第1話「二代目シークレットガールズ、始動!」
二十五年前、日本中を熱狂させた初代シークレットガールズ。
そして今、その五人の娘たちに新たな運命が訪れます。
母親たちがかつてEYE、MORM、YAH、BEE、LIZ☆だったことを何も知らないまま、芸能事務所へ呼び出された五人。
そこで待っていたのは、小林前社長の実の息子である新社長と、まさかの「二代目シークレットガールズ」結成計画でした。
さらに学校の歴史教師・崇道康熙にも、彼女たちが知らなかったもう一つの顔が――。
普通の中学生だった五人に、新しい「シークレット」が生まれる第1話。
母親たちが二十五年前に歩いた道を、今度は娘たちが歩き始めます。
二十五年前、日本中を熱狂させた五人組アイドル――シークレットガールズ。
EYE、MORM、YAH、BEE、LIZ☆。
その正体が普通の中学生だったことを知る者は、ごくわずかだった。
そして現在。
かつてステージに立っていた五人は、それぞれ母親となった。
その娘たちは、母親たちがシークレットガールズだったことを何も知らない。
だが今日――。
五人の娘たちの人生が、大きく動き始めようとしていた。
◇◇◇
「莉央奈、起きなさい! 遅刻するよ!」
「んー……あと五分……」
「昨日も同じこと言ってたでしょう?」
柴崎家の朝。
柴崎リオは娘・柴崎莉央奈の部屋のカーテンを勢いよく開けた。
「まぶしい!」
「ほら、起きる!」
「分かったってば……」
布団からようやく顔を出した莉央奈を見て、リオは苦笑する。
二十五年前。
自分もこんな普通の中学生だった。
学校へ行き、友達と笑い合い――その裏ではLIZ☆としてステージに立っていた。
だが莉央奈は、その事実を知らない。
「今日、放課後って予定ある?」
突然リオが尋ねた。
「ないけど。陽向と琴音と帰ると思う」
「そう」
「なんで?」
「ちょっと聞いただけ」
「……怪しい」
「何が?」
「お母さん、なんか隠してない?」
一瞬、リオの動きが止まった。
「隠してないよ」
「本当に?」
「早く着替えなさい」
「話そらした」
「遅刻するよ?」
「はーい」
莉央奈はまだ疑わしそうな顔をしていたが、制服を手に取った。
部屋を出たリオは、小さく息を吐く。
「……やっぱり親子だなあ」
秘密に敏感なところまで、自分に似ている。
そしてリオのスマートフォンには、昨日届いた一通のメッセージが残っていた。
――今日、計画を開始します。
送信者は、小林社長の実の息子である新社長だった。
◇◇◇
「おはよう、莉央奈!」
校門前で大きく手を振ったのは藤宮琴音だった。
その隣には相沢陽向もいる。
「おはよう」
「遅い」
陽向が言う。
「まだ遅刻じゃないでしょ」
「俺たち何分待ったと思ってるんだよ」
「十分くらい?」
「十五分」
「ほぼ同じじゃん」
「五分違う」
「細かい!」
琴音が笑った。
「朝から仲いいねえ」
「どこが!」
莉央奈と陽向の声が重なる。
「ほら、そういうところ」
「琴音まで!」
三人は幼い頃から一緒だった。
陽向と琴音にとって、莉央奈は昔から何でも話せる幼馴染。
莉央奈にとっても同じだった。
少なくとも――今日までは。
教室へ入ると、すでに多くの生徒が集まっていた。
「おっ、柴崎!」
早川翔太が声を掛ける。
「おはよう」
「聞いた? 最近、新しいアイドルグループ作るって噂」
「知らない」
「芸能事務所が極秘オーディションやってるらしいぞ」
西野彩花がすぐ話に入る。
「私も見た! SNSで噂になってる!」
「極秘なのにSNSで噂になってるの?」
莉央奈が笑う。
「確かに」
橘ひよりも笑った。
少し離れたところでは、山本結菜が水瀬颯真と話している。
「今日、一緒に帰れる?」
颯真が尋ねる。
「うん。たぶん大丈夫」
「たぶん?」
「お母さんから、放課後は予定を入れないでって言われてるの」
「何かあるの?」
「分からない」
「家族の用事かな」
「たぶんね」
その近くでは森川美空と神谷悠斗も話していた。
「美空」
「なに?」
「今日帰りに寄り道しない?」
「いいよ」
「決まりな」
美空が笑う。
彼女もまだ知らない。
今日から、その「普通の日常」が少しずつ変わっていくことを。
◇◇◇
一時間目。
歴史。
教室へ入ってきた男性教師が、教科書を机に置いた。
「おはよう」
「おはようございます」
崇道康熙。
学校では真面目で穏やかな歴史教師として知られている。
「今日は前回の続きから始める」
康熙は黒板に文字を書き始める。
その視線が一瞬だけ、教室にいる五人へ向けられた。
高野栞。
森川美空。
山本結菜。
荒木美羽。
柴崎莉央奈。
五人は当然、その意味に気づかない。
康熙だけが知っている。
この五人が、新しいシークレットガールズ候補であることを。
そして自分が、二十五年前に初代シークレットガールズを支えた佐藤先生の後継者として、彼女たちを守る立場になることを。
授業終了のチャイムが鳴った。
「今日はここまで」
康熙が教科書を閉じる。
すると次の授業を担当する女性教師が廊下から入ってきた。
「崇道先生、お疲れさまです」
「宍戸先生、お疲れさまです」
英語教師・宍戸美和。
明るく華やかな雰囲気を持ち、生徒からも人気の教師だった。
二人はごく普通の同僚教師として言葉を交わす。
だが――。
本当は婚約者同士。
その事実を知る生徒は、まだほとんどいない。
康熙は何事もなかったように教室を出た。
美和もいつもの教師の表情に切り替える。
「はい、それでは英語の授業を始めます」
誰が見ても普通の教師同士。
二人の間に婚約という大きな秘密があるとは、クラスメイトたちは想像すらしていなかった。
◇◇◇
放課後。
五人のスマートフォンに、ほぼ同時に母親から連絡が入った。
莉央奈が画面を見る。
「え?」
『放課後、指定した場所に来て。大事な話があります』
「何これ」
美羽もスマートフォンを見る。
「私も来た」
「え?」
美空が顔を上げる。
「私も」
結菜も驚く。
「私にも」
栞が静かにスマートフォンを見せた。
五人は顔を見合わせる。
「……全員?」
莉央奈が呟いた。
そこへ琴音が来る。
「莉央奈、帰ろ」
「あ……ごめん」
「え?」
「今日、急に用事できた」
陽向もやってくる。
「なんだよ、朝は何もないって言ってただろ」
「私だって今知ったの」
「何の用事?」
「分かんない」
「じゃあ一緒に――」
「ごめん。今日は一人で行く」
陽向が怪訝そうな顔をする。
「……莉央奈」
「なに?」
「なんか変じゃね?」
「何が?」
「朝から」
莉央奈は一瞬言葉に詰まった。
「気のせい」
そう言って鞄を持つ。
「また明日ね!」
莉央奈は教室を出ていった。
琴音と陽向は、その背中を見つめていた。
「何だろうね」
琴音が呟く。
陽向は答えなかった。
◇◇◇
指定された場所へ向かった五人。
そこは、大きな芸能事務所だった。
「……ここ?」
莉央奈が建物を見上げる。
「芸能事務所だよね?」
美空が言う。
「なんで私たちが?」
美羽も困惑している。
結菜はスマートフォンを確認する。
「場所は合ってる」
栞が入口を見る。
「入るしかないんじゃない?」
五人は恐る恐る中へ入った。
受付では、すでに話が通っていた。
案内されたのは、最上階にある大きな会議室。
扉を開ける。
「失礼します……」
中には、一人の男性が待っていた。
「ようこそ」
五人は緊張しながら並ぶ。
「突然呼び出して申し訳ない」
男性は立ち上がった。
「私は、この事務所の新社長だ」
「社長!?」
美空が思わず声を上げる。
「なんで社長さんが私たちを?」
新社長は微笑んだ。
「それを今から説明する」
そして机の上に、一冊のファイルを置いた。
表紙には――。
SECRET GIRLS PROJECT。
五人はその文字を見つめた。
「シークレット……ガールズ?」
莉央奈が読む。
結菜が首を傾げる。
「昔のアイドルですよね?」
「知っているのか?」
「名前くらいは」
美羽も頷く。
「伝説のアイドルって聞いたことあります」
新社長は五人を見る。
「その通りだ」
そして壁のモニターをつけた。
画面に映ったのは――。
二十五年前のシークレットガールズ。
EYE。
MORM。
YAH。
BEE。
LIZ☆。
五人の娘たちは映像を見つめる。
もちろん気づかない。
画面の中にいる五人こそ、自分たちの母親だということに。
「この人たちが……」
美空が呟く。
「シークレットガールズ」
新社長が頷いた。
「二十五年前、日本中を熱狂させた五人だ」
莉央奈はLIZ☆をじっと見る。
「なんか……」
「どうしたの?」
美羽が尋ねる。
「いや……どこかで見たような気がして」
新社長の表情がわずかに動く。
だが何も言わない。
「今日、君たち五人を呼んだ理由は一つだ」
新社長がリモコンを操作すると、画面が切り替わった。
そこに映ったのは――。
莉央奈。
美羽。
美空。
結菜。
栞。
五人自身の写真だった。
「えっ!?」
「私たち!?」
新社長は立ち上がる。
「君たち五人に――」
一呼吸置いて。
「新しいシークレットガールズになってほしい」
沈黙。
数秒後。
「…………え?」
莉央奈が声を漏らした。
「ええええええっ!?」
五人の声が会議室に響いた。
◇◇◇
「ちょっと待ってください!」
結菜が最初に冷静さを取り戻した。
「どうして私たちなんですか?」
「私、歌手になりたいって言ったことないですよ?」
美羽も言う。
「私も!」
美空が続く。
栞も戸惑っている。
莉央奈は新社長を見る。
「そもそも、どうして私たち五人のことを知ってるんですか?」
もっともな疑問だった。
新社長は答える。
「君たちについては以前から見ていた」
「以前から?」
「もちろん怪しい意味ではない」
新社長は苦笑する。
「新しいシークレットガールズを作るにあたり、候補者を探していた」
「それで私たちが?」
「ああ」
「でも……」
莉央奈はもう一度モニターを見る。
LIZ☆。
なぜか気になる。
理由は分からない。
新社長が続ける。
「今すぐ答えを出す必要はない」
五人を見る。
「ただ、一度だけレッスンを受けてほしい」
「レッスン?」
「その上で、自分には無理だと思えば断ってくれて構わない」
五人は顔を見合わせた。
「どうする?」
美空が小声で言う。
「一回だけなら……」
美羽も迷っている。
結菜は考え込む。
栞も黙っていた。
莉央奈が最後に言った。
「……やってみようよ」
四人が莉央奈を見る。
「私たちがアイドルになるなんて全然想像できないけど、一回やってみてから決めてもいいんじゃない?」
美空が笑った。
「私も、それならやってみたい」
「私も」
美羽が頷く。
結菜も小さく息を吐く。
「分かった」
栞も頷いた。
「一回だけ」
新社長が微笑んだ。
「決まりだな」
そして会議室の扉へ視線を向ける。
「入ってください」
扉が開いた。
五人は一斉に振り返る。
そして――。
「ええっ!?」
そこに立っていた人物を見て、五人は再び驚いた。
「崇道先生!?」
歴史教師・崇道康熙だった。
「どうして先生がここに!?」
莉央奈が叫ぶ。
康熙は学校とは少し違う表情で五人を見る。
「驚くのも当然だな」
「先生、なんで芸能事務所に?」
康熙は答えた。
「今日から私は、君たちのコーチになる」
「コーチ!?」
「学校では歴史教師」
康熙は五人を見る。
「ここでは、二代目シークレットガールズのコーチだ」
五人は完全に言葉を失った。
学校の先生まで秘密を持っていた。
「嘘……」
美空が呟く。
康熙は微笑む。
「君たちには今日から覚えてもらうことがたくさんある」
「まず何を?」
結菜が尋ねる。
康熙の表情が真剣になる。
「最初に覚えてもらうのは歌でもダンスでもない」
五人が康熙を見る。
「秘密を守ることだ」
部屋が静かになった。
「君たちがシークレットガールズとして活動することは、学校では絶対に話してはいけない」
莉央奈が目を見開く。
「幼馴染にも?」
「駄目だ」
結菜が尋ねる。
「恋人にも?」
「話せない」
結菜と美空の表情が変わる。
颯真。
悠斗。
二人の顔が頭に浮かんだ。
「家族は?」
栞が尋ねる。
「家族には事務所から説明する」
五人はまだ知らない。
その家族――母親たちは、すべてを知っていることを。
それどころか、二十五年前に自分たちと全く同じ秘密を抱えていたことを。
◇◇◇
その日の夜。
柴崎家。
「ただいま」
「おかえり」
リオがいつも通り迎えた。
莉央奈は母親の顔を見る。
言いたい。
今日、とんでもない話があった。
自分がシークレットガールズ候補になった。
学校では秘密にしなければならない。
歴史教師の崇道先生がコーチだった。
全部話したい。
だが家族には事務所から説明すると言われている。
「……お母さん」
「なに?」
「今日さ……」
「うん」
「……やっぱり何でもない」
リオは娘を見る。
「そう?」
「うん」
莉央奈は二階へ上がっていった。
リオはその背中を見送りながら、小さく微笑む。
「……頑張ってね、莉央奈」
娘には聞こえない声だった。
その夜。
荒木家。
森川家。
山本家。
高野家。
五人の母親も、それぞれ娘の様子を静かに見守っていた。
娘たちはまだ知らない。
自分たちよりずっと前に――。
母親たちも同じ秘密を抱えたことを。
◇◇◇
翌日の放課後。
五人は初めてレッスン室へ集まった。
鏡張りの部屋。
康熙が五人の前に立つ。
新社長も後ろから見守っている。
「それでは始めよう」
五人が緊張した表情になる。
「今日が、君たちの最初の日だ」
康熙が言う。
「二十五年前、五人の少女がシークレットガールズになった」
壁には初代五人の写真。
EYE。
MORM。
YAH。
BEE。
LIZ☆。
その写真の前に、五人の娘たちが並ぶ。
高野栞。
森川美空。
山本結菜。
荒木美羽。
柴崎莉央奈。
「そして今日――」
康熙が五人を見渡す。
「新しい五人の物語が始まる」
莉央奈は写真のLIZ☆を見上げた。
なぜだろう。
やはり、どこか懐かしい。
美羽もBEEを見つめる。
美空はMORM。
結菜はYAH。
栞はEYE。
誰一人、真実には気づいていない。
自分たちが今見つめている少女たちが――。
二十五年前の母親であることを。
母から娘へ。
初代から二代目へ。
そして――。
二十五年間眠っていた「シークレット」が、再び動き始めた。
二代目シークレットガールズ。
その最初の一歩が、今、踏み出された。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第1話では、ついに五人の娘たちが「二代目シークレットガールズ」への第一歩を踏み出しました。
突然芸能事務所へ呼び出され、
「新しいシークレットガールズになってほしい」
と告げられた五人。
さらに、学校では歴史を教えている崇道康熙が、実は自分たちのコーチだったという驚きの事実も明らかになりました。
そして彼女たちに課された最初のルールは――「秘密を守ること」。
幼馴染にも、クラスメイトにも、そして結菜と美空にとっては大切な恋人にも、自分たちのもう一つの顔を明かすことはできません。
しかし、娘たちが知らない最大の秘密は別にあります。
自分たちが目標として見つめていたEYE、MORM、YAH、BEE、LIZ☆こそ――二十五年前の自分たちの母親だったこと。
娘たちはいつ、その真実に気づくのでしょうか。
次回、第2話。
五人はいよいよ本格的なレッスンへ。
「普通の中学生」と「秘密のアイドル」。
二代目シークレットガールズの二重生活が、本当の意味で始まります。




