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同じ制服を着た人たちが乗った電車に揺られながら、私は手に持った小説を読み進める。昨日三宮に寄り道した理由はこれを買うためであり、夜更かしをして2回読み終わっているけど、しっかりと頭に刻み込むために3週目の突入したところでした。
目的地の数駅前で人がたくさん乗り込んできました。私の前にはスーツ姿のおじさんが立ち、ジロジロと私を見てきます。何かおかしなところがあるかと少し服を調え、視線を手元の小説へと落としました。
がたん、と電車が揺れると同時におじさんが私に倒れこんできました。人がいっぱいなので仕方ないとは思いますが妙に鼻息は荒く、抱きかかえるようなポーズで私の髪を撫で始めました。顔はとても近く、もう少し倒れてこれば唇が触れ合いそうです。おじさんの胸元に手を当て少し離そうとするも、びくともしません。
「あ、あの?大丈夫ですか?」
「あぁ、ありがとう。ところでなんだけど、実はおじさんの」
「おじさんの……何?良ければあたしにも聞かせて欲しいんだけど」
目の前の人の声を遮るように、聞きなれた声がしました。凛とした声はその人の性格を現しているようですが、今回はそこに怒りが混じっているように思えます。
「いつまであたしの友達にしがみついているんですかね?そもそも倒れこむほどの揺れではなかったはずですし」
私とおじさんの間を誰かの右手が入り込み、そのままおじさんの顔を掴むと無理矢理起立させてしまいます。視界が広がった私の目に映るのは、私よりも少し背の高い、力強い目をした同じ制服の女の子でした。おじさんは痛みで小さくうめき声を上げておりますが、そんなもの何処吹く風と徐々に力を込めていくのが手のひらの動きで見てとれます。
「朱里ちゃん、私は大丈夫ですからあまりやりすぎないほうが……」
「あんたは優しすぎよ、今月入ってまだ1週間しか経ってないのに何回目よこれ。」
私は指折り数えていくが両手で数え始めた時点で朱里ちゃんはため息を吐いた。
「相変わらず無防備すぎるわよ柚子葉。あんた鏡で自分を見てるの?」
「え、もしかして寝癖ついてる?やだ恥ずかしい……」
「……あんたにこの手の話題は無意味だったわね、いい加減自分のこと理解しとかないと何かあったらどうすんの?。」
「朱里ちゃんか隆明君に助けてもらうかな?後祐介君」
「あたしたちがずっと側に入れるわけじゃないんだか」
こちらを見ていたはずの朱里ちゃんの顔が勢いよく明後日のほうへと向いた。頬には先程から顔を捕まれているおじさんの拳が突き刺さり、よろけそうになった体を一歩足を引いてバランスを取っていた。
「さっきから痛いんだよクソアマ、ちょっとこけただけでうだうだいちゃもんつけて人にアイアンクローしてくるんじゃねーぞ。」
「ふぅん、それなら一言謝ってとっとと退けばいいよな?それをいつまでも抱きついてるから間に入ったんじゃないか。」
右手で頬を擦り、おじさんを睨みつける朱里ちゃん。その左手はぐっと握り拳で、太ももを軽く何度も叩いております。いらついた時の癖なので私は慌てて間に入ると、おじさんに頭を下げました。
「申し訳ありません、私の友達が突然。もし良ければですがここでこのお話は終わりにいたしませんか?」
「はぁ?こっちは変な注目を浴びさせられたんだ、どう責任取ってくれるんだよ。」
「私に出来ることでしたらなんでもいたしますので……あ、私の名前は笠井柚子葉と申します。冠都学園第二高校3年D組に所属しております。」
自分の学園とクラスを述べると、先程まで声を荒げていたおじさんの顔が青ざめていきます。体は振るえ、歯の根が合わないとかカタカタと言う音が聞こえてきました。
「と、ということはそっちの女も。」
「ご明察。あたしが冠都学園第二高校3年D組、獅堂朱里。震えてるっていうことはあたしたちがどういう存在なのか理解してるわよね?」
意地の悪そうな笑みを浮かべる朱里ちゃん。艶やかな黒髪のロングポニーの先がうっすらと赤く染まっていくことにおじさんは気付いてしまった。
「あ、えっと、あの……俺、じゃなくて私が全面的に悪いので、どうかこの場はここで手打ちにしていただけると助かるのですが。」
おじさんの謝罪を聞き終えると同時に朱里ちゃんの右ストレートが顔面に刺さった。鼻血を出しながらもぺこぺこと頭を下げながら人ごみへと消え去っていくおじさんを申し訳なく思うものの、やはり触れられたことに関しては嫌悪感を抱いてしまい、自分の身を抱える。
これだけの騒動があったのに皆関わりたくないのか、電車の中は静まり返っていた。
「大丈夫?朱里ちゃん、ほっぺたは痛くない?」
鞄からウェットティシュを取り出し、殴られた箇所に優しく当てる。
「ん、これくらい大丈夫よ。それより柚子葉?学校には一緒に行こうって言ってたのになんで今日は先に行ったのよ。」
「寝坊しちゃって今日はいつもより出るのが遅くなったから、先に行っててってメールしたよ?」
「見たけど、待ってるから一緒に行こうって返事したじゃないの、見てないの?」
私は慌てて携帯を確認する。確かに家を出て少ししてからメールが返ってきていた。
すぐに謝るといいよと笑って許してくれて、二人並んで学園へと向かう。
他の生徒たちと一緒に電車を降りるとそこは山の中で、ここからちょっとした山登りをしなければいけない。それがこの学園のネックであり、学園側も分かっているのか途中で休憩所を設けるなどの対策が取られている。しかしバスなどの交通機関はない。
「この学校通ってたら卒業する頃には足腰がしっかりしてそうだな。」
「ダイエットにも効果的だね」
「あんた生まれてこの方ダイエットしたことないでしょうに。それでそのスタイルの良さなんだから羨ましいよ」
他愛ない会話で笑いながら登校する。一人で歩くと辛いが誰かといる時はすぐに校門へと辿り着ける。
私は朱里ちゃんと別れて屋上へと向かおうとすると、肩を捕まれる。
「ちょっと、隆明起こしにいくつもり?いい加減ほっときなさいよあんな屑」
心底嫌そうな顔をされ、私は少しむくれてしまった。昔はそうでもなかったのにこの学園に来た頃から朱里ちゃんは隆明君を目の敵のように扱う。それが私には嫌で仕方が無かった。
「そんな言い方しなくてもいいんじゃない?どうして幼馴染なのにそんな喧嘩腰になるの、私は二人ともに。」
「また”昔みたいに仲良くしてよ”って言うの?仲良くしてたのは中学の頃まで、あたし達も成長したんだから関係が変わるのは仕方ないことよ」
先程までの仲の良かった空気は四散し、不穏な雰囲気が漂ってくる。しかし私はここで引き下がりたくはなかった。
「それでも、朱里ちゃんの態度は急に変わりすぎだよ。前日まで一緒に笑ってたのに突然隆明君に暴力振るうようになって、今みたいな呼び方、酷いよ。せめて昔みたいに、普通に名前を呼び合ってよ……!」
熱くなってしまった私は泣きそうになるのを抑えながら訴える。辺りにいた生徒が何事かと眺めに来ていたがそれも関係ない。
しかし朱里ちゃんはつまらなさそうに私を見つめ、もう片方の手も肩へと置かれる。
「あんたの気持ちは分かってるよ。でも幼馴染だろうがあたし達の関係に口を突っ込むな。昔にゃ戻れないんだよ」
「そんな言い方しなくても、いいじゃない!」
「うーん、今日は白のレースに赤の紐か、どっちもセクシーなん履いてるんだな。」
聞き覚えのある声に少し熱が冷めると、スカートの中が涼しいことに気付く。朱里ちゃんと視線を合わせ、ゆっくりと下へと向けるとそこには、しゃがんだ状態で私と朱里ちゃんのスカートをめくって覗いている祐介君がいた。辺りには見えないように小さくめくっているものの、一人には見られていることに変わりはなく、顔が瞬時に真っ赤になるのが自分でも分かった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああ!」
「何をしとるんだこの変態があああああああああ!」
私の叫びと朱里ちゃんの怒号が響き渡り、二人の鉄拳が祐介君の頭へ振り落とされる。
小さな呻き声と共に、ゆっくりと前のめりに倒れこむ祐介君へ、追い討ちをかけるように朱里ちゃんが何度も足蹴にする。殺意の篭った視線をそのまま野次馬へと向けると、蟻の子を散らすようにそそくさと走り去り3人だけになった。
祐介君に手を貸して起き上がってもらうと、制服を軽くはたきながら悪びれずに笑う。
「あつつ……酷いじゃないか朱里、追い討ちかけるなんて。俺はただ二人のパンティーがどんなのか気になっただけなのに。」
「祐介、次目が覚めた時保健室にいるか、病院にいるか選べ。」
「二人の膝枕で目覚めることをご所望致します!こう、起き上がったら顔に柔らかいものが当たる感じで……あ、ごめん朱里には難しい注文だったか。」
哀れみを込めた目で視線を下ろした。同年代と比べてもあまり主張されない胸元を見つめる祐介君に、どうやら怒りが頂点に達したようで、握り拳が震えている。
「よーし、二度と目覚めないように徹底的にやってやろう。大丈夫、あたしの力を使えば証拠隠滅は問題ない。」
朱里ちゃんの髪が瞬時に赤に染まり、右手のひらを祐介君のほうへと向けられる。
「落ち着いて、流石に危ないよ朱里ちゃん。ほら祐介君も謝って。」
「おう、悪いな朱里。ところで話変わってすまんが時間大丈夫か?柚子葉は隆明の所に向かわないといけないんだろ?」
腕時計で確認すると、予鈴まで後5分ほどしかなかった。朱里ちゃんを一瞥すると、嫌そうな顔はしていたがそれ以上何かを言ってくるつもりはなさそう。
「二人に何があったか知らないけど、私にとっては隆明君も幼馴染だから。それにこれは日課みたいなものだもの。行ってくる。」
これ以上何か言われる前に釘を刺し、二人に手を振って隆明君のいる屋上へと歩みを進める。
「……昔に戻れないことくらい、あんた自身が一番理解してるでしょうが。」
呟くような声が聞こえたが、聞こえない振りをした。私は振り返ることなく階段を上がっていく。
私としては昔のように4人仲良くしたいのに、いがみ合いの原因が分からないから解決策も見つからない。
朱里ちゃんに聞いても先程のように嫌悪感を露わにし、隆明君に聞いてものらりくらりと会話を拒否してくるのみ。
答えの無い問題がぐるぐると頭を回っていると、屋上へと続く錆びた扉が見えたので全身を使って押し開く。そうでもしないと重すぎて開くことが出来なかった。




