40話 理由。そして街の闇
部屋においてあるベットに腰掛けるアルマ。そのその横にシュエ、もう一つのベットにリリナとシェリアがいる。俺は窓の横の壁にもたれながら見ている。
あの出来事のあと、ひとまず安全と思われる宿へ移動した。ここならリン達も来るだろうし、落ち着いて話せると思ったからだ。
「さて、では何から話しましょうか?」
周りを見渡しながらそう話す。質問してけばいいのか?
そう考えてると、シェリアが先陣をきるように口を開ける。
「なんでアルマは追いかけられてたの?」
シェリアは身をゆりかごのようにゆっくりと揺らしながら訊く。
「それは私が研究所から逃走したから、追ってきたんです」
研究所から逃走、ますますリリナみたいな展開だな。
そういえば、奴らは実験とか言っていた。俺はそのことについて訊いてみる。
「実験とか我社とか言ってたよなあいつら……何か神力の研究をしてるのか?」
「……あの人達は、神の子になれなかった子達。それを引き取って、神力を宿す実験をしてるんです」
「神の子になれなかった子……見放された子ですね?」
補足をいれるように隣のシュエがアルマを見る。
見放された子。神の子になれなかった神の器を指す、差別的な言葉なんだろう。その言葉が耳に入っただけで、まるで心が締めるつけられたように痛かった。
シュエの補足にうなずき、続けて説明をする。
「あの人達。いえ、あの会社は、私のような子に神力を注入し軍事兵器を作ろうとしています」
「でも神力って身体に有害だろ? ガルム帝国の神兵でさえ危険だぞ? それなのに……わざわざ子供達を使う理由は何だ?」
少量の神力でさえ、人の理性を奪うほどの力だ。大人でさえそうなる危険があるのに、子供達が耐えられるのか?
「子供の身体には神力が馴染みやすいんです、神の子が11歳の子供から選ばれるように」
確かに神の子は膨大な量の神力を保有しているがなんともない。ならその神の子に選ばれるはずの、神の器である子供達も神力の耐性があるわけか。
「でも馴染みやすいだけです。私は施設で見たんです……人から異型の生物へと変わる子達を」
馴染むといっても限界があるのか。だから神力に耐えられない子は、あのバートみたく人ではなくなってしまう。
無意識に拳に力が入った。子供達を実験動物のように扱うそいつらが許せなかった。
「見ていられなかったんです! みんなを助けたかった! でも……私一人じゃどうにもできなくて!」
アルマの手が震えて、スカートを握るように力を入れる。悔しさ、悲しさがその姿からは痛いほど伝わった。
「だから……誰かに助けを求めようと、街に逃げたわけか」
「でも……誰も信じてくれませんでした。だって相手はストリアを支えるカイダール社ですから……」
アルマの口から出た、企業の名前カイダール。確かオッサンがこの街の大企業って言ってたな。兵器、武器を中心に作ってるんだっけ。
それで俺達が訊いたときも、信じてもらえないと思い込んで逃げたわけか。
このとき何か不思議に思ったのか、シェリアがあることを訊く。
「ねえ? その子達と反乱を起こそうとか思わなかったの? 神力を持ってるなら結構簡単だと思うけど」
確かにそう言われてみればそうだ。あれだけの力を持っているなら十分戦えると思うが。あの時も逃げずに戦えば楽勝で勝てるはずだった。
「最初はそれも考えました。でも出来ないんです」
アルマはそう言うと、服をずらし始めると右肩を露出させる。そこに血のような赤い文字で1と書かれた数字。
「この刻印がある限り、力を一定以上使えないんです。使おうとすると、身体が痺れるように痛んで、動けなくなるんです」
悲しそうに言いながら服を戻す。
だから反乱も出来ないわけか。それに推測だが、なんらかの魔法であれを強制的に発動させて、無力化もするこも出来そうだ。そうでなければ、追い詰められたりなんかしないだろう。
「何人かはそれでも逆らいました。でもみんな捕まって、一人残らず――殺されたんです」
殺された光景を思い出すように、震えながら答えた。
逆らえば殺される。かといって逆らわなくても実験動物にされる。どちらも最悪の選択だ。
ガルム帝国も腐っていたが、この国もとことん腐ってる。子供の命を弄んでるのが許せない。
するとリリナがこの実験の本題ともいえることを訊く。
「神力を注入するってことは、その元である神の子もいるんだよね?」
その言葉にアルマは俯き、ゆっくりとうなずく。そしてアルマから訊かされる内容は衝撃の事実でもあった。
「7番目の神の子、そして私の妹……テラ・レイナードです」
妹が神の子という事実を訊かされ、全員の表情が固まる。
「そう……だったのか」
だからこいつは、妹を捕らえられた子達を助けるために逃げ出して、必死に助けを求めたのか。
神の子の寿命は短い、1年から3年しか生きられないらしいからな。だがその原因は神力を吸い取られているという背景があるからだ。このまま妹が捕まっていると、寿命が短くなるのを知っているのだろう。
「あの子の力で、みんなが傷つき、姿を変えていくのが耐えられなかった。それにあの子自身、そのせいで悲しい思いをしています……」
そしてアルマはベットから立ち上がる。そしてその髪を揺らしながら俺達に頭を下げる。
「お願いします! みんなを、妹を助けるために力を貸してください! お礼なら一生かけて返します! ですからどうか――」
「――何言ってんだ?」
その一言に、悲しそうな顔をしながら頭を上げる。
「そう……ですよね。国に戦いを挑むようなものですから、当たり前ですよね……すいませ――」
「だから、何言ってんだよ?」
「え? だって断るんじゃ……」
「断る理由がないけど?」
キョトンとした顔で俺を見る。
だって俺は神の子を助ける、子供達を助けるために旅をするって決めた。だから断る理由が見当たらない。
「でも……この子達にも危険が及びますよ?」
その言葉に反論するように、リリナ達が喋る。
「大丈夫。私達には零がいるから、絶対に助けてくれるもん」
「だよね。それに零君なら負けないって信じてるし!」
過大評価してくれるなお前ら。まあ信頼してくれて嬉しいよ。
そしてため息をつくと、間をおいてアルマに言う。
「それに言っただろ? 俺達は神の子を助けるために旅をしてるって。それに神の子だけじゃない、この世界の子供達も救いたいって思ってる」
喋っているとアルマの目が潤むように涙が溜まっているのがわかった。
「だから、お前を助けた時から俺の心は決まってたぞ」
この言葉を言い終えた瞬間、アルマの頬に川が出来たように、涙が流れた。
そしてその嬉しさの表れなのか、リリナ達のいるベットを飛び越えるように飛んでくる。突然の出来事に対応できず、そのまま壁に押しつぶされるようになる。
「ありがとう……! 本当にありがとうございます……!」
胸で泣きじゃくるアルマの頭に手をポンと乗せる。初めて信じてくれて、そして助けると言ってくれて嬉しいのだろう。
あとこんなときに不謹慎なんだけどさ、こいつの柔らかい部分が押し当てられて恥ずかしいんだけど。
それと向こうの三人の眼つきが徐々に変化してて怖いんだけど。
「……と、とりあえず離れてくれ」
一応言ってみるが、駄目だ聞こえてないな。
三人が怖くなってきたので、とりあえずアルマを引き剥がすように離す。
「すみません、私嬉しすぎてつい」
「そ、そうか。お前なりの表現だったんだな」
大胆な表現だなあ。まあ色々と嬉しかったけども。普段味わえないような感じがあったので。
「零って胸の大きい人がいいのかな?」
「でもリンは零君は私達みたいな子が好きって言ってたよ」
何人の好み探ってんだお前ら。というかリン……お前、人をなんだと思ってやがる。あとで文句を言わないとな。
するとシュエがリリナとシェリアの胸を見て、ホッと一息をする。
「私は大丈夫そうですね」
その様子を見て二人が舌打ちをしながら睨む。
「その勝ち誇った笑みがむかつく……」
「焼いてやろうか?」
「お前ら? その内容は洒落にならないから止めてくれ」
牙をむき出している二人の狂犬を落ち着かせる。その様子を見てクスクスと笑うアルマ。
おーいアルマさん? 多分だけどこうなった元凶あなたですよ?
「みなさん楽しそうですね」
「そう見えるか?」
「ええ、とても」
まあそう見えるのかな? 睨みあい不可視の火花が散っている三人の様子を見てそう思う。
さっきまで暗かった表情のアルマが笑ってくれて嬉しかった。この表情を悲しみに染めないためにも、俺は捕らえられている子供達を助けるんだ。
窓際のカーテンがオレンジ色に染まりだし、ベットには赤い日光の影が伸びている。
先ほどの部屋は変わらないが、さっきと違うのはリンとファルガが用事を終えて戻っている事だ。帰ってきた二人にはアルマを入れた説明をした。
「だいたい話はわかったわ」
「まさかあのカイダールがそんなことをしてるなんてなぁ」
アルマの説明に納得する二人。その様子を見ていたアルマは、不思議そうな顔をする。
「あの、断らないんですか?」
俺に引き続き、断る様子を見せない二人を見てそう呟く。
「だって私もそんな酷い事納得できないし」
「同感だ」
「ほら、言っただろ?」
そしてアルマの顔にはさっきのように嬉しそうな笑顔になる。
リンもオッサンも俺と一緒だ。辛い運命を背負った子供達を助けようと一緒に旅をしてるんだから。
「それにしても……譲ちゃん達が言ったとおりだな、目を離すとすぐに女の子を連れてくるとは」
「でしょ?」
「偶然助けたのが女の子ってだけだ!」
その反論にうーんと悩むように俺を見る二人。
「でもあなた、リリナにミーシャ、シェリア、シェエに街の子供達、そしてこの子……とても偶然とは思えないけど?」
「見事に女の子だけだな」
「それに子供率が高いし、狙ってるの?」
「狙ってねえよ!!」
「まあなんだ神城、ハーレムってのは男の夢だが……シュエを泣かせたら容赦しねえからな?」
「作る気ないし、まだ誰も好きになってねえからな?」
駄目だ疲れる。毎度毎度、助けたりするとこうやって誤解される。これからもこうなるのか……
「零さんは、それが目的なんですか?」
恐る恐る聞くアルマ。おい信じてんじゃねえよ。
「どうせこのロリコンのことだし、ハーレムも無意識に作りそうだけどね」
リンの余計な言葉に、ちょっと引き気味に俺から距離をとるアルマ。
「引かないでくれ……というか俺ロリコンじゃねえよ」
するとアルマはなにやら決意した顔で、俺にあることを告げる。
何か余計なことを言うとしか思えないが……
「私はまだ14歳なので……入れても大丈夫ですよ?」
「一体何が大丈夫なんだよ!?」
「あなた、こんなロリコンでいいの? 苦労するわよ?」
「でも、零さんには一生かけてお礼したいですから。それで目的の達成の助けになれれば。それに、そこまで嫌いじゃないですし」
「神城よかったな、増えたぞ」
「何がよかったんだよ!? というかアルマも本気にすんな、こいつら冗談だから」
ゼェゼェとツッコミで疲れながら、コントを終了させる。
全くもって心外だ。俺はそんな不純なことは考えてない。心は青年、まだまだピュアな心を持ってるんだ、俺は一途だからな。




