幕間 早瀬ふみ②
お姉ちゃんがいなくなってから、私の家が明るくなることはなかった。もともと裕福ではなかった私の家は、お姉ちゃんだけがみんなの希望でもあり光でもあった。
家に帰り、暗いままのリビングにただいまを告げる。暗がりでふさぎ込んでいるお母さんから返事があることは滅多になく、今日も冷たい部屋に私の声が響くだけだった。
自室に入ると、そのまま倒れるようにベッドに転がった。いよいよ明日から、本格的にファニーゴーストのダンジョン攻略に入る。となると、当然ながら岡本光を陥れるチャンスも広がることになる。
――でも
首につけたチョーカーをぼんやりといじりながら、私は何度目かのため息をついた。もともと私には、ダンジョンプレイヤーとしての才能はなかった。血の滲む努力をしてようやく平均値に追いつけるぐらいの能力しかないことは、自分でもわかっていたし家族もわかっていた。
だから、家族のみんなは私に期待せずにお姉ちゃんだけに期待を寄せていた。もちろん、神様の送りものと言われる聖属性を持ち、ヒーラーとして活躍するお姉ちゃんを私は心底尊敬していたし、ダンジョンプレイヤーとしても憧れていた。
そんなわけだから、私という存在はいてもいなくても同じだった。たまに組んでいたパーティーでも、私の存在が重視されることはなかった。いつも後方支援の立ち位置で必死に戦っていた私に、労いの声をかける仲間は一人もいなかった。
――なのに
私はチョーカーを握りしめながら目を閉じた。私が狙って足を引っ張っただけなのに、岡本光は馬鹿みたいに私をかばっていた。しかも、私が仕方なく頑張っていたことさえも認めてくれた。
そう、私はあの時、岡本光の足を引っ張ることを忘れて本気で戦っていた。いつの間にか復讐心を忘れ、目の前のピンチに対処しようと自分なりに足掻いていた。
だから、神崎先輩に詰め寄られた時はショックだった。私が狙って招いた事態だったけど、それをまともに責められたことを悔しいと感じていた。
それはつまり、私は岡本光のパーティーに居心地の良さを感じているのかもしれかった。これまでのパーティーでは、ついていくのも必死だった。天性の才能を持つお姉ちゃんに憧れて始めたダンジョンプレイヤーだったけど、私には才能がないとわかった時から息苦しくて仕方がなかった。
それでも、私はお姉ちゃんという目標がある限り頑張ろうと決めていた。私も、いつかお姉ちゃんみたいに活躍できる日が来るかもと夢をみていた。
けど、それも全て岡本光が台無しにした。その復讐心は、今も胸の中にはっきりと刻まれている。必ずダンジョンの中で恨みを晴らしてやるという誓いは、今この瞬間も自覚することができる。
「私、何考えているんだろう」
急に馬鹿馬鹿しくなった私は、ペンギンのぬいぐるみに拳をぶつけてみた。岡本光のパーティーに入ったのは、あくまでも岡本光に恨みを晴らすためだ。間違っても、自分が活躍することなど期待してはいけなかった。
そんなことは百も承知なのに、神崎先輩と岡本光の顔がちらついて頭から離れなかった。お姉ちゃんと同じ匂いのする神崎先輩のそばにいると、つい、お姉ちゃんを目標にしていた自分を思い出してしまう。
さらに、自分と同じように血の滲む努力を続けていた岡本光を見ると、私と同じ境遇のような気がしてしまいそうになってしまう。
――私、どうしたいんだろう?
二人の残像に見つめられたまま、私は自分の胸に聞いてみた。燃え上がる復讐心の陰にちらつく本心が、きっと私の望みなんだろう。
――でも
私は頭をふって二人の残像を追い払った。馬鹿な考えに決心が揺らぐわけにはいかなかった。どんな理由があったとしても、岡本光が私の家を不幸に陥れた事実に変わりはないのだから。
私は再び岡本光への恨みを募らせながら、明日からのダンジョン攻略でどうやって恨みを晴らすかを考えることにした。




