41話 変人研究者との出会い
賑やかだった街も静けさが漂いだし、人通りが少なくなり始める時間帯へと変わる。街中は街灯で照らされ始め、街を照らす。
ファルガのいう、ギルドの資料係とやらに会うために、その場所へ移動中だ。メンバーは俺、リリナ、シェリア、ファルガの四人。アルマは下手に外に出て見つかると厄介なので宿で待機、そしてリンとシュエで護衛をするような形だ。
「よし着いたぞ」
ファルガに案内されて来たのはとある建物。
レンガで頑丈に作られた建物で、古い図書館のような感じを漂わせる。どうやらここがファルガの友人がいる場所らしい。
「古そうな建物だね」
古い屋敷のような建物の全体を下からゆっくりと見上げていくように見ると、リリナが呟く。
「あいつはこんな場所が好きでな、困った奴だよ」
余程変人なのか、建物を眺めながらため息をつくファルガ。
そして、扉の取っ手をとると建物の中へと入っていく。俺達もファルガに続き中に入る。
「なんだここ?」
中に入ってまず視界と飛んできたのは無数の本棚と、床に積まれる本の山。そして奥にはビーカーや試験管、人体模型などがチラッと見える。照明は天井からぶら下がるライトが数個だけで、薄暗く室内を照らす。それがまた不気味だ。
「まるで理科室と図書室を合わせた感じだな」
率直な感想としてはそう感じた。
シェリアは興味心身で一人で歩いていき、近くにある本棚にある本を掴んで見ている。
「難しい本ばっかりだねー」
ページを少しめくってから、あとはパラパラ漫画の如く流すようにページを送る。そして無言で本を棚にしまう。
俺も一冊取って見てみるが、うーむわからん。文字はまだ完璧に読めないから何かいてあるかわからないや。まだまだ勉強不足だと痛感しながら本を戻す。
するとファルガは突然叫びだす。
「エルヴィーナ? いたら返事しろ!」
エルヴィーナという名前なのか、その人を探すように叫ぶ。
叫んでから数十秒、返事は返ってこない。静まり返る室内。返事の代わりに積まれた本の一冊が床にパサッと落ちただけだ。
「あいつ、どっかで何かに集中してるか、寝てるな」
どうやら今回のようなことは初めてではないらしい。諦めたような顔をすると、本棚の間を歩いていき、奥へ目指す。
「夜なら起きてるんじゃないのか?」
「そのはずなんだが、あいつの生活は不規則でな」
苦笑いするように答えるファルガ。俺もその人を探すように辺りを見渡す。だが人一人いない。
本棚の間をいくつか進んでいくと、奥には研究しているような場所へ着く。ビーカーの中に入った謎の液体。フラスコや試験管など理科室にありそうな物。挙句の果てには、何かのサンプルなのか青い液体の中に浮かぶ妙な生物。
その気持ち悪い生物を見て、嫌そうな声を出すリリナとシェリア。
「うわー何これ」
「魔物かな?」
シェリアはそのガラスを突っつきながら気味悪そうに喋る。気持ち悪くても興味はあるんだな。怖いものが見たくなるみたいなやつかな?
しかしこれだけ見てると本当に何やってんだここの人? 資料係なんて言うもんだから、てっきり知的なイメージがあったが。
「あいつどこにいやがる」
頭を掻きながら首を傾げるファルガ。
「ねえリリナ見て見て、がい骨だ」
「頭だね、模型?」
一方途方に暮れている俺達とは違い、未知の空間でキャッキャッと騒ぎながら楽しむ二人。
「いやーそれは本物さ」
聞きなれない声がどこからともなく聞こえる。そして次の瞬間、リリナとシェリアの肩に腕スルスルと乗っかる。
「ようこそ……小さなお客さん」
その声を聞いたと同時に、二人は青ざめた顔で首に回された白い腕を見る。そしてゆっくりと後ろを振り向く。
「「キャァァァァァァァ!!」」
二人の恐怖の断末魔が室内にサイレンのように鳴り響く。
白い腕を振り払い、恐怖に染まった顔で俺の元へ全力で走ると、二人ともコートの中へ潜るように隠れる。ガタガタとまるで動物のように震える二人。
その一連の様子を見ていたのか、ファルガがため息をつきながら俺の横を通る。
「全く、お前はもうちょっと普通に出てこれないのか?」
「すまない、ずいぶん可愛らしい客人でついね」
笑いながら答える白衣を羽織った人。反省している様子は見られない、そしてどうやら今回のような現れ方も初めてじゃないらしい。
この人はパーマを少しかけたような長い黒髪に、白衣を羽織、ジーンズを履いている。髪の毛の至る場所が跳ねたりしてボサボサ。目の下にはくまがある。
女の人だったのか。男性だと思っていたので意外な結果に驚いた。
「こいつだ神城。ギルドの資料係にして責任者。エルヴィーナだ」
「エルヴィーナ・アルベルトだ、よろしくコートの客人に、小さな客人」
先ほどの実験をしていた場所を片付けると、俺達はその周りにあった椅子に腰掛ける。
リリナとシェリアはまだ怯えているようで、ソファーに二人で身を寄せるように座っている。
「なるほど、なるほど。君は厄介な子を連れてきたねーファルガ」
二人を眺めるように見ると、からかう口調でファルガに対して喋る。
「何が言いたい?」
「一体君はどこで攫ってきたんだい?」
「アホか。俺じゃねえ、こいつだ」
ファルガは適当にあしらうと、俺にその役目を押し付けるように目線を送る。
そしてエルヴィーナはニヤッと、新しい玩具を見つけたような笑みを浮かべる。
「なるほど、では君が攫ったのか。少女を二人も攫うなんて君はロリコンかな?」
「その攫った設定やめてくれ。というか勝手に分析すんな、あとロリコンじゃない」
「ふむ、中々いいツッコミだ。慣れているのかな?」
「慣れたくなかったけどな」
今までのコントの様子を思い浮かべながらそう喋る。もうなんというか言われなれた。
「おい本題に入ってもいいか?」
そのコントを中断させるようにファルガが口を挟む。
「神の子に関することを言えばいいのかな?」
俺とリリナ達はその一言に驚愕の表情をする。まだ何も言ってないのにわかるのか?
それに神の子とピンポイントで当てるなんて、この人只者じゃないな。
「流石だ。お前の言うとおり、そのことについて聞きたい」
「ふむ、どうやら……君は本当に厄介な子を連れてきたみたいだ」
二人を再び眺める。その目つきはさっきとは違い真剣そのもので、学者と思わせる雰囲気だ。
そして俺はエルヴィーナに聞きたいことを聞き始める。神の子が安心して暮らせる場所。どうしたら神の子の運命から逃れられるか。他の神の子の居場所など。
質問に小さくうなずきを入れながら聞くエルヴィーナ。
「君が言いたいことは、だいたいわかったよ」
エルヴィーナは俺の質問に一つ一つ、丁寧に答えるように喋る。
「まず安心して暮らせる場所だが……現状このレイスブルーに彼女達が安心して暮らせる場所は0に等しい」
どこに行っても誰かにその身柄を狙われるわけか。その嫌な報告を聞いてしまい、気が落ちていくのがわかった。
「二つ目の神の子の運命は、これも無理だ。今のところ神の子の役目を終えるのは、その子が死ぬ以外確認されていない」
これも残酷な答えだ。世界が決めた運命からは逃れられない。そういうことなんだろう。
「そして最後の他の子の居場所、これは私に心当たりがある。どうも聖都は神の子が国を治めているらしくてね」
「神の子が国を?」
「聖都はあまり情報を漏らさないから、詳しいことはわからないが、そこには三人の子が守護しているらしいよ」
三人も神の子がいる国。そして神の子が治める国。どうやらその聖都ってところに行けば何かわかるかもしれないな。
「それに聖都は神の子を認め、信仰する国家だからね。彼女達もそこならここより安全じゃないかな?」
いい情報を聞けてよかったと、つい顔の筋肉が緩んでしまう。
するとエルヴィーナは立ち上がる。
「それで私も君達に情報を提供したんだ……その対価が欲しいかな?」
「金か?」
「いやいや、ちょーとその子達を見せてくれればいいさ」
その一言にビクッと身体を震わせ、怯えた目で俺を見る。
目線が助けてと言っているのがよくわかる。
「神城、こいつは実験したりはしないから安心しろ」
フォローをするようにファルガが言う。
「そうだよ、私はそんな可哀想なことはしないさ。ただちょっと観察するだけだから」
その目は好奇心に溢れた目つきで、今すぐにでも二人に飛びつきそうだ。
「……諦めろ二人とも」
無情な一言に、ショックを受ける二人。次の瞬間二人から罵声が飛んでくる。
「薄情者!」
「鬼! 悪魔!」
結構精神的に堪えるなぁこれ。だが安心しろお前ら。きっとこの人は大丈夫だから……多分。
エルヴィーナはニッコリと満面の笑みを咲かせる。そして一言礼をすると二人の前に一瞬で近づく。
「「ヒッ!!」」
お互い抱きつきながらカタカタと震える。
「さてーそれじゃあ研究タイムだね」
どんどん白衣の女が近づくにつれてその顔が青くなっていく。そこまで怖いのかよ。
「「イヤァァァ!」」
再び室内に二人の叫び声が響き渡った。
まあそれからとくに何かするわけでもなく、身長や体重。魔力の測定なんかをしただけで何もしなかった。
意外な結果に困惑する二人だったが、落ち着きを取り戻す。
「それじゃあ君達の髪の毛を一本もらえないかな?」
「な、何するの?」
怯えた様子でリリナが訊く。
「いやーサンプルだよ。神の子の髪の毛なんて貴重だからねー」
もはや諦めたようにため息をついて、自身の髪を一本抜くと差し出す。シェリアは嫌そうな顔をしていたが、リリナが差し出したのを見て、諦めたのか髪を抜く。
それを受け取ると、嬉しそうな表情で二人を見ると「ありがとう」と言い、それを持ってその場を離れる。
「ああ、これで終わりだよ。怖い思いをさせてすまなかったね」
近くの棚にしまいながらそう喋る。二人は肩の力が抜けたようにヘナヘナとソファに座り込む。
あれ? そういえばこの人どうして神の子だってわかった? 今更ながら疑問が頭をよぎる。
「なあ、なんでリリナ達が神の子だってわかった?」
「うーん、勘もあるが。一番は微弱ながら神力を感じたからかな」
「あんたわかるのか?」
「私は人より魔力の探知が得意でね。神力も感じ取れるぐらい敏感なんだよ」
何気ない顔で答えたが、素直にすごいと感じた。
神力は一般人では感じ取れない力だ、強大な力は感じるが、力も使っていない微弱な神力を感じとるなんてのは機械でも使わないと無理だろう。
それなのにこの人は、やはり只者じゃないな。
するとファルガが、壁に掛けられた時計を見ると俺に向けて喋る。
「おっとこんな時間か、おい神城そろそろ戻るぞ」
「そんな時間か。まだ訊きたいことあったけど仕方ないな」
腰をあげると、俺はくたびれている二人の下へ行く。
「ほら、行くぞ」
「動けないー」
「疲れた……」
どうやら慢心創意のご様子だ。ぐったりとした二人を見て、仕方ないと思いあることを実行する。
まあこいつらには苦労かけたし、今回はしょうがないな。俺は屈むと、背負う体勢を作る。
「今日は特別だ、二人とも乗れ」
その一言にパァと笑顔が咲く。容赦なく俺の背中に飛び乗る二人。
あ、これ結構身体にくるな。流石に二人は結構負担がある。
そんな様子をジーと眺めるエルヴィーナ。フーンと何か納得したような顔をする。
「なるほど、君は本当に少女が大好きなんだな」
「その誤解を招く言い方止めてくれ……」
「今もその腕に伝わる幼女の尻の感触を堪能しているんだろう?」
「してねえよ!」
白衣が揺れるほどクスクスと笑うエルヴィーナ。この人は人をからかうのが好きみたいだな。
すると立ち上がり、俺の元へ近づく。そしてなにやらある黒い腕輪をリリナに渡す。
「神城君。君は魔力が無いからね。それではいつか限界が来るだろうからね、これを使ってくれ」
「なんだこれ?」
「それは魔力を一時的に上昇させる魔道具だ、使えば身体能力の向上なんかが出来る。それに魔力を溜めておけば使えるはずさ」
「なんで俺に……」
「この子達の希望だからだよ……彼のようになってほしくないからね君は」
悲しそうに呟く。俺にはその彼と言う人物がわからなかった。それが恋人か家族か友達だったのか。それ以上は口に出さなかった。
するとファルガが入り口で俺達を呼ぶように叫ぶ。まあ考えるのはあとかな。俺はその場を後にして去っていく。
「せいぜい、背中にあたる小さな胸の感触で味わいながら帰りたまえ」
「そんな変態なこと考えながら帰らねえよ!」
最後の最後でツッコミを入れる。あの人絶対に俺を玩具だと思ってるな。
深くため息をつきながら、屋敷を出て行った。
客人が去り、静かになった室内。
白衣を着た女性はフウと一息つくと、ソファにもたれるように座る。そして何かを思い出すように天井を見上げる。
「神の子を助けるか……神城君、それは果てしなく辛い道だぞ。いずれ君も知るだろう、この世界の運命というやつを」
天井を見上げたまま独り言のように呟く。
「本当に君は彼と似ているよ。シルファス君と本当に……さて、君はどうなるのかな? シルファス君のように絶望に染まるか。少女達の希望になるのか」
フフッと笑みを作る。
「果たして君はどちらだろうね?」




