表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

判明


 危険を察知する自動制御システムは大々的に報道された。

 最初は、そのようなことが可能なのかという声が半分、新時代の幕開けだと評価する声が半分だった。

 だが前者の声はデモンストレーションを見るやすぐに収まった。

 前方後方どちらも衝突直前でぴたりと止まる魔動車に誰もが驚嘆した。

 価格こそ割高になったが、反響と売れ行きも好調だった。

 あとは議会で自動制御システム義務化法を提案すれば、私のこの使命に決着が付くだろう。



 だが自動制御システム義務化法案は否決された。

 かつて三十代四十代をメインの支持層としていた政党は、二十年の時を経て高齢者の免許返納や規制に否定的な政策へとシフトしていた。

 メインの支持層が高齢者または高齢者目前となり、意見が逆転していたからだ。

 本当に世間は勝手なものだ。

 もっとも、今日に及ぶまで返納義務化が可決されずにいたことも、その変化が理由ではあったが。


 相変わらず数の減らない高齢者の事故件数に若者から不満は出るものの、若者世代はもう数が少なかった。腎臓治癒魔法の発表以来、長い老後の不安が貯金志向へと変わり、社会は深刻な少子化を迎えていたからだ。

 高齢者と若者の数は逆転し、長年解決しない状況に辟易としていたこともあって、もはや高齢者の返納義務化運動はたち消えていた。

 私はいつもの番組で高齢者の街灯インタビューを見た。


『自動制御システムを高齢者に義務化させるべきだという意見、どう思いますか?』

『もう歳だから、あんな高い車に買い換えられないわ』

『おれぁもう、今の車で死ぬまで走るから』

『買わせるために法を変えてくるなんて、いい加減やめさせよう』


 私は勢い良く魔力をぶつけ、動作を停止させた。

 劇的に事故を減らせるこの画期的な発明を、なぜ否定するのかが理解できなかった。




 誠に不本意ながら、私は自身の努力とは関係なく、自身の免許返納を免れた。

 だからと言ってもう使命などはどうでもいいと思うわけではない。

 だが事故件数の減少に対して、自動制御システム以上の方法は思いつかない。


 事故件数は減らせなくても、事故による不幸を少しでも緩和することはできるかもしれない。

 そう考えた私は議会に以下二点の提案をした。

 魔動車運転事故共済(ロウジコ共済)を立ち上げ、高齢者は加入必須とすること。

 共済金は、返納した高齢者への補助金と事故被害者への補償に使われること。


 高齢者の月々の支払い試算は平均的なランチ二食分程度だった。

 まさかこれが否決されることはないだろうと思った。


 当日、議会場へ向かうときは初代の魔動車に乗った。

 それは使命に燃えた初心に帰るべきだと、内心で思うところがあったせいだったかもしれない。


 だがロウジコ共済立ち上げと高齢者加入必須の案は否決された。

 議会場で目の前が真っ暗になった心地だった。

 なぜだ、この案のどこが不満なのかと議会場で取り乱した。


「ずっと失敗続きじゃないですか」

「あなたの法案に賛成するようじゃ、政党の支持基盤が危うくなりますから」




 帰りの車内、私は今の状況が何に起因しているか、もう分析することはなかった。

 ただひたすらに腹立たしかった。

 これほどまで使命に邁進した自分の努力を、過ち扱い・金儲け扱いする世間に愛想が尽きたと感じた。

 自宅の駐車場には、前から駐めた。

 自身のルーチンを崩したくない私がそのようにするぐらい、一刻も早くこのろくでもない国から出て行く準備に着手したいと思った。


 他国の静かな土地がいいだろう、さっそく新居探しに出なければ。

 使用人の挨拶も遮って、しばらく家を空けると伝えた。


「旦那様、どうぞ落ち着かれてください」


 そのような制止も聞かず、ボストンバッグ一つに身支度を整え、魔動車のトランクに放り込んだ。

 もうこのような国に貢献してやるつもりもない。


「馬鹿どもめ」


 苛立ちをぶつけるかのようにドアを開けた。

 座席に座ると魔石に額をあてる体勢になりもう一度吐き捨てた。


「後悔すればいい」


 顔をあげるより早く、いつもと同じように前進の魔力を、いつもとは違う勢いで思いきり注ぎ込んだ。








 気がついたときは病院のベッドだった。


「気がつかれましたか、旦那様」


 看護士と使用人がベッドのそばにいた。

 どうやら私は事故を起こしたらしい。

 事故に巻き込まれることはあっても、安全運転の私が事故を起こすとは今まで考えたことがなかった。

 どうやら私は使命からは逃れられないらしい。

 自身の事故という結果が、どのような原因から導かれたものなのか考えた。

 私の頭の中には母の言葉が蘇った。


『あなたは強い子だけど、人の弱さもわかってあげてね』


 やっと私は母が心配していたことを理解した。しかも二つの意味で、だ。






 お気付きのとおり、私は高齢者の運転事故の原因を正しく把握していなかった。

 世に理不尽は数多く、それらに心乱される感情という不確かなものにも目を向けるべきだった。


 最後は失敗した我が身の自嘲混じりで、締めの言葉としたい。

 この問題を解決するには、合理的な改革・被害者への思いやり・後期高齢者への理解、いずれもが必要なのではないだろうか。

 当分体を動かせない私に代わり、賢明な諸兄がこの問題を正しく解決することを心より願う。




読んでいただきありがとうございます。

連載中の小説もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ