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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
三章 商業国ストリア編 神を作ろうとする者達
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42話 眠れない夜

 窓からはうっすらと月明かりで出来た影が伸びている。部屋の明かりは無くとも、その光が室内を薄暗く照らす。

 窓から二列目に配置されているベットに入り、俺は寝ているが。その目は閉じていない。


「寝れない……」


 自分が聞こえる程度の音量でボソッと呟く。

 エルヴィーナに会った後、帰ったころには時刻は夜中だった。そして明日に備えて寝るために、今こうしてベットに潜っているわけだが。


「眠くないなぁ」


 全く眠気がないため、寝れない状態に陥っている。寝相を変えたり、枕を裏返したり、羊を数えたり、天井の木目を数えたりしているが眠れない。

 この時、俺はエルヴィーナの言っていたあることを思い出す。


「彼のようになってほしくない……ね」


 一体どういうことだろうか。俺のように、誰かが神の子を助けようとしていたのだろうか。

 その言葉から、その人はきっと助けることが出来なかった。この世界の運命に勝てなかったのだろう。


「俺は……出来るのか? この世界に打ち勝ち、あいつらを運命から解放することが」


 言葉にすればするほど不安が心の中に黒く溜まっていく。

 今までだってそうだ、俺は誰かに支えられて助けてきた。それが無ければ誰も助けることなんて出来ない。ただの力を持つ少年にすぎない。

 不安な内容が頭の中をグルグルと駆け巡る中、突然窓際から声が聞こえる。


「起きてるの?」


 頭を少しずらして横を見れば、寝巻き姿のリリナがベットから上半身を起こし気味でこちらを見ていた。

 夜の明かりをバックに、映るその姿が色っぽさを漂わせる。


「起こしちまったか、悪い」


「ううん、私も寝れなかったから」


 どうやら俺の独り言で起きたわけではないようだ。二人して眠れないなんて珍しい。


「なにか聞こえたけど、なにしてたの?」


「ちょっと考え事だ」


 俺だけに聞こえる音量にしたつもりだったけど、ちょっと聞こえてたのか。

 するとリリナが身を少し乗り出すように布団から少し出てくる。


「ねえねえ、そっち行ってもいい?」


「……そうだな、寝れないしちょっと話すか」


 布団から出ると、ベットから足を出し腰掛ける。その横にリリナがやってきて座る。

 隣にリリナがやってきてから数秒、窓から見える夜の景色を二人でボーと見ていた。しばらくして俺からその沈黙を破るように喋る。


「お前と会って、もう一ヶ月は経とうとしてるんだな」


 よくよく考えると早いもんだ。あっという間だったから。


「本当だね、それに沢山仲間も増えた」


 当初はリリナとリンの三人だけだった。それがシェリア、シュエ、オッサン、アルマ。今じゃ7人だ。

 それに最初はリリナだけを守ると思っていたのに、気づけば世界を変えようとまでしている。


「悪いな、初めはお前を守るって言ったのに。こんなことになって」


 この旅は世界の神の子を救うためにしている。全体的に見ればそれはリリナも助けているように見えるが、連れまわして危険にさらしているのは違いない。それにこの旅は、俺の我侭のようなものだ。


「私は気にしてないよ。それに――」


 リリナはその青い瞳で俺を見上げると、優しい顔で喋る。


「――私は零がいるならどこへでも行くよ」


「どこへでもか、そりゃ俺の台詞だぞ」


 俺はその青い頭に手を乗せてそう喋る。

 一度だって忘れたことは無い。こいつに命を救われたのが俺の物語の始まりだったから。俺の命はこいつの物だから、だからこいつがどこへ行こうと、傍にいてやる。

 この一ヶ月という短いようで長い間だってけど、それだけの間で俺達の間には確かに絆が出来ていた。信頼が出来るのか、リリナに俺は語りだす。


「俺は不安なんだ」


 窓から見える暗闇を見ながらそう呟く。


「お前らを助けられるのか。お前らが安心して暮らせる世界に出来るのかって」


 今まで出会った多くの人に言われてきた。俺がしていることは世界を敵に回すことだと。

 その場では出来ると思うが、いざ一人になり冷静になると、途端に不安の波が押し寄せて心の中を不安で埋まってしまう。


「こうしてる間にも多くの子供達が実験に使われ、命を失ってると思うと余計に不安なんだ」


 必ずしも世界中の子供達を一人残らず救えるとは思ってはいない。それは絶対に不可能だからだ。

 でも不可能だとわかっていても、悔しいし悲しい。俺の力で救えるかもしれないと思うと、自分の無力さを呪いたくなる。

 自分がしていることの、重大さや責任が大きなものだと、身に沁みて感じた。

 悲しそうな瞳で語る俺を見て、リリナがそっと俺の手に、自身の小さな手を乗せる。


「私言ったよね? 零が辛い時は絶対に傍にいるって。だから不安なときは私を頼って、零の不安を受け止めるから」


 その小さな手は、俺の不安を消すように感じた。


「だから不安に惑わされないで、安心して零が信じる道を向いて」


 本当にリリナが11歳なのかと思うような言動だった。

 でもこいつは俺を信頼しているからこそ言ってくれたことなんだろう、同時に俺もこいつを信頼しているから喋れたんだと思う。流石にこんな情けない内容をリンやシェリアに話す勇気は無い。


「お前がいて……本当によかったよ」


「ヘヘ、どういたしまして」


 さっきまであった心を渦巻く黒いものは無くなった。そして安心して眠気が出てきたのか欠伸をする。


「そろそろ寝るか?」


「そうだね」


 するとリリナは俺の裾をクイと引っ張る。


「ねえ一緒に寝ちゃだめ?」


 上目遣いでそう呟く。夜の光に照らされて色っぽさが増し、さらに夜というのもあってか。妙にリリナが少女ではなく女性に見える。

 その姿に一瞬固まってしまい、息を呑んでしまうのがわかった。


「あれ? なんで顔赤いの?」


「赤くなんかないぞ!」


 あ、これは絶対に今こいつを女の子として意識してる。いつもだったら軽くあしらうのにどうしたんだ俺は。

 息を整えて心臓の鼓動を落ち着かせる。しかしリリナの攻撃は終わらない。


「それで、だめ?」


「うっ……!」


 破壊力満載の顔に息が詰まる。ああーもうどうにでもなれ。


「わかったよ……いいぞ」


 投げ槍の気持ちでそう答えた。リリナの顔がまるで花が咲き乱れたように笑顔になる。

 俺は枕元へ移動して布団に入る。リリナも俺の横に来ると中へ入っていく。


「おい、もうちょい離れてくれ」


「やだ、もっと近づく」


 俺の言葉とは真逆に密着しだす。俺の肩を枕にする様に脇にくっ付く。あとわざとなのか、足を絡めてくる。


「おいわざとか? わざとだよな?」


「そうじゃなきゃしないけど?」


「認めるのかよ……」


 深くため息をしながら、もはや諦めた様子で答える。


「我慢できないなら襲ってもいいよ?」


 顔を赤らめながら、胸元から俺を見上げる。おまけにチラッと寝巻きを露出させ肌をあらわにする。そんな無駄知識どこで覚えたんだ。


「アホか、俺はそんなお子様には反応しねーよ。7年後に出直せ」


 そう答えるとムスーと膨れっ面で俺を見る。

 これがあるから怖いんだよなぁこいつ。リリナはこうやって二人になると、普段はしないような事を平気で言ってくるし、実行してくる。だからある意味怖い。


「そうだよねー胸が大きいほうがいいよね?」


「なんでそうなるんだよ」


「私これでもシェリアよりはあるのに……それでも駄目なの?」


 腕に込める力を上げて、胸を身体に押し当てるようにする。おいマジで止めろ。

 確かにほのかに柔らかい感触が……ってそうじゃねえ、このままだと割と本気で理性がぶっとびそうなので頭にチョップする。

 チョップのおかげで、誘惑攻撃は収まる。


「痛い……」


「お前なぁ、もっと身体は大切にしろ。それにまだお前には早い」


 全くリリナといい、あいつらといい。どうしてこうもませてるんだか……あと誘惑をする対象も間違ってるし。

 膨れた顔でブツブツと文句言うリリナ。


「だってこうでもしないと気づかないし……それに事実さえ作ればこっちのものだし……」


「なんか後半恐ろしい単語が聞こえた気がするんだけど?」


「気のせいだよ」


「誤魔化したつもりか?」


 はぁ、もうなんでもいいや。今なに言っても意味なさそうだし。

 チョップ後は特に何かしてくることもなく、じっと大人しくしている。まあ相変わらず足などの体勢は変わらないけども。


「とにかく寝ろ。あと変な事したらもう寝ないからな」


「……零って……結構ヘタレだよね」


「よし、金輪際寝ないからな」


「嘘だよ? 嘘だからそれはやめて」


 そんなに一緒に寝たいのかよ。そして数分の沈黙が流れる。


「私ね、今幸せだよ」


 俺の頬を見るようにそう呟く。リリナが喋る度に吐息が触れる。


「だってね、こうやって零と一緒にいられるから」


 こいつの顔は幸せそうで、顔を赤らめた状態でそう言った。なんで俺といるだけでこんな顔が出来るんだろうか?

 俺にはまだそれを理解出来なかった。ただ俺も、こうやって一緒にいることが嫌ではないのは確かだった。そして数十秒の間を空けて俺も答える。


「俺も……お前といるとなんだか、暖かいし、安心するな」


 すると寝息のような、呼吸の音が聞こえる。横を見ると、いつの間にかリリナは夢の世界へと意識を沈ませていた。

 そんな可愛い寝顔を見て、フフッと笑う。その寝顔を見ているといつの間にか俺も意識が暗くなり、眠りについた。


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