12話 ガルムの鬼神
「神の部屋が襲撃を受けているという報告あるから来てみれば……なんだこいつはぁ? まだガキじゃないか」
「おや、来たんですかレオ少佐」
「おい博士、こんな小僧にここの警備は突破されたのか?」
レオと呼ばれる男はシルファスの元へ歩いていく。歩くたびに地面が響くほどだった。
「ええ、この少年が全てやったみたいですよ」
「ほー信じがたいな……」
「彼はスキル所持者ですから、それもかなり強力な」
スキル所持者という言葉でレオは俺をジッと見ると、ニヤァと笑う。
なんだあの笑みは……まるで、獲物を見つけた獣の顔みたいだ。
「スキル所持者か……面白い! 小僧、名はなんという!」
「神城零だ……」
「そうか神城か! ワシはレオ・ルニルド、ガルム帝国の少佐だ!」
レオはその大きな斧で俺を真っ二つにしようと接近する。
しかしレオは途中で何か異変を感じ取ったのか、急に足を止めて俺から離れる。
「なるほどな小僧……その周りに漂う霧……それが貴様のスキルか」
まだ消滅の力には気づいていないようだが、直感で危険だと判断したのだろう。
このオッサン……かなりの実力者ってわけか……
「流石がガルムの鬼神と呼ばれるだけのことはありますね少佐。あの力を直感で危険と気づくとは」
「博士……貴様知っていたな?」
「ええ、しかし少佐はすぐに突撃するもんですから……あの霧は魔法、物理とあらゆるものを塵に変える恐ろしいスキルですよ、少佐もあのままでしたら塵になってましたよ?」
「なにぃ? では攻撃のしようがないではないか! つまらんなぁ!」
「しかし神力なら例外で、消滅まで時間がかかるようですが……少佐がいいなら……No2の力を使いますか?」
レオは少し悩むような表情をする。ミーシャに目線を向ける。そしてシルファスのほうを向く。
「それで触れることが出来るのならいいだろう。やるといい博士」
「いいんですか? 少佐の肉体が崩壊する危険もありますよ?」
「構わん。それよりワシはあの小僧と戦いたい……!」
シルファスは笑みを浮かべながら「わかりました」というとミーシャの元へ歩く。
あいつ何をするつもりだ……まさか、ミーシャの神力を……!!
俺の予想は当たってしまった。シルファスはなにやら装置を起動させる。するとミーシャを囲んでいたケースが光りだす。
「――――ァァァ!!」
苦しむような声をあげるミーシャ。顔を歪め辛そうにしている。
ケース内の光がレオへと伸びていくと、レオを黄色い光が纏うように集まっていく。
レオも顔を一瞬歪めるが、それはすぐに狂気の笑みへと変わる。
「いいぞ! この力はいいなぁ!! 今なら神をも殺せる勢いだ!!」
片手に持つ巨大な斧を上空に振り上げながら叫ぶ。
そして俺を見ると、その場から消えた。
刹那――気づけば俺の頭上に巨大な斧が迫っていた。
「――――っ!!」
俺はとっさに腰にある刀を抜くと斧を受け止める。
衝撃が重過ぎる、俺は耐えることが出来ず弾丸のような勢いで飛ばされる。
「なんだぁ小僧! その程度か!」
俺は壁に出来た穴の中で、息を整えながらレオを見る。
嘘だろ……消滅出来なかった……? いや、消滅は出来ている。ただ、あの纏っている神力が多すぎる。これじゃあ消滅させる前に攻撃が届く。
「少年どうだい? これが神の子の力だ……凄まじいだろ。さっきの神兵の100倍以上の神力を少佐に送っている……中々消滅は出来ないだろう?」
「ワシは神の子って奴が気に入らんかったが……これはすごいなぁ! 力がみなぎるぞ!!」
「まあその力に耐える少佐も少佐ですごいですね。さすがガルムの鬼神ですねー」
俺はひとまず起き上がり体勢を立て直す。攻撃を直接受けたら俺は間違いなく死ぬだろう。
周りに漂う霧を集めると濃度を濃くする。消滅させる力を増大させて早急に消すしか勝つ方法がない。
「ほう立ち上がるか小僧。気に入ったぞ……ワシをもっと楽しませてくれ!!」
まただ! また目の前から消えた。いや早すぎて追い切れないのだろう。
とっさに風の動きを感じ、右側に刀を向けて攻撃を受け流す。ガァンと鉄と鉄が当たるような音が鳴り響く。
「今のを受け流すか! 全く、面白いな小僧!」
「――っ!」
まともに受け止めればさっきみたいなるだけだ。俺に出来るのは攻撃の流れを変えて受け流す。
時間を稼いでこいつの神力を消滅させる! 次々と襲い掛かる凶悪な一撃を受け流す。それだけも俺の腕には負担が大きい。
「このっ!!」
刀を横に振り俺も反撃をする。だが簡単に回避される。
くっそ! 速すぎる! ミーシャの司る神力は『力』だから身体能力が大幅に上がっているのだろう。
「あの少年が持つ武器は何故……消えない? 少年が触れいるものは対象外なのか? いや……もしくは……」
俺とレオの戦いを冷静に分析するシルファス。
俺自身も不思議に思っている、何故この刀は消えない? 俺が触れているからなのか……? おそらくその可能性が高いだろう。
「考えごとをしている暇はないぞ小僧!!」
「チッ!! この!!」
斧の一撃をとっさに身体を反らして回避する。我ながらよく避けたと思う、火事場の馬鹿力ってやつか?
そして刀をレオに向けて振るう。だが――その刀身はもう片手によって防がれる。嘘だろ……刃を手で掴みやがった!?
「そんな太刀筋では……ワシは切れんぞぉ!!」
片手で刀を振り払われる。そして徐々に両刃の斧が俺に振り下ろされる。
左腕に冷たい感触がしたと思った。そして一瞬のうちに俺の腕と左手の間には斧が通っていた。
「――――ガァァァァ!!!!」
叫び声が部屋中に響いた。俺は左手が無くなった腕を押さえながら血を溢れさせながらフラフラと後退する。
痛い。痛いってもんじゃない。むしろ熱かった。逃げたかった、これは夢だと思いたかった。
だがこれは現実。今俺の左腕はレオの足元に転がっている。
「身体を真っ二つにする予定だったが……とっさに避けたか小僧」
「ハァ……ハァ……」
「手を落したくらいで泣き叫ぶとは、修行が足りんな小僧……まだまだ子供だな」
駄目だ痛みでこいつの言ってることすら頭に入らない。
ただただ、俺はこの光景が夢であってほしいとそう願っていた。平和ボケした日本人だから、俺も現実逃避していたのだろう。
そしてレオは斧を横にスライドさせ、俺の身体を粉砕した。死んだと思った。だって腹が半分以上切れてるんだぞ?
そのまま俺は床に鮮血を撒き散らしながら倒れた。
「すごいですね少佐。あの少年をここまで追い詰めるとは」
「ワシの手にかかればこの程度よ。もっと骨がある奴かと思ったが見当違いだったようだな」
ぼんやりとする視界のなか、後ろのケースの中でミーシャが横たわりながらが、俺を涙目で見ていた。
俺はミーシャが口を動かしているのが見えた。何故か俺はその言葉がわかった、それは「――死なないで」そう言っていた。
「少年の力はもっと強力かと思ったが……この程度では私の計画の助けにもならないか……」
俺の様子を見ながらそう呟くシルファス。
「さて……ワシは撤収するとするか……」
このままじゃ駄目だ……俺は何のためにここに来た?
あいつ等を、神の子を助けるんじゃないのか? 俺が死んだらどうなる? リリナはどうなる?
死ねない――死ぬわけにはいかない。
俺はまだ――――
――――死ぬわけにはいかない!
ゆっくりとその身を起こす。体中は血まみれでその姿はまるで、ゾンビのように死人が立ったとしか思えないほどだ。
「……まだ息があったか小僧」
俺の気配を感じたのか俺のほうを向くレオ。しかしレオが見たのは驚くべき姿だった。
「小僧……なぜお前の左手がくっついている?」
俺はレオに言われ始めて自身の切断されたはずの左てがくっついていることに気づく。
そして腹の傷もいつの間にか癒えている。どういうことだ……? リリナが? いやありえない。あいつは今外にいる。
「少年の怪我が治った? あの霧にはあんな力が? いや……違う……あれは治ったんじゃないな……」
シルファスは驚きの様子で俺の身体を、霧を見ている。
「まるで……最初から怪我などしていなかった……そんな感じだ……」
俺も今自分に起きている異変に驚いていた。普通なら死ぬような怪我のはずだった。
だが俺は怪我一つなく元通り。それどころか、服についた血の跡すらいつの間にか消えている。
「フン! なんでもよいわ! また小僧と戦えるわけだからなぁ!!」
喜びの叫びをあげながらレオはその俺を切断した斧で、切るというよりも、俺の身体を粉砕するような勢いで振り下ろす。
だが結果はさっきとは違った。
「――なにぃ!?」
さっきまで消えることのなかった斧が、レオの肉体が――消滅した。
巨大な斧は塵に変わり、レオの右腕も塵へと変わった。さっきまでは消滅させるのに時間がかかっていたのに何故か一瞬で消し去った。
この結果には俺もシルファスもレオも驚いていた。
「いいぞぉ小僧!! どうやって復活したかは知らんが!! ワシは今最高に楽しいぞ!!」
左手で腰にある太刀を引き抜くと、もう一度攻撃をする。
「次は消えんぞぉ!! 小僧!」
その二メートルはるであろう巨大な太刀。
それは俺の頭上から高速で振り下ろされた。その様子を眺めるように見ていた俺は、不思議と落ち着いていた。
「オッサン、あんた――――消えるぜ」
太刀は俺に届く前に、霧に触れた瞬間一瞬にして塵に変わって行った。
俺は刀を握ると、居合い斬りのように構えると。一閃、レオの胴体を切り裂いた。
さっきの俺のように鮮血飛ばしながら倒れていくレオ。
「まさか……ワシが……負ける?」
そしてその大きな身体が床に倒れ、部屋に倒れる音が静かに響いた。
俺は倒れるレオの元へ行く。レオの顔は満足した顔で俺を見ていた。
「負けるというは……中々、いいものだな小僧。……ワシの負けだ小僧……最後の一太刀――見事だった」
「……ありがとうよ……それじゃあ――消えてくれ」
レオを包むように霧が伸びていく。レオの肉体はあっという間に消滅し塵へと変わった。
するとパンパンという拍手をするような音が聞こえた。




