2-5 ダンジョンプレイヤーにとって大切なこと
週末の放課後、ダンジョン攻略の打ち合わせをするまで結局神崎と会話はなかった。何度か話しかけようかと考えたけど、どう話をしていいかわからなかったし、 そもそも話しかけていいのかすらわからなかった。
でも、そんな状況の中でも神崎の何気ない変化に僕は気づいていた。いつもはどこか他人を寄せつけない雰囲気があるのに、なぜかダンジョンに行った翌日からいつもと違う雰囲気を漂わせるようになっていた。
ただ、登校してきた時は明らかに怒っていたのは間違いない。でも、教室に入ってきた時には困惑の表情を浮かべていた。
登校してから教室に入るまでの間に、何かがあったのは間違いない。誰かに何か言われたんだろうけど、でも、神崎が誰かの意見にふりまわされるというのは想像できなかった。
しかも、困惑の表情はやがて悩みを持った瞳に変わっていった。憂いを帯びた瞳に覇気はなく、どこか物悲しげな雰囲気だけを静かに漂わせていた。
そんな神崎の変化もあって、僕はどうすることもできないまま今日を迎えた。本当にバディを組んでいるのか自分でも怪しく思えたけど、多目的教室にはとりあえず姿を見せてくれたから、一応は神崎もまだ僕らのことを仲間とは考えているみたいだった。
「岡本、ちょっといい?」
席についたままどう切り出すか考えていた僕よりも先に、神崎が声をかけてきた。
「ふみちゃんのことなんだけど、ちゃんと謝ろうと思う」
「え?」
「大事なことだとしても、岡本の言うとおり、ふみちゃんのことを考えもせずに言い過ぎたと思う。だから、ちゃんと謝ろうと考えてる」
神崎の口から、想像もしていなかった言葉が飛び出てきたことに驚いてしまい、僕はすぐに返事ができなくなってしまった。
「何? なんか変?」
「あ、いや、変じゃないと思うよ」
ぎろりと睨まれ、慌て僕は神崎の意見を肯定した。神崎は、どちらかと言えば自分の意見を押し通すタイプだと思っていた。だから、急にしおらしくなったことを変に思わないといえば嘘になる。ましてや、僕の意見をあっさり受け入れるとは思ってもいなかった。
「でも、神崎が言ったことは間違いじゃないよ。ダンジョンに危険はつきものだから、軽率な行動を慎むことは大事なことだと思う」
「ありがとう。でも、今後は言い方には気をつけるから」
やはりおかしいくらいにしおらしくなっている神崎に、僕は拍子抜けすると同時に違和感を覚えるしかなかった。
「お疲れさまでーす」
妙な空気が漂う中、タイミングがいいのか悪いのかわからない絶妙な間で、早瀬が暗い声のまま猫背気味に部屋へ入ってきた。
「ふみちゃん、この前のことなんだけど、冷たく言ってごめんね」
有言実行とばかりに、神崎がびびって縮こまっている早瀬に頭を下げた。早瀬の反応は、僕と同じように口を開けたまま固まるだけだった。
「いえ、神崎先輩は悪くありませんよ。悪いのは、軽率な行動を取った私ですから」
我に返った早瀬が、大袈裟な身振りで神崎の言葉に応える。神崎がきつく言ったとはいえ、言ってる内容に間違いはないのだから、神崎が謝ることはないとばかりに早瀬は大手をふり続けた。
「ありがとう」
そう呟いたところで、ようやく神崎が笑顔を見せた。
「あ、これ、ふみちゃんにあげるね。仲直りの印に受け取って」
困惑する早瀬をよそに、神崎が赤い宝石のついたチョーカーを差し出した。
「防御力としては大した効果はないけど、寒さ対策にはなると思う」
神崎が渡した赤い宝石は、氷属性に対する耐性があるアイテムだった。前回、寒さで震えっぱなしの早瀬を考えての神崎なりの優しさということらしい。
「神崎先輩、ありがとうございます」
猫の鈴みたく首にチョーカーを付けた早瀬が、涙目になって神崎の胸に飛び込んでいく。その光景を見て、ようやく僕の胸に広がっていた不安やわだかまりが少しずつ晴れていった。
「神崎さん、少し変わりましたね」
いつの間にか背後にいた鈴木さんが、顎をさすりながらしみじみと呟いた。
「やっぱり、鈴木さんもそう思いますか?」
「はい、以前は何か張りつめた空気を纏っているように見えました。しかし、今は少し角が取れた感じですね」
温かく神崎を見つめる鈴木さんの目が一層細くなっていく。僕としては、神崎の人を寄せ付けないオーラに凛々しさを感じていただけに、丸くなった神崎にはどこか物足りなさに似た寂しさを感じていた。
「何?」
そう感じたのもつかの間、神崎が冷めた目で僕を見つめてきた。やっぱり神崎は、冷たいくらいがかえってちょうどいいような気もした。
「いや、何でもないよ。それより、ダンジョン攻略の打ち合わせを始めよう」
適当に誤魔化しながら、僕は再び席に腰をおろした。神崎は僕を不審者のように見ながらも、小さくため息をついて僕の隣に座った。
「皆さんに話した通り、前回のダンジョン攻略はあくまでも前座だと思います。ファニーゴーストを攻略する素質があるか、最初の段階で判別していると思います」
全員が座ったところで、鈴木さんが咳払いをして話を切り出した。ファニーゴーストのダンジョンは、いわばユウジ・キムラの思惑があるダンジョンであり、鈴木さんによれば全ての階層に意味があるとのことだった。
「ファニーゴーストには、志半ばで亡くなったダンジョンプレイヤーたちの亡霊がいるといわれてます。ですから、光属性のダンジョンプレイヤーがいなければ先には進めません。その条件を満たしているか、最初の段階で試したんだと思います」
「でも鈴木さん、ファニーゴーストはSランク指定のダンジョンだよね? だったら、光属性のダンジョンプレイヤーがいるのは当たり前じゃないの?」
鈴木さんの説明に、早瀬が最もな質問をぶつけた。通常、Sランクのダンジョンプレイヤーになるには、光属性のスキルを身につけることが条件になっている。光属性は、一般的な属性を最低でも三つ以上はマスターしなければ手に入らない属性であり、誰もが簡単に手に入れることができる属性ではない。
僕らの場合、鈴木さんがフリーパスのカードを持っていたからダンジョン攻略ができるのであって、鈴木さんがいなければ、例え僕が属性反転したとしてもランクの条件で参加そのものができなかった。
「確かに早瀬さんの言うとおりです。しかし、中にはランクを偽装したりする不届き者もいますからね。巧妙にフリーパスが偽造されて市場に出回っているのも事実です。ですから、キムラはダンジョン攻略にあたって、誤魔化しがきかないように最初に光属性の素質があるか試したんだと思います」
鈴木さんの説明に、みんなが納得の声を上げる。ファニーゴーストのダンジョンには、ユウジ・キムラの強さの秘密があるといわれているから、ひょっとしたら、光属性であるというのも強さの条件なのかもしれない。
「最初のフロアから読み取れるのは、光属性があるかどうかってことね。とすれば、ユウジ・キムラの強さの秘密の一つとして、光属性があることは絶対ということになるわけか」
軽やかに語りながら、神崎が僕に顔を向けてきた。その顔には、先日まで見せていた困惑の表情は欠片も残っていなかった。
「神崎さんの言うとおりです。キムラは、フロアごとに強さの秘密につながるヒントを残していると思います。ですから、ただ攻略するのではなく、攻略にあたって何が隠されているのかを考えていきましょう」
鈴木さんの言葉に、僕らは同時に頷いた。ファニーゴーストのダンジョンは、ただ魔物を倒して先に進めばいいというわけではない。亡くなったダンジョンプレイヤーたちの亡霊がいるという点から考えても、ダンジョンプレイヤーに関する大事なことが問われる可能性がありそうだった。
「明日からは、今まで以上に過酷な状況になると思いますので、しっかりと準備をお願いします」
簡単な予定の打ち合わせを終え、鈴木さんが最後の確認を入念に押した。いよいよ明日から本格的にダンジョン攻略が始まることに、僕は不安と緊張で体が震えるのを感じていた。
~第二章 世界最恐ダンジョン 完~
※設定が多少わかりにくいかと思いますので、補足させていただきます。
この作品に登場する属性には、先天的なものと後に身につけるものがあり、ややこしいかと思います。
まず、属性は生まれながらにして一つ持っています。基本的な属性として、火、水、風、土の四つのうちの一つが選ばれますが、これはどの属性になるかは自分で選べないようになってます。
その代わり、他の属性は後に身につけることができます。ただし、属性には相性がありますから、身につくスピードも変化しますし、身につけた時の負担も変わってきます。なので、属性をどう身につけていくかも、一つの戦略要素になってきます。
その他、生まれつきしか身につけられないレア属性や、組み合わせ属性等を設定しています。
先天的や後に身につけるといった混乱する書き方をしていますが、今のところはこういう設定と思っていただけたらと思います。
今後は随時補足を本文に入れつつ改稿していきたいと思いますので、引き続きお相手していただけたらと思います。




