三
これで終わりますよ。
気が付くと、見覚えのない部屋にいた。
「んぐ…ここは?」
体を起こすと背中に痛みが走った。
「あいてっ…」
「あ!まだ動いちゃダメ!」
声の方を見るといずちゃんが野菜を切っていた、が僕が起きたのを確認するなり泣き出してしまった。
「え、ちょっと泣かないでよ、今の状況で泣く場面だった?」
いずちゃんはこくこくと頷いた。
「だって…だって…あきつねくんが…」
僕はその言葉で不良に殴られたことを思い出した、あれ、でも殴られたとき僕小屋の外にいたよな?
そこまで考えてようやくいずちゃんが泣いている理由を理解した。
「いずちゃん僕を中に運んだわけだ」
急ごしらえのござで寝ているのを見て何となく察した。
「ごめんなさい…触っちゃダメなのに…あきつねくんが不幸になるのに…」
今にも消えてしまいそうな声でいずちゃんは謝り続けた、しかし今の僕のどこが不幸なんだろう。
「いずちゃん、昨日おばあちゃんから全部聞いたからさ、なんでいずちゃんが謝るのかも何となく分かるよ」
「じゃ、じゃあなんでこんな所に…」
「不良が山に入ったのを見て、って言いたいけどやっぱり僕はまた君に会いたかったんだろうね」
それを聞くと謝り続けていたいずちゃんは今度は怒り始めた。
「こんなのに会いに来ちゃダメだよ!?きっともうすぐあきつねくんは不幸になるんだよ!?私のせいで!」
「うーん、そういうのはよく分からないけど、取り敢えず僕のみを案じて泣いてくれる友達がいるから僕は今のところ幸せだけどなぁ」
いずちゃんは呆けた顔でその場にへたれこんでしまった。
「と、友達?私が?」
そんな力が実在するなら、いずちゃんは今頃僕の事を嘲笑っていただろう、全ては徒労だったと、要らぬ節介だったと、でも違ったのだ、彼女は僕が不幸になると泣いたのだ。
「自分が不幸になったわけでもないのにそこまで本気で泣いてくれる人が友達じゃないわけ無いじゃないか」
なんかいってて恥ずかしくなってきたが、ここまで言い切れればいずちゃんが責任を感じることはないだろう。
そうするといずは何か覚悟したような、諦めたような顔で立ち上がり、小屋の隅にある棚を漁り始めた。
「この小屋ね、何回か建て直されてるけど昔から忌徒が住んでたんだって、何年か前に死んじゃったもう一人の忌徒さんは読み書きが上手で私に文字を教えてくれたの」
そういっていずは巻物のようなものを何本が床に広げ、そのとなりにむらとやまの略図を広げた。
「この小屋から村と反対側、山の頂上の方に祠と洞窟があるらしいの、忌徒の呪いをかけた鬼はそこで封印されているらしくて、村の人は誰もちかづかないの」
いずちゃんは巻物を一本鞄にいれ、僕に手渡した。
「前の忌徒さんが言ってたの、鬼が生きてるかは分からないけど、忌徒の呪いは確かにあるって、分からないってことは行ってみたらいきててあきつねくんだけでも呪いがなくなるかも」
いずちゃんの勢いに気圧され黙ってしまっていたが、ここでようやく頭が追い付いた。自分が不幸かどうかはよく分からないが、鬼ののろいというのがなにかは分かりそうだった。
「行ってこいってことでいいのかな?」
「大丈夫、私も一緒に…」
いずちゃんが何か言いかけた時だった、何か大きな声が遠くから聞こえだした。
「なんだろうこれ?足音?」
事を察したようでいずちゃんは青ざめていた。
「あ、あきつねくん早く行って!やまのてっぺんは何処からでも見えるから!」
窓を開け何かとても焦った様子で急かし始めた。
「と、突然どうしたの?」
「大人達が来てるの!多分私が秋恒君に触ったことがバレたの!」
と、今度は僕にも聞こえる程の声が小屋に響いた。
「ほんとだってほんとに忌徒がガキ殴って小屋に引き釣りこんだんだよ!」
この不必要に大きな声はさっきの不良の弟分の物だった、どうやら自分達の行いを全部いずちゃんに押し付けるつもりだったらしい。
頭にきた、どれほど自分勝手な奴等だろう、忌徒の呪いにすべてを擦り付けているだけじゃないか。
「あきつねくん、やっぱり一人でいってくれるかな?」
さっきよりさらに暗い声でいずはそう言った、いずはこの後自分に起こるであろう事が何となく分かっていた、それを始めたできた友達に見せたくはなかった。
「な、なんでさ、僕今度こそあの不良にガツンと言って…」
「ダメなの!」
お互い譲らないという姿勢ではあったが、突然声を荒げたいずに秋恒は物怖じしてしまって言葉がでなかった、いずは悲しそうな声で続けた。
「村の人はあきつねくんが何を言っても私の呪いだ、私が脅したんだ。で片付けるの、呪いっていうのがどういうものかわからないからそんなのに時間かけてることは無いんだよ!」
何故かは分からないが今はこの子に従わなければならないような気がした。というより、いずちゃんは僕にこの場にいてほしくないというか、離れて欲しいというような事のようだった。
「いずちゃんの方は一人で大丈夫なの?」
いずはにっこりと微笑んだ。
「大丈夫だよ、いつものことだから」
目の奥がずきんとした、この女の子はずっとこんなのに耐えてきたのだろうか。
「…行けないよ」
声は少しずつ大きくなってきて、段々と恐怖が心を蝕んでいくなかでその言葉だけがふりしぼられた。
「なんで!?あきつねくんが不幸になるかもしれないんだよ!?」
とても馬鹿らしいことだったが、きっとこの子はそれがすべてだったんだろう。
「さっきも言ったじゃないか、友達が泣きながら心配してくれてるのに、不幸なことなんてあるもんか」
「え、泣いて…泣いてる?」
いずは知らぬまにボロボロと涙を流していた、しかしその涙が恐怖から来るものなのか秋恒が近くにいる安心からなのかは全く分かってはいなかった。
「なにより今からひどい目に合うかもしれない友達置いて自分だけ幸福になるよ!何てできる馬鹿どこにいるのさ?」
「あ、う、うえええ…」
今まで圧し殺していた何かが決壊して、いずは声を出して泣き出した。
泣きじゃくるいずの手に暖かい物が触れた。なにかはわからなかったが、それはとても安心できるものだった。
しかしそれが何かを理解したとき、いずは青ざめた。
「あきつねくん!?なんで私に触っているの!?」
僕はは顔をぐしゃぐしゃと擦るいずちゃんの手を握った。
「え、えと…落ち着くかなって?後もう一回触ったしもうノーカン、みたいな?」
これまで自分を汚物のように見る人間しか見たことがなかったいずには理解ができなかった、人の手の暖かさも、この気持ちも、あきつねの理論も。
色々な考えが頭をめぐった結果、いずは固まってしまった。
「あれ?ま、まあいいか、大人達もまえに居るっぽいし、いずちゃんはそこで待ってて?」
あきつねはいずの整えられていないぐしゃぐしゃな頭を撫で、立ち上がった。
「おい忌徒ー!麻田の坊主を返しやがれー!」
不良の弟分が叫んだのとほぼ同時にあきつねは扉を開け乗り出した。
大人は10人くらいいるだろうか、各々が棒状のものを持ち出してきていた。大人達は僕だけが出てきたことと、手当てされていることを驚いた。
「麻田さんとこのお孫さんだろ!?大丈夫だったかい!?」
おばあちゃん家の隣にすんでいるおじいさんが心配そうに声をかけた。
「ええ大丈夫です、そこの不良さんに殴られたところはいずちゃんが治療してくれました。」
大人達はいよいよ状況が飲み込めなくなりざわざわと混乱し始めた。こうなることはなんとなく予想できていたようで、弟分を押し退け兄貴分がでてきた。
「お前呪いのせいで混乱してるんだろ!そうじゃなけりゃいずにもっとひどい呪いをかけるぞって脅されてるんだ!俺は見たんだぜ!お前を殴った忌徒の嬉々とした顔をさあ!」
予想していたこととはいえ不良も少し焦っていた、あきつねはさっさと逃げ出すと思っていたからだ、そのせいで少し饒舌になっていたが、忌徒が悪いと確信している大人達を騙すには十分だった。
「そ、そうか…可哀想に…」
「麻田さんとこの僕、忌徒はどこに逃げたいんだい?」
「山の方か!?隣村の方か!?」
「いずちゃんなら中に居ますよ、連れてきましょうか?」
僕はそういって小屋の中の中に入った。
(なんなんだろうこれ、頬が暑い。)
いずは混乱していた、人とはじめて触れあったからなのか、それともあきつねだったからなのかは検討もつかない。が突然現れ心のなかを占拠していた不安や恐怖はあきつねに手を握られただけで無くなってしまった。そのかわりに夏の暑さとは違うやけるような暑さと安心感が広がっていた。
「いずちゃん」
立ち去ったはずのあきつねがそこに立っていた、いずはいよいよ訳がわからなくなっていた。
「え、あの、なんですか?」
あきつねは三度いずの手を握っていずを立ち上がらせた。
「だ、ダメだって!」
「ノーカンノーカン」
私の反応がそんなに面白いものだったのか、外の大人達がそんなに変だったのか、何故かあきつねくんは楽しそうだった。
いずと手を繋いで出てきたあきつねに、大人達も不良組も驚いた。
「き、君!?何をしてるんだ!?」
僕にはなんの変化も無いのに焦る大人を見ているうちにあきつねは段々ばからしくなってきていた。
「見て分かりましたか?僕は不幸になんてなってませんし、こんなのが怖くて脅されてると思いますか?」
これは完全に予想外だったようで、不良達は訳のわからない論で大人達に取り繕っていた。
「あれもきっと呪いだよ!きっと本当は洗脳する呪いだったんだよ!それで!それで!」
「治郎!もうやめな!」
大人達の後ろの方から、聞きなれた声が響いた。
「麻田の婆さん?」
男達をぐいぐいと掻き分け小さなおばあちゃんが顔を出した。
「昨日あきちゃんに怒られて色々と考えた矢先にこんな大事起こすなんて、我が孫ながらびっくりさね」
昨日の調子でヒステリック気味に怒られることを覚悟していたが、目の前のおばあちゃんはひどく落ち着いていた。
「昨日この子は言ったのさ、名前も付けてあげてないようなこの子とを全部知ったように語るな~ってね」
おばあちゃんはしゃがみ、僕といずちゃんの手をぎゅっと握った。
「ごめんな」
おばあちゃんはそれだけ呟き、僕たちから背を向けた。
「ほらお前ら!私は不幸になったか!?思想が歪んだが!?無いだろう!全部勇者様の詭弁だったんだよ!」
不良達は口をパクパクと動かした後、兄貴分の方が割れに帰った。
「じゃ、じゃあ坊主のその怪我はどう説明するんだ!おれたちゃやってねえぞ!」
「そうだね、10才の女の子にこんな傷がつけられるなら、あんたらじゃないだろうね」
「え?」
その場の全員が凍りついた、この村の伝承の通りなら不可能ではない、という共通認識が崩れいずはただの少女となっていた、だから不良の言葉が嘘だと気づかれてしまった。
「治郎、健太、後で話がある」
「だから俺達じゃねえって!そ、そうだ!あのガキがそう見せかけたんだ!こんな茶番劇で俺達が怒られるの見てそんな楽しいかよくずガキ!」
もう二人の言葉を誰も信じてはいなかった、大人達はいずとあきつねに深々と謝罪し、不良二人を引きずって小屋を後にして行った。
「あきつねくん…おばあさん…」
事の顛末が理解できないいずはただ呆然と立ち尽くしていた、のだがおばあさんのしわしわの手が触れられたと思ったら、大人達は不良と一緒に退散してしまったのだ、あまりの都合のよさに固まってしまっていた。
「あの、いずちゃん?大丈夫?変な顔になってるよ…?」
あきつねの言葉でばっと体が動きだし、顔は火が出そうな程暑くなっていた。
「だ、大丈夫!」
「こらあきちゃん!女の子に顔が変とか言うんじゃない!」
おばあちゃんがあきつねをぽかんと叩いた。痛いといいながらしゃがみこむあきつねを無視し、おばあちゃんはいずの方を向いた。
「ごめんな、村の風習のせいでこれまでお前にあんまりな仕打ちを受けさせちまって…」
「い、いいんですよ、私だって…おばあさんと同じ状況なら…」
いずはまた自分が泣いていることに気がついた、しかし今度はなぜ泣いているのかよくわかった、こんな仕打ちが終わるんだと、もう私のような子が現れることはないんだと、安堵の涙だった。
「結局おばあちゃんの鶴の一声で解決したから僕なにもしてない…」
「そんなことはないよ、おばあちゃんがこの子の目を見て話そうと思ったのもあきちゃんのおかげなんだから」
いずはおばあさんに続けとふぉろーしようとしたが、何を言おうにもそれがとても恥ずかしいものに思えて口から出すことができなかった。
「そ、そうかな?」
「あ、あきつねくんは頑張ってくれたよ!」
精一杯の言葉がこれでいずはなんとなく自分が情けなくなった。
その後いずはあきつねの家に招かれ、その後の事が決まるまで厄介になることになった。
つくつくぼうしの鳴く音が山の方から聞こえるなか、あきつねは迎えの車に荷物を積み込んでいた。
「じゃああきちゃん、また来るんだよ」
「うん!またね!」
「出雲も達者でね」
「おばあちゃんもお元気で!というか、私はほんとに村から出ても大丈夫なんですか…?」
「まだ言うのかね!?」
結局あの後忌徒もとい出雲は希望する人と握手なりで接触し夏の終わるまで、詰まる所秋恒達が帰るまで様子を見た。しかし誰も何かしら不幸なことが起きたなんて話は上がらなかった。
それでは親元へ帰りたい、と求めたが忌徒を小屋に押し込んだ罪の意識から、夫婦で心中していたことを聞かされた。二人の遺書には忌徒の本名は不思 出雲であること、忌まわしき月の夜に生んでしまったことを最後まで後悔していた事などが書かれており、それを読んだ出雲は人目も憚らず声をあげて泣いた。
その後親戚などを訪ねたが受け入れてくれそうな家はなくかった。それならという秋恒の提案により、出雲は村を出て秋恒達と一緒に暮らすことで話が落ち着いた。
母のボストンケースを積み込み終え迎えに来た父が笑った。
「いやー、まさか秋恒が忌徒を連れて帰るなんてなー」
父さんは僕と出雲ちゃんの頭をガシガシとぶっきらぼうに撫で回した。
「痛いよ父さん!っていうか、僕が言い出したこととはいえよく許したよね、お父さんもこの村の出身なのに」
「そうだな~、父さんはそういうよくわからん風習が嫌で村を出たからなぁ」
そこまで離すと父さんは忘れ物があったと言い、母さんとおばあちゃんを連れて家に入ってしまった。
二人きりになった秋恒と出雲の間でなんとなく沈黙が続き、思い付いたように出雲が話始めた。
「秋恒…じゃかなった、あきくん!」
「う、うん、何?」
出雲はボサボサだった髪を理容師の仕事をしている秋恒の母に整えられ、顔の痣もあまり目立たなくなっていたためか、秋恒には余計可愛らしくみえていた。そのせいなのか最近はあまり顔を見て話せていない。
「何からお礼を言えばいいのか分からないんだけど…本当に何から何まで全部あきくんがいなかったらなかったことだから!本当に本当にありがとう!」
「い、いや僕はなにもしてないよ!友達が攻められてたから違うよって言っただけで…」
出雲はぶんぶんと首を降った。
「このあいだまでの私は味方が一人もいなかったの、でもあきくんはお構いなしに味方になってくれたの、それは私にとってどんなに感謝してもしたりないことなんだ」
そうなんだとしか返せなくなっている秋恒に出雲は微笑み、手を握って自分の頬に当てた。
「いろんな人の手を握らせてもらったけど、あきくんの手が一番暖かくて安心するね。」
言った後に出雲自信もなんだか恥ずかしくなりその体制のまま黙りこんでいた所に母が覗きこんだ。
「二人とも、村の人の挨拶も済んだしそろそろ出発していいかしら?」
「「ううわぁ!?」」
突然声をかけられた二人はあわてた様子で振り返った。
「ぼ、ぼくは大丈夫だよ!」
「私も大丈夫です、よろしくお願いします!」
出雲の返事に父は不満そうな顔を浮かべた。
「出雲、僕たちはこれから一緒に暮らすんだから敬語は無しだよ」
「えっ、あ、はい!分かった!」
よろしい、と父さんと母さんは前の席へと乗り込んだ。
「それじゃあお義母さん、また来ますね。」
「ああ、待っとるよ」
車のエンジンがかかり、車と出雲が揺れ始めた。
「何度乗せてもらっても慣れません…これ…」
「耐えるんだ、まともな道にでれば幾分ましだから」
「は、はい!」
車はそんな調子で発進し、夕暮れの空の中を下っていった。
完全に一から小説?を書くのは初めてだったので、色々と残念かもしれませんが、ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます。
色々と説明不足で終わってしまっている気がしますが、許してください…。
性懲りもなくまた小説擬きを投稿することがあるかもしれません。その時もまた読んでいただけると喜びます。
10月16日
誤字等を修正しました。
三を書いてる途中で大幅にラストの展開を変更したんですよね…お陰で回収してない部分がチラホラ…別エンドでも作ろうかな…。




