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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第八章 王様の甥と、エルザと、囚われた朝

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第三話「成長と、村の外への憧れ」


エルザが十五歳になる頃には、村での暮らしに、すっかり慣れていた。

畑仕事も、家事も、一通りこなせるようになっていた。

フワンは十歳になり、エルザの後をついて回る代わりに、自分なりに村の手伝いをするようになっていた。


「エルザ、見て」とフワンは、ある日、得意げに言った。「鶏の世話、ぼく一人でできるようになったよ」

「すごいじゃない」

「もう子供じゃないからね」

「十歳でしょ」

「十歳は、もう子供じゃないよ」

エルザは笑った。

フワンは、むくれた。

でも、すぐに、にやにやした。


その頃から、エルザは、村の外の世界に、少しずつ興味を持つようになっていた。

年に何度か訪れる行商人たちが話す、王都の様子。

大きな町の賑わい。

エルザは、その話を聞くたびに、目を輝かせた。

「王都って、どんな所なんだろう」とエルザは、よく言った。

「行ってみたいの」とフワンが聞いた。

「行ってみたいわね、一度くらいは」

「ぼくは、ここがいいな」

「フワンは、村が好きなのね」

「だって、エルザも、犬たちも、みんなここにいるから」

エルザは、フワンの素直さに、少し笑った。


ある日、村に、珍しい客が来た。

王都の貴族の一行だった。

狩りの途中、道に迷って、たまたま村に立ち寄ったらしかった。

村中が、騒然となった。

これほど立派な身なりの人々が、村に来たことは、これまで一度もなかった。

エルザは、その一行を、遠目に見ていた。

きらびやかな服。

立派な馬。

村では、決して見ることのない光景だった。


一行の中に、若い男がいた。

エルザと、同じくらいの年頃に見えた。

男は、村を見回しながら、何か、興味深そうな顔をしていた。

「珍しい村だな」と、その男の声が、エルザの耳に届いた。「地図にも載っていないとは」

「噂には聞いておりましたが」と、付き従う者が言った。「実際に見るのは、初めてです」

エルザは、その会話を、何となく、聞いていた。

何かが、引っかかった。

地図にも載っていない、と男は言った。

村の外の人間も、それを知っているのだろうか。


一行は、村長の家で、しばらく休んだ後、礼を言って、去っていった。

去り際、若い男が、エルザの方を、一瞬、見た気がした。

エルザは、その視線に、少し戸惑った。

「エルザ」とフワンが言った。「あの人たち、誰だったの」

「分からない。貴族の人たちみたい」

「王都から来たの」

「そうみたい」

エルザは、しばらく、去っていく一行の後ろ姿を見ていた。

「私たちの村のこと、王都の人も、知ってるのね」とエルザは、誰に言うでもなく、呟いた。


その夜、エルザは、なかなか眠れなかった。

村の外の世界が、急に、近くに感じられた。

それと同時に、何か、はっきりしない不安も、心の片隅に、生まれていた。

「エルザ、起きてる?」とフワンが、暗闇の中で聞いた。

「起きてるわよ」

「今日の人たち、なんか変だったね」

「変?」

「エルザのこと、じっと見てた人がいた」

エルザは、少し驚いた。

フワンも、気づいていたらしかった。

「見てた、かしらね」

「見てたよ。ぼく、見てたから分かる」

「気のせいよ」

「そうかな」

エルザは、それ以上、話さなかった。

フワンも、すぐに、眠ってしまった。

エルザは、しばらく、暗い天井を見ていた。


何かが、少しずつ、動き始めている気がした。

それが何なのか、まだ、エルザには分からなかった。

それでも、いつものように、白い花の香りが、窓の外から、漂ってきた。

変わらない、いつもの夜だった。

それで十分だった。

今は、まだ、それで十分だった。


つづく


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