11話 シルファス博士
二つ目、三つ目と大きな壁を進んでいくとやっと中央に建つ研究施設のような建物に到着できた。
俺の後ろには穴が開いていたり、煙が出ていたりと、かなり争ったことがわかる。
「ここにいるのか……」
暗い夜中でもわかるほど白ばかりの壁。大きさは学校の校舎ほどだろうか?
俺はいかにも頑丈そうに作られた入口らしき灰色の扉を霧で消滅させると、中へと侵入する。
「中も白いのか……内装は病院みたいだな」
病院のような内装をしている研究所内。一体何の研究をしているのだろうかと思わせるような物が、あちらこちらにある。
「…………」
敵の気配が感じられず、とりあえず俺は奥を目指して進みだす。
歩いている最中色々な部屋がチラチラと見えた。巨大な試験管のような物がいくつも置いてある部屋。パソコンのような機器が置いてあった部屋など様々だ。
通路に表示がしてあるが一体何の場所を示すのかわからない。
「なんだか……それっぽい場所に着いたな」
歩き始めて数分。目の前にはこの施設には似合わない黒で出来た扉が現れた。
まるでパイプを網のように重ねて何重もの層を作っている。相当重要な場所だと俺は判断した。
迷うことなく、俺は突き進む。その頑丈そうな扉は霧に触れるとあっけなく消えてしまった。
そして扉を越えた先に見えたのは広い空間。体育館のようなほど広かった。
「まさか本当に一人だとはね……」
遠くから聞こえた声の主は一人の研究者。周りには数人研究者や警備兵も見える。
その姿は周りにいる他の研究者とは違う雰囲気をかもし出していた。銀髪の長髪、そしてなにより目立つのは赤い白衣らしい物を羽織っていた。
「ミーシャはどこにいる……?」
「ミーシャ? ああ、No2のことかな?」
その赤い白衣の男は「それなら……」といいながら後ろを振り向く。
俺の視界に入ったのは透明なケースに囲まれた中に、座っているミーシャの姿だった。どうやらまだ何もされていないようだ。
「それより侵入者君。君は一体何者かな? あの警備を突破するその力、そしてなにより君は魔力値が0らしいじゃないか? 魔法も使えないような者に、この警備を突破できるとはとても思えないんだがね」
赤い白衣の男は俺を不思議そうに眺める。その目はまるで玩具を見つけたような好奇心溢れる目をしていた。
「俺はただの魔法も使えない一般人だ。それ以上はない」
「一般人がこの警備を突破できないよ? それにね、魔力値が0というのは普通ありえない。この世界の人間はみな魔力を保有している」
そういえば武器屋の親父もそんなことを言っていたな。魔力がないのはありえないって。
「報告では霧のようなスキルを使っているらしいが……ふむ、興味深いね……侵入者君、名はなんというのかな?」
「……神城零」
「丁寧に答えてくれてありがとう。お礼に私の名も教えよう、私はシルファス・グラン。ただの雇われ研究員さ……それと」
するとシルファスが指をパチンと鳴らす。するとシルファスの横にはいつの間にかある少女が現れる。
長い黒髪で、服装はゴスロリのようなフリルがついた服。とらえどころの無い顔をしてる。なにより気になったのはリリナ達と同年代のような感じだった。
「紹介しよう。私の助手のメリルだ」
メリルと呼ばれる黒髪の少女。少女はシルファスを見上げると喋る。
「ねえお父様。あいつを殺すの?」
「待ちなさいメリル。今日戦うのはお前じゃない」
いきなり俺を殺す宣言した少女。かなり物騒だし、何よりなんだあの自信は?
メリルはシルファスに止められすこし落ち込んだような顔をして下を見る。
「おっと、話がそれてしまって申し訳ない。君は何故……神の子を助けようとする?」
「神の子だって一人の少女だ。助けることに理由なんてない」
「少女ね……君は本当に言っているのか? 神の子は強大な神力を持つ化け物だよ? とても人間とは思えないがね」
「化け物だろうと、神の子だろうと……関係ねえんだよ! 俺はそいつを……神の子を助けるって決めてんだ!」
つい叫んでしまった。あいつが化け物と呼ばれたのが、憎かった。
あんなに可愛い笑顔が出来るやつが化け物? そんなわけないだろ、あいつはただの可愛い女の子だ。
俺がそう叫ぶと、後ろにいたミーシャも聞こえていたのか、目を丸くするように俺を見ていた。
「泣かしてくれるなあ少年。この世界が君のような心を持っていたら彼女達の扱いは変わっただろうね」
「……話は終わりか? じゃあ俺はそいつを助けて、帰らせてもらう」
俺は静かにその足を一歩二歩と前にだす。
「警備兵……少年に攻撃しなさい」
シルファスの一言で、周りいた数人の警備兵は銃を構えると一斉に撃ち始める。
「少年……君の力を見せてもらおうか」
弾丸のように発射された魔力の弾。外では暗くてわからなかったが色は青や緑、撃つ人によってことなっていた。
弾は俺に当たる前に塵になって消えていく。その様子を興味深そうに眺めるシルファス。
「報告どうりの能力だな……君突撃したまえ」
「は? いやしかし、あの霧は……」
「……メリル」
「はい、お父様」
戸惑う警備兵。それも当然だろう、触れたら消滅するって聞いているのに突撃するやつなんていないさ。
黒髪の少女はその警備兵を掴むと、突然警備兵の姿が消える。
すると俺の頭上から突然断末魔が聞こえる。
「身体がァァァ!」
上を見上げるとそこに映ったのは先ほどの警備兵。今の一瞬でどうやって? まさかあの少女の力?
警備兵は叫び声をあげながら霧の力によってその身を塵に変えた。
「なるほど……物理、魔法ともに消滅させるか」
「お前……まさかそのためだけに……!」
「実験に犠牲はつきものだ。それに消したのは私じゃない、君だよ少年」
「てめえ……!!」
シルファスは周りにいる研究員になにやら指示をだす。研究員は一瞬慌てた表情をするが、その指示に従うように何かを準備しに離れる。
「少年、君の力は素晴らしいな。なら魔法も物理とは違う、別の力はどうかな?」
ガガガと鉄が擦れていくような音が聞こえたと思うと、左右の壁の一部が上にスライドするように開く。
そして中から現れたのは、二人の警備兵。しかし雰囲気が全く違う、そしてなにより身体を覆うように黄色いオーラのような物がある。
「なんだ……こいつら?」
徐々に近づく異質な警備兵。その様子にすこし戸惑いながら俺は見る。
「それは神兵。神力を注入し強化された兵士だ、この神の子の研究で成功した実験例だよ」
神兵は俺に襲い掛かる。その様子はもはや人間とは違い、まるでバーサーカーのような狂戦士だった。
まさかこいつら神力で精神がおかしくなってるのか?
「まあ……神力が強力すぎて、適正の無い者は彼らのように自我を失うがね」
その手に持つ剣を風のような勢いで俺に振り下ろす。霧に触れた瞬間腕ごと塵に変え始める。しかし俺は少し異変を感じる。
消滅に時間がかかる……!? ほんの少しだったが消滅までにかかる時間が長かった。今までは一瞬で塵になっていたが……
一人の神兵を消すと、シルファスは楽しそうにその様子を観察している。
「すごいな少年! まさか神力まで消すとはなあ、予想外だよ……だが私の考えは当たったようだ」
もう一人の神兵も襲い掛かる。だがその行為もむなしく、剣は俺に届くことなくその身体ごと消滅していった。
やっぱりだ……時間がかかっている。神力だからなのか?
「君の力はどうやら……神の力ですら消滅させるらしいな少年。だが少しばかり時間がかかるようだな」
ほんの少しのタイムラグをシルファスは気づいていた。
「なあ少年。その力を私のために使わないか?」
「なにを言ってる……?」
「その力は神を消すほどの力だ……それは神力を超える――いや神の子を凌駕する力だ」
シルファスは俺に熱く語りだす。
私のために使う? お断りだ、俺はあいつらを助けるためにつかう。
「残念だけ――」
「君は神の子になれなかった子供達の末路を知っているか?」
俺の断る言葉はシルファスの謎の問いによって止められる。
神の子になれなかった子供達の末路……だと?
「神の子というのは11歳の少女からランダムで選出される。10歳の少女達は『神の器』と呼ばれ神の子の候補なのだよ。そしてこの国は10歳以下の捨て子などを無償で引き取り、育てるという活動をしている……」
おい……まさか……考えたくない。
俺の中に様々な可能性が駆け巡る。どれも嫌な予感ばかりだ。
「神の子になれなかった11歳の少女達は……ほとんどが処分、奴隷、人身売買されているのだよ。だが中には才能のある子達もいる、その子達は国に育てられ優秀な人材になる。どうだい? 腐っているだろう、表向きは保護、だが裏では汚いことしかしていない……これが国の実態だ」
手が震えていた、手だけじゃない足も肩も全て怒りで震えた。
ふざけてやがって……少女達の命を弄ぶ、この国が憎くて憎くてたまらなかった。
「……そこでだ……君の力と私の頭脳があれば世界を変えることが出来る……どうかな?」
周りいた警備兵が「博士! 裏切るつもりか!?」と叫びながら銃口をシルファスに向ける。だが――その瞬間男達の上半身が消える。
血しぶきを上げながら倒れていく警備兵達。俺は一体何が起きたのか理解出来なかった。しかしなんとなくだがあの少女がやったのだ思った。
「お父様に歯向かう奴は、殺します」
「いい子だメリル。さすが……空間を司る『神の子』だな」
シルファスの口から俺はとんでもないことを聞く。神の子? まさかその女の子も神の子だと?
「空間を司る……神の子……?」
「おや? 君は知らないのか?」
意外そうな表情をしながら俺を見る。
神の子ってのは個人個人で様々な力を宿してるのか?
「神の子はそれぞれ様々な力を司っているのだよ……彼女は10番目にして『空間』そして2番のミーシャ君は『力』……逃走中の16番は『癒し』といった感じにね」
世界に存在する20人の神の子がそれぞれ特有の力を宿しているわけか……
「さて少年、どうする? 私と共に来るかな?」
「…………断る」
「ふむ……そうかい」
「俺はお前が信じられない。それにな……神の子の実験をしてるような奴なら尚更俺の敵だ!」
平気で人を殺して、神の子の実験をしているような奴の仲間になんかならない。
「交渉決裂か……なら君を――」
その時、横の壁から轟音が聞こえる。建物を揺らしながら、その壁を突き破って来た。
瓦礫があたりに飛び交い、その煙の中から現れたのは屈強な肉体をした男。黒いピチピチのスーツに重そうな鎧をつけている。髪の毛は白髪でひげも立派だ。
ガンッと地面に鳴り響くように斧のような武器を置くと、その男は俺とシルファスを睨んだ。




