和解
道路から下を覗くと、永遠の姿が見えた。
省吾は慣れた足取りで川への道を下る。
川原の砂利をシャリシャリと踏みしめながら省吾が近付くと、
永遠がこちらへ顔を向けた。
「あ……」
永遠の表情が固まった。
『よっ‼︎ 』
省吾が軽く手を上げた。
額にはまだ、ガーゼが貼られたままだ。
「えっと……」
永遠は謝らなければと思い口を開きかけた。
それを遮る様に、省吾が口を開いた。
『悪かったな。あのグローブ、永斗からのプレゼントだったんだって?
何にも知らなくて、変な事言っちまったな』
「僕も……ごめんなさい……」
『何が?』
「おでこの怪我……」
『ああ。こんなもん、擦り傷だ。気にすんな』
省吾が笑った。
永遠が黙って俯いていると、今まで永遠の身体で隠れて気がつかなかったが、
大きなカラスの姿が、省吾の目を釘付けにした。
胸元に白いV字の模様がある。
『お前……まさか、カースケ⁉︎』
「あ、そうか……省吾さんは、カースケを知ってるんだね。
おじいちゃんが、そう言ってた」
『う……うん……でも、カースケがまだ生きてたなんて……』
カースケがぶるっと身震いすると、黒コートの人間の姿に変わった。
『カースケ‼︎ 』
省吾がカースケに抱きついた。
「久しぶりだな、省吾!」
カースケがにっこりしながら言った。
『お前、全然変わらないな。俺がガキの頃のまんまだ……』
省吾の目に薄っすら涙が浮かんでいる。
「省吾は……あれだな、老けたな……」
カースケがまた微笑んだ。
『当たり前だ。時間は流れてるんだぞ』
「そりゃそうだ。俺だけが止まったままか……」
カースケが少し寂しそうに言った。
『永遠、どこでカースケに会ったんだ?』
「僕んちのベランダ。鯵フライを外へ捨てたら、カースケが……」
『お前さ、魚嫌いだからって、食べ物を粗末にするもんじゃない!』
省吾がムッとした。
「ごめんなさい……だって、最近鯵フライの頻度多くない?
省吾さんが好きだからって、母さんやたら作るじゃん!
僕、魚嫌いだって知ってるのに……」
『そういや、永斗も魚嫌いだったよな』カースケが言った。
『あ、本当だ。親子なんだな、永斗と、永遠は……』
省吾がしみじみと言った。
「当たり前じゃん‼︎」永遠が大声で叫んだ。
『俺の気が付かないところで美和ちゃんにも、変な気を使わせてたんだな……』
省吾は俯いた。
『これからは、あんまりメニューに出さないでって、美和ちゃんに言っとく』
「いいよ。別に……どうせカースケが食べるんだし……」
永遠がカースケの方をチラリと見た。
カースケは故意にあさっての方向を見て、目を合わさない様にしていた。
『それにしても、この場所で3人で話してると、永斗といた時の事を思いだすな……』
省吾の言葉に、
『実は俺も同じ事思ってた』
カースケもそう言って笑った。
笑った後、急に空気が静まり返った。
黙ったまま、何故か3人揃って青い空を見上げていた。
静寂を破ったのは永遠だ。
いきなり水面を蹴散らして、省吾に向かって水を掛けた。
『うわっ‼︎お前、こんな濡らして、どうやって帰るんだよ!』
永遠は大声で笑いながら2人に水を掛け続けた。
省吾とカースケも、川の中へ入って、ずぶ濡れになりながら参戦して来た。
興奮したカースケは例の如く、カラスに戻って、羽根をバタつかせながら暴れている。
すっかり水遊びを堪能した2人と1羽は、再び岩の上に座った。
カースケはぶるっとやれば、あっという間に羽根が乾くけど、
人間はそうはいかない。
「今夜、おじいちゃん家に泊めて貰えばいいじゃん」
永遠の提案に、省吾は黙って頷くしかなかった。




