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焼け跡の外苑

 火事が収まったC国首都。

冬も近く、抜けるような青空の下に乾いた寒風が吹き抜けていた。

宮城の外苑は焼けて何もなくなり殺風景になってしまった。

戦争はまだ続いていた。

ココジン姫は深く心を痛めた。

散歩するCinggis(チンギッス)帝国のクブレス皇帝(ハーン)は娘のココジン姫と、遠いヴェネティ星からやってきた怪しげなお気に入りの側近マルコと話していた。


「シャオマルコ。我が戦闘衛星を一発で破壊した衛星兵器を作ったのは本当にジパングに相違ないか?」


「陛下。間諜によれば、あれを作ったのはA国にあらず。さればジパング自身の他に、あのあたりにかように高度な武装衛星を打ち上げられる国はござりませぬ」


「ジパングの大学、研究機関にばらまきおいた間諜どもからも知らせは無かったのか」


「御意。ジパングの学者組織は元々愛国心の希薄な(やから)と思われて蚊帳の外、とのこと。宇宙計画に通じたるジパングの宇宙飛行士も今回はなぜかつんぼさじきなりき、との通報にござる」


「誰にも知られずいつごろどうやって予算を通し、作ったのか。遠い文明に毒されたジパングの国会は代議士どもが私利私欲で年中もめておって何も決められない、と聞いておるが」


あの文明に(さら)されたのはC国も同じだったのにジパングの方はハチャメチャに見える政治でありながらどういうわけか危機を乗り越えている。

昔はガチガチの体育会系だったジパングが一度大敗北を喫するとコロッと文化系に変貌し、おもいっきり軟弱者だったのに本性が解らない。


「伝説の古代より王朝が替わらぬ不思議な国にござる」


マルコが言えばココジン姫は東方遥かにジパングを望むように言った。


「不思議な地の不思議な国の不思議な人々」


娘の涙の本当の理由を知っていたハーンは胸が締め付けられる思いだった。

青年の送った根から翌年の春、誇らしげに咲いたのは紫色の花だった。


「臣マルコにも不可解であります。ジパングは〝民主主義〟という愚かな体制によってなんとまあ我らを跳ね返してしまいました」


C国の戦力はまだ残っていたがジパングの背後にいるものを考えると戦争目的がもはや達成できる見込みが無い。

ココジン姫は言った。


「消失した物はまた造れますが傷ついた人々の心は長く癒されません。富を生み出すはずだったものも手に入りません。ですから偉大な陛下、お父様……」


ハーンの眼に光るものがあった。


「わかった……マルコよ、征服した暁にはそちにかの地の金山を与えようと申したことがあったが、もはやその望みも叶わぬ。朕の望みも然り。粉骨砕身してくれたそちには朕の大切な宝物を与えよう」


この決断で巨大な国家の漂流は止まるだろう。



 マルコはハーンに宝物をやると言われて待ち望んだココジン姫を嫁にくれるのかと思い、心が湧きたった。

ところがハーンが与えたのは不老長寿の仙薬と言われる薬だった。

普通は皇族だけに与えられるというから確かに宝物に違いない。

おちょくられたか、と思う気持ちを抑えて喜んでひれ伏してありがたく頂くふりをしたがマルコにすればゴミだった。

一人になってから力まかせにゴミ箱に投げ捨てたが、見つかるとまずいと思いまた拾う自分が惨めだった。


後にマルコは丞相バヤンと対立し、結局一人で故郷の星に帰った。



 ハーンの停戦演説は長々と続き、相変わらず聞く人に解りにくいものだったが、貴族たちにも家族を失ったものが多く悲しみをぐっとこらえる者、涙する者さまざまだった。

その中で皇帝は今後は内政に力を注ぐ意を表した。


最後に無念の想いを込めて不正確ながら、有名詩人の傑作幻想詩を吟じた。


▽▽ ▽


   クブラカーンは命じたまえり

   荘厳な歓喜の宮殿をシャンドゥに建てよ

   そこには千古の丘と氷の洞窟と小川があり

   ……

   あの禍々しい渚に戦争を予言する遠き先祖の声が

   ……

   遥か高みの遠く高い空の上の

   輝く宮殿で衰えぬ陽光を浴びるアビシニアの娘は

   ダルシマーを奏で

   ……

   気を付けろ

   彼女の眼が輝き発する強い光に気を付けろ

   ……


△ △ △


 姿の見えない宇宙から脚の長い褐色のアビシニアの娘にじっと睨まれている気のする皇帝は撤退命令を出し戦争は終った。

ハーンは想い出深い夏宮を再建した。



その後、ココジン姫は遥か遠方の親族の統治する大国に嫁いで行き皇后(カトン)となった。

彼女の面影は凡庸詩人の凡作叙事詩の一部に残った。


▽▽ ▽


   地平線上紫花開く

   花を採る優しき人は強き武人

   健児(こんでい)は憧れざるをえず

   平静ではいられず 死なざるをえず


△△ △


C国民は姫の人柄を知って心を寄せたが遅すぎた。


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