第17話:泥の宿場町と、名もなき博徒の誘い
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王都を離れ、ようやく「冒険」らしい旅路へと足を踏み入れたエイト一行。
たどり着いた宿場町で待ち受けていたのは、異世界の洗礼とも言える古典的な賭け事でした。
王都を囲む高い城壁が、地平線の彼方に沈んでいく。
街道を数日歩き、俺たちの目の前に現れたのは、王都の華やかさとは対極にある、煤けた石造りの宿場町だった。
「……ふぅ。……腰が、腰が死ぬ……」
俺は街道の脇にある切り株に腰を下ろし、思わず情けない声を漏らした。
現世ではタクシーと電車に頼り切りだった三十路の体には、この「徒歩の旅」というやつはあまりに酷だ。
「もう。おじさん、情けないよ? まだ数日しか歩いてないのに」
隣で、イチカがケラケラと笑いながら俺の背中を叩く。
『空の魔力核』が馴染んだおかげか、彼女の足取りは驚くほど軽い。顔色も良く、時折見せるその笑顔は、どこにでもいる年相応の少女そのものだった。
「……うるせえ。……『エイト』って呼ぶって決めたろ」
「あ、そうだった。……えへへ、ごめんね、エイト」
首をすくめる彼女の仕草に、毒気を抜かれる。
後ろを歩く三奈も「エイト様の体力作りも、今後の課題ですねぇ」と、ニヤニヤしながら手帳に何かを書き込んでいた。
俺たちはその日、宿場町『ガイル』の門を潜った。
ここは国境近く、行商人や荒くれ者の傭兵が集まる吹き溜まりのような場所だ。活気はあるが、どこか殺伐とした空気が漂っている。
「……わぁ、エイト。見て」
イチカが指差したのは、町の広場に設置された大きな掲示板だった。
そこには、王都で見かけたような優雅な布告ではなく、荒々しく書き殴られた「懸賞金」や「賭け試合」の告知が並んでいる。
「……『闘技場の勝敗予想』に、『魔石の等級当て』か。……どこの世界も、食い詰めた奴が考えることは一緒だな」
俺は、懐で重みを増した銀貨の袋を確かめた。
フォルシアン王子から奪い取った……もとい、正当に勝ち取った資金はある。だが、この先の旅路を考えれば、軍資金はいくらあっても足りない。
「……まずは宿だ。三奈、一番安くて、かつ『情報の集まる』場所を探せ」
「了解です、マスター。……それなら、あそこの酒場兼宿屋『双頭の蛇亭』が良さそうですよ」
「…様って呼んだり、今度はマスターか?…まぁいい、好きに呼べ。」
「イエス、マイマスター!」
ノリノリな三奈の指差す先には、昼間から酔っ払いの怒鳴り声が漏れ聞こえてくる、年季の入った建物があった。
酒場の中に入ると、噎せ返るような安酒と煙草の匂いが鼻をついた。
奥のテーブルでは、数人の男たちがカードゲームに興じている。
「――よぉ、見慣れない顔だな。旅人さんよ」
カウンターの隅、影に隠れるように座っていた一人の男が声をかけてきた。
目深に被ったフードの隙間から、鋭い眼光が俺たちを射抜く。
「……まあな。……少し、喉を潤しに来ただけだ」
「なら、一杯奢らせてくれ。……ただし、その代わりに少し『遊んで』いかないか?」
男がテーブルの上に置いたのは、三つの伏せられた木杯と、一粒の小さな魔石だった。
「この辺りの伝統的な遊びだ。……魔石がどのカップに入っているか、当てるだけ。……勝てば、今日の宿代くらいは出してやるぜ?」
イチカが不安そうに俺の袖を引く。
だが、俺は男の指先――微かに動いた中指のタコを見て、口角を上げた。
「……いいぜ。……その代わり、俺が勝ったら、宿代だけじゃなく『この町の裏事情』もセットで付けてもらうが……構わないか?」
三十路ギャンブラー、新天地での初仕事。
スキルなど使うまでもない。ただの「観察眼」だけで、俺はこの泥臭い勝負を受けることに決めた。
第17話、いかがでしたでしょうか?
大きなイベントが続いたので、今回は少し落ち着いた「旅の情景」と、エイトのギャンブラーとしての原点である「洞察力」に焦点を当てました。
王都の外は、力(戦闘力)が支配する無法地帯。
次回、第18話。男の仕掛けた巧妙なイカサマに対し、エイトが繰り出す「大人げない」反撃とは。
お楽しみに!




