第16話:黄金の誓約、王都脱出のファンファーレ
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王都での激闘に終止符を打ち、ついに自由の身となったエイトとイチカ。
フォルシアン王子から奪い取った「通行証」という名の因果が、彼らを新たな天地へと導きます。
「……嘘。あんなの、本当に引いちゃうなんて」
三奈が呆然と呟き、座り込む。
だが、現実は残酷なまでに確定していた。
第一王子・フォルシアンの足元には、システムが紡ぎ出した黄金の鎖が幾重にも巻き付き、その身を物理的に、そして概念的に拘束している。
「……ぐ、……あ…………」
屈辱に顔を歪める王子を余所に、俺はスロットの払い出し口から転がり出た『通行許可証(因果の断片)』を拾い上げた。
それは、王家の紋章が刻まれた透き通るような白銀のメダルだ。これがあれば、王都のいかなる検問も、王子の「直命」として突破できる。
「……さて。王子様、約束だ。あんたは俺たちに手を出せない。……たとえあんたの喉元に俺が刃を突き立てても、システムがそれを『許容』しない限り、あんたは指一本動かせないんだよ」
俺は、砕け散った指輪の跡が残る右手を軽く振ってみせた。
戦闘力5。相変わらず、吹けば飛ぶような数値だ。
だが、王族のプライドを完膚なきまでに叩き潰した達成感が、俺の背筋を冷たく、けれど熱く震わせていた。
「……エイト、行こう。……ここ、嫌な予感がする」
イチカが俺の裾を強く引く。
彼女の胸元では、定着した『空の魔力核』が、彼女自身の魔力と混ざり合いながら安定した鼓動を刻んでいた。
「……ああ。……ニカ、出口は?」
影に潜んでいた二階堂が、脱帽するような仕草で進み出た。
「……恐れ入ったぜ、エイト。あんたのハッタリは、神様すらも騙し通すらしい。……出口はこっちだ。地下水道を通って西の門へ繋がってる。……この『通行証』があれば、騎士団の鼻先を堂々と歩いていけるぜ」
俺たちは、身動きの取れないフォルシアンを後にし、地下の闇へと足を踏み入れた。
背後から、フォルシアンの絞り出すような声が聞こえる。
「……忘れるな、……『8』の博徒よ。……因果は巡る。……貴公が奪ったその『断片』が、いずれ貴公自身の首を絞めることになるぞ……!」
「……へっ。……そいつは、次のゲームの時に考えさせてもらうよ」
俺は振り返らずに、闇の先へと進んだ。
数時間後。
王都・西門の検問所。
鎧に身を固めた重装騎士たちが、鋭い眼光で通行人を監視していた。
だが、俺が白銀のメダルを掲げると、彼らは一瞬で直立不動の姿勢を取り、深々と頭を下げた。
「……失礼いたしました! 第一王子閣下の特使の方とお見受けいたします。……開門!」
重々しい鉄の門が、ゆっくりと左右に開いていく。
その向こう側には、どこまでも続く草原と、朝焼けに染まる地平線が広がっていた。
「……出られた。……本当に、外に出られたんだね」
イチカが、眩しそうに目を細めて呟く。
王都の「生贄」として、高い壁の中で死を待つだけだった彼女が、初めて手にした本当の自由。
「……ここから先は、もう『管理』された箱庭じゃねえ。……何が起きるか分からない、正真正銘のぶっつけ本番だ」
俺は、隣を歩くイチカの頭を乱暴に撫でた。
「……まあ、安心しろ。……運が尽きるその時まで、俺がずっと隣にいてやる」
「……もう。……またすぐ、そういうかっこいいこと言うんだから」
イチカが、顔を赤くして笑う。
その笑顔は、かつて現世で見たどの景色よりも、賭けに勝った時の高揚感よりも、俺の胸に強く刻まれた。
「……さあ、行こうぜ。……次のカジノ……いや、次の街へ」
三十路のギャンブラーと、運命を背負った少女。
二人の旅路は、まだ始まったばかりだ。
第16話、いかがでしたでしょうか?
システムの拘束という「ルール」を利用して、最強の敵を置き去りにするカタルシスを描きました。
しかし、フォルシアンが最後に放った不吉な予言。
そして、新天地で待ち受ける新たな「数字」を持つ者たち……。
次回、第17話。新章突入!
旅の途中で立ち寄った宿場町で、エイトは再び奇妙な「賭け」に巻き込まれることに。
お楽しみに!




