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追放農業大学生の異世界流儀〜規格外の【農具箱】と漢気で理理不尽を砕く。ヤンデレ兎村長とギャンブル狂の親友と作る最強の村〜  作者: 月神世一


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EP 7

【ポポロ村の日常・ルナキンにて】アホな賭けはデカルトの論理で粉砕し、ヤンデレ兎は隣に座る

 チロリロリン♪

 軽快な魔法チャイムの音が鳴り、自動ドア(魔導式)が開く。

 三カ国の緩衝地帯であるポポロ村の中央通り。そこに、まるで地球の郊外にあるような見慣れた看板が輝いていた。

 二十四時間営業ファミレス『ルナミスキング』――通称、ルナキン・ポポロ支店である。

「たつまろ様ぁ♡ ドリンクバーで、特製人参ジュースとブラックコーヒーのブレンドを作ってきましたよっ! はい、あーん♡」

「……普通に別々のグラスで持ってこい。味が喧嘩して泥水みてぇになってるだろうが」

 朝の陽ざしが差し込む窓際のボックス席。

 鬼神 龍魔呂は、運ばれてきた『朝定食Aセット(トースト、目玉焼き、人参サラダ)』を黙々と平らげながら、隣にピタリと張り付いている村長――キャルルに低い声でツッコミを入れた。

 ボックス席は四人がけで、向かいの席は完全に空いている。にもかかわらず、キャルルは龍魔呂の太い腕に自分の腕を絡め、ウサギの耳をピンと立てて、物理的な距離ゼロの「定位置」をキープしていた。

「いいじゃないですかぁ! たつまろ様と私の愛の共同作業ブレンドですよぉ!」

「メシで遊ぶな。生産者に謝れ」

 龍魔呂がキャルルの頭に軽くチョップを落とす。

「あうっ♡ たつまろ様の愛のムチ、いただきましたっ!」

 全く堪えていないヤンデレ兎は、顔を赤らめてさらにすり寄ってくる。

 そこへ、注文の品を持ったルナキンのウェイトレスがやってきた。

「お、お待たせいたしましたぁ。追加の納豆と、目玉焼きになります……」

 ウェイトレスの少女は、なぜかガタガタと震えていた。

 無理もない。彼女の視線の先には、龍魔呂の腕を抱きしめたまま、ウェイトレスに向けて『絶対零度の殺気』を放っているキャルルがいるからだ。

(……この泥棒猫。さっきから、たつまろ様の鍛え上げられた胸板をチラチラと見てますね? 私の並外れた聴覚は、アンタの心音ドキドキが少し早くなったのを見逃してませんよ……? 次見たら、マッハで顎砕きを入れますからね……)

 キャルルが声なき威圧(テレパシーに近い殺気)を飛ばしていると、龍魔呂の大きな手が、キャルルの顔面をわしっと掴み、強引に前を向かせた。

「おい、ウサギ。真面目に働いてるカタギの店員を威嚇すんじゃねぇ。お前は村長だろうが」

「ふぇっ!? ち、違いますよぉ! 私はただ、村の治安維持のために不審な心音がないかパトロールを……っ」

「嘘を吐くな。俺のメシが不味くなる」

「ひゃい、ごめんなしゃい……」

 龍魔呂に怒られ、キャルルはしゅんとウサギの耳を垂らした。

 ウェイトレスは「あ、ありがとうございます……!」と涙目で一礼し、逃げるように厨房へと戻っていった。

「……朝から騒がしいことで。お熱いねぇ、二人とも」

 その時、向かいの空席に、ヨロヨロとした足取りで一人の男が座り込んだ。

 ポポロ村自警団リーダーにして、重度のギャンブル中毒者、フェイト・ラックである。

 彼は昨晩も魔導通信石の宝くじサイトでスッたらしく、目の下にはくっきりとクマができ、ミスリルアーマーもどこか輝きを失って見えた。

「よぉ、フェイト。てめぇも朝飯か」

「あぁ……。だが、手持ちの銅貨がすっからかんでな。水しか飲めねぇ」

 フェイトはドリンクバーの水をちびちびと啜りながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「そこでだ、龍魔呂。俺と一つ『賭け』をしないか?」

「賭け、だと?」

 龍魔呂がトーストをかじる手を止め、眉をひそめる。

「ああ。次にこの店のドアを開けて入ってくる客が、『男』か『女』か、どっちかを当てる。勝った方が、今日の朝飯代を全額奢ってもらえるって寸法だ。確率は五分と五分。どうだ、乗るか?」

 フェイトが親指で、得意げにルナミス銀貨を弾く。

 一見、公平なギャンブルに見える。だが、龍魔呂は真鍮のライターを取り出し、カチリと音を立てた。

「……断る」

「はぁ!? なんだよ、怖いのか? 鬼神ともあろう男が、たかが朝飯代のギャンブルから逃げるって言うのかよ!」

 挑発するフェイトに対し、龍魔呂はマルボロを咥えもしないまま、冷たい声で言い放った。

「デカルトの『方法序説』、第一の規則だ。――『私が真であると、明証的に認めるもの以外、決して受け入れないこと』。……てめぇのそのアホな賭けは、根本的に破綻してんだよ」

「は、破綻……? 五十パーセントの確率だぞ!?」

「いいや、違うな」

 龍魔呂はフェイトを指さした。

「今は朝の七時だ。この時間帯、ポポロ村でルナキンを利用するのは、夜勤明けの冒険者か、朝の畑仕事を終えた農家の『おっさん』が九割だ。つまり、次にドアを開ける客が『男』である確率は九十パーセント以上。五分五分じゃねぇ」

「うっ……!?」

「さらにだ。てめぇは今、手持ちの金がないと言ったな。てめぇが勝てば俺が奢る。だが、俺が勝った場合、無一文のてめぇはどうやって俺の朝飯代を払うつもりだ?」

「そ、それは……その……ツケで……」

「つまり、俺にとっては勝っても一銭の得にもならねぇ、百パーセント損をするイカサマの『負け確ギャンブル』だ」

 龍魔呂の完璧な論理ロジックの前に、フェイトの顔から血の気が引いていく。

 龍魔呂は傍らに置いていた『鉄板入り手持ちぺったんこ』を無造作に持ち上げた。

「労働もせず、カタギからメシを巻き上げようとするクズは、俺の龍儀に反する。……少し頭を冷やせ」

「ま、待って! 龍魔呂、タイム! それ当たるとマジで首が飛ぶか――」

 ドゴォッ!!

 重い鉄板入りの鞄が、フェイトの顔面にクリーンヒットした。

 「あべばっ!?」という奇声と共に、フェイトはボックス席の背もたれに激突し、白目を剥いて気絶した。

「ふぅ……。手間のかかる相棒だ」

 龍魔呂は鞄を下ろし、ようやくマルボロに火を点けた。

「たつまろ様、素敵ですっ! その知性と暴力のハイブリッド! 私の心音もマッハで高鳴ってますぅっ!」

 キャルルが目をキラキラさせながら、龍魔呂の腕にさらに強く抱き着いてくる。

「うるせぇ。お前も引っ付いてばかりいないで、自分のメシを食え。冷めるぞ」

「はいっ! あーんしてくださいっ!」

「……お前、話聞いてたか?」

 気絶しているギャンブル狂の剣士と、どこまでも愛が重いマッハの兎。

 ヤンキー気質で合理主義者の龍魔呂にとって、本来なら煩わしくて仕方がない連中のはずだった。

 だが。

(……悪くねぇな)

 龍魔呂は、煙を細く吐き出しながら、ふと口元に微かな笑みを浮かべた。

 東京での血で血を洗う族同士の抗争でもなく、城での陰湿な権力闘争でもない。

 呆れるほど平和で、騒がしくて、温かい時間。

 メシが美味く、仲間が隣で笑っている。彼が求めていた「カタギの日常」が、ここにあった。

「ほら、フェイト。起きろ。……水ばっか飲んでねぇで、定食の一つくらい奢ってやる」

 龍魔呂が角砂糖を一つ、気絶しているフェイトの額に乗せる。

「んがっ……? ほんと!? さすが龍魔呂! 俺、高いステーキセットでもいい!?」

「調子に乗んな。一番安い納豆定食だ」

 文句を言いながらも嬉しそうにメニューを開くフェイトと、その横で龍魔呂の袖を引くキャルル。

 ポポロ村の朝は、今日も賑やかに更けていく。

     ◆

 同時刻、天界のモニター(ゴッドチューブ)前。

『ああああぁぁぁぁっ! てぇてぇ! てぇてぇわぁぁっ!!』

 世界神ルチアナが、エンジェルすまーとふぉんを胸に抱きしめ、限界オタク特有の悶絶を繰り返していた。

『何この完璧な日常回! ツッコミに回りながらも、結局は奢ってあげる龍魔呂クンのこの優しさ! スパダリの極みよ!』

『ルチアナ、リスナーたちの【この三人のやり取りずっと見ていたい】【日常回だけで100話やってくれ】ってコメントが滝のように流れてるわ! 収益(予算)メーターが壊れそう!』

 魔王ラスティアも、ポポロシガーを吹かしながら大興奮で画面に釘付けになっている。

『ふふっ、この平和な日常が尊ければ尊いほど、次に波乱が起きたときのカタルシスが跳ね上がるのよねぇ……。しっかり見守らせてもらうわよ、鬼神クン』

 神々をも虜にする、三人の奇妙で愛おしい日常。

 だが、その嵐の前の静けさを破る『不穏な影』が、ポポロ村のすぐ外まで迫っていることを、彼らはまだ知らなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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