが無いよ」
「どんな願いも叶えてあげよう。ただし、相応の対価をもらうよ」
「いいから早く助けてよ、グリム君」
さすが、親友。
この姿になっても、おれに気づくとは。
「ねぇ、今のぼくかっこいい?」
「街で会っても避けて通るよ」
「そっか」
おれは血まみれのマクベスを抱きかかえ、ギアに乗せた。
「これは、おれの機体……どうしてここに? おれはどうすれば?」
「魔法の言葉を唱えるだけさ」
マクベスは笑らって唱えた。
「神様、ちょっとズルさせてください」
マクベスが機体と共に発光する。
この不思議現象、無条件準原始化の逆転作用が働き、原始化に求められる状態が備わる。
身体の傷、疲労は消え、魔力は十全に回復し、属性魔法を獲得。
これはフリードマン大佐の功績だ。
個人的に今年のグリム賞を進呈しようと思うぐらい、思わぬ効果を実証してくれた。
おれの想定していた無条件とは、失敗のリスクがないことだった。
だが戦闘中という、原始化に相応しくないコンディションで原始化を要求したことで、この逆転現象を引き起こした。
いや、もちろん全くの予想外では無かったし、狙っていなかったわけじゃないし、もしかしたらあるかもとはもちろん気づいていた。
ただ試していなかっただけなんだからね!
「さぁ、戦士マクベスよ!! 復活したまえ!!」
「はいはい。……情報部の皆さんは?」
「三人は亡くなっていたよ。君のせいじゃない」
事情を聞いた。
フェルナンドはマクベスに代わる戦士を手に入れたようだ。
「仇はとる。古代のガーゴイルは?」
「それは大丈夫。殿下がいるから」
「南部に? それも君がここに突然現れたのと関係が?」
「まぁね」
聞かれたから答えよう。
カンタンだ。
ヴィルセナは、自らの魔力を宿した『ネフィリム』の欠片を『アトラス』に搭載させた。
「それってダイダロス基幹の空の中継局じゃなかった?」
「そう。アイゼン侯に製造を頼んでいた隠密ドローンだよ」
ヴィルセナは空中から座標を特定する眼を求めた。
『お前が用いる重力魔法は、闇魔法の一端に過ぎない。闇魔法の本質とは――』
『空間の制御』
『そうだ。闇魔法は空間と空間の間の距離をゼロにする』
英霊を宿した『アトラス』の指示を、空中都市のシステムが認識し、闇魔法の極致たる現象を起こす。
ワープだ。
ヴィルセナはこれを『神の扉』と呼ぶ。
「そんなことが?」
「まぁ、都市のシステムの演算能力をフルに使うわけだから、限度があるけどね」
「……グリム君、君がその義体を使っているのはその力と関係があるんだろ?」
「……」
さすが親友。お見通しか。
ヴィルセナの要求はおれだった。
『扉を開く闇魔法の者はお前しかいない。この時代で敗北したとき、お前だけは生き残れ』
要するに、バックアッププランだ。
『地上に降りるな。それが最も合理的だ』
『え? 寂しくなったらどうするの?』
『なるべく早く勝つことだな』
おれは空中都市に捕らわれている。
寂しい。




