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全員バトン  作者: 森野昴・シンG・しいたけ・ぼるてん・黒イ卵・間咲 正樹・陸 なるみ・マックロウXK・砂臥環・砂礫零・秋の桜子・かわかみれい・べべ
9/15

9月 (砂臥 環)

「————はッ?!」


 目を覚ますとそこは学校の教室だった。


「お、やっと起きたか」

「龍……」

「……なんだ『龍』って……寝ぼけてんのか?」

「は?」


 俺はキョロキョロとあたりを見回した。


「……ここは? 一体どっちの世界なんだ?」

「何言ってんのお前……厨二がとうとうリアルに支障をきたし始めたか……」


 混乱する俺に、ヤツは哀れみを容赦なくたたえた瞳を向けながら、いつものように書道で使用する毛筆セットを片付けている。


 ……なにかがおかしいどころの騒ぎじゃない。


(そもそもだ……俺たちは()()()()中学三年生になったんだ?)


 そのことにようやく気付いたのだ。




 アイツが書き初めなんかで意味のわからない文を書いたあの日……俺らはもっと、いい大人ではなかったんじゃないのか。


(そうだ、そうだった筈だ)


 あの日俺たちは()()()()()()()()()()、互いの夢を語り合った……まるでそれは中二・中三の青臭いガキンチョの様に。

 2月のバレンタインだって……

 あの日行った、自宅から10分程歩いた駅前の洋菓子店。あれは俺とアイツが()()()()()()場所の記憶だ。



 俺たちの住んでいた町——この中学のあった場所は、山と海に囲まれた、のどかとしか言いようのない田舎だった筈だ。当然駅前に女子で賑わうような小洒落た洋菓子店はなく……ましてや賑わうほど多くの若い女子もいなければ、そもそも徒歩10分で駅になんざ着かないのだった。


 この町で唯一の中学であるこの中学校の生徒は、統廃合を繰り返した周辺地域の寄せ集めで構成されている。辛うじて普通の学校の六分の一位の人数はいるものの、その殆どは学校用のバス通学だ。より立地のいい学校と統合を果たすために、俺ら卒業の代で廃校が決定した為、下の学年に生徒はいない。


 中学を卒業した俺らは別々の高校に進学が決まった。

 互いにここよりも都会に移り住まなければいけないことから、俺達は進路の希望の段階で相談し、近い学校に進学することにし親にその旨を告げた。同居の為である。

 なんせ、片道二時間ほどかけて学校に通わなければならないのだ。しかも電車の本数は限られており、定期代も滅法高い。

 家族同士が仲が良かったこともあり両家揃っての家族会議の結果、同居生活を勝ち取って……そのまま大学に進学してもズルズル一緒に住んでいる。




 目の前の親友の顔をじっと見つめると、ヤツは「なんだよ?」と眉根を寄せる。若い。あどけない。……どっからどう見ても中三の頃のヤツだ。


(落ち着け……情報を整理すべきだ)


「……あ、わかった。 クラス新聞の小説の事考えてたんだろ〜。 ホントアホっつーか天才っつーか、紙一重だよなお前って。 何だよ『パッカティーン』とか『女コマンドー先生』とか(笑)。 まぁ男子には超ウケてたけどな!!」


 人がガチで悩んでいるというのに何を言い出すかと思えば、ヘラッヘラしやがって……


 そう心の中で悪態を吐いていた俺だが、ヤツの次の一言に、アン○ニオ○木に闘魂を注入されたかのような衝撃が走った。


「つかお前女子にエロコマンドーって呼ばれてたぞ?」


 ————この台詞は……ッ!以前にも聞いた!!


(だが違うタイミングだった筈だ……もしかして……)


「なあ、今年って何年だ? 西暦……」

「あぁ?」


 唐突や俺の質問に、中学三年のヤツがきょとん、とする。ヤメロ、更に幼く見える。


「2019年、だろ」

「もしかして……既に繰り返してるのか……?!」


 いつから、何度だ?!心当たりは……ある!!


「どーしたんだよ一体……」


 ヤツの疑問の言葉を遮り、俺は声を荒らげる。


「クラス新聞!! 今まで書いたやつ全部!! それと……お前が書いた書き初め、アレが必要なんだ!!」

「お……? おぉ……」


 戸惑いながらもヤツは了承し、「ばあちゃんの家にあるから、今日泊まりに来い」と言ってくれた。俺の様子にただならぬモノを感じたようで、酷く真面目な顔をしながら。




 アイツのばあちゃんの家は、ヤツの家の敷地内にある平屋。

 田舎にありがちだが、一軒の土地が無駄に広いのだ。ばあちゃんは多趣味で足腰もしっかりしている為『同居するよりも近くでの別居の方が、互いになにかと気を遣わなくてすむ』と言って自らデザインしたモダンな平屋に住んでいるのだ。……本当に多趣味である。


 有難いことにそこのロフト部分(とは言っても壁もしっかりあり、屋根裏のような佇まいだ)を孫であるヤツに与えており、持ち込んだ漫画やゲームなどで、最早俺らの巣と化していた。

 1月に()()()()()()()酒を酌み交わしたのもここだ。



「おー、よく来たな。 ばあちゃんこれからセンサー(※川柳サークル)の面子と合コンだから好きにやっとくれ。 悪さすんじゃないよ!」

「ほーい……てか合コンかよ!」


 入口でレトロワンピースに身を包んだばあちゃんとすれ違う。ばあちゃんは一度だけ振り向いて「カレーあるから!」とだけ言うと、長いスカートをはためかせながらママチャリで豪快に走り去って行った。……若ぇ。



 ばあちゃん特製、何故かちくわが入った甘口カレーを食いながら、用意してもらったクラス新聞を眺める。そこには自らが書いたフザけたファンタジー小説が書かれていた。これは俺が見た夢の記憶を参考に……というかそのまま書いたものである。


 そして、少し離れたところに置いてあるヤツの書いた書き初め。


『夢』という符号。

『貴様らは呪われている』と女コマンドーは言っていた。


 全ての記憶を取り戻した訳ではないが、今ならわかる。


 この小説は今まで何度も繰り返した2019年そのもの。

 どうやらファンタジー世界とこの世界と、舞台を変えながら2019年を繰り返しているようだ。


(今回の舞台はこの世界の2019年。記憶を取り戻した今度こそどうにかしないと……だが、残念ながら前世の覚醒云々はしていないようだ。俺もコイツも)


 繰り返している、ということはどちらの世界でも某かのフラグを拾えていないんだろう。


 具のちくわを頬張りながら、向かいに座るヤツの方を見ると目が合った。既にカレーを食べ終えているヤツは麦茶を一口飲んだあと、真剣な顔と口調で言葉を発する。


「お前は一体何に悩んでいるんだ?それは俺にも話せない様な事なのか?……俺は確かに頼りないかもしれないが、何かできる事があるかもしれないだろ。無いにしても、聞くぐらいの事はできる」


 なんてストレートで臭い台詞だ……。こいつはこういうところがある。そして育ってからも変わらない。ふとバレンタインの時の出来事を思い出し、つい笑ってしまうと14のヤツは明らかに不機嫌そうな表情をした。


「いや……ごめん、違うんだ。 ただ、俺の話はきっとお前にとっちゃ突拍子もなくて、訳のわからん内容だ。——それでも信じてくれるか?」


 信じてくれなければきっとまた繰り返すのだろう。


 だが厨二ロマンチストで、中三で、義に厚いヤツである。想像通りの答えが返ってきたが、無駄に臭いのでそれは割愛する。




 繰り返された2019年の記憶は、夢の出来事……つまりクラス新聞に書かれた内容。

 クラス新聞に俺が小説を載せたのは4回。

 3月(クラス編成特別号)、4月、6月、8月(夏休み特別号・登校日に配布)。

 5月と7月はアイツがコラムっぽいものを載せている。

『クラス新聞』なので、当然ながらクラス編成特別号である3月が一番頭だ。


「——これらが『繰り返された2019年』の記憶であることは間違いない。 俺はさっきも説明したように、記憶を一部取り戻した。 夢だと思っていた他の世界の記憶も含めて」


 始まりの1月、2月は、繰り返す前の世界であり、2025年。あれからなにかがおかしくなり、次の1月、2月からは中学時代の記憶としてすり替えられていたようだ。


 俺の拙い説明ではすぐには理解できなかったようで、何度も質疑応答を行っては、アイツは達者な文字でメモを書いていく。そうすることで冷静になり、理解を深めていく……あいつは勉強でも悩みでも、いつだってそうやって処理してきた。

 その変わらなさに安堵がこみ上げ、口元が綻ぶ。



 正直俺は、ガンマンのアイツなんかにはもう出会いたくはない。


 俺の知っているコイツは、虫も殺せないような男だ。

 生死がかかっているとはいえ、何をどうしたらあんなふうになるというんだ。

 女の趣味だけはブレてないのがまた小憎らしい。


 どうにかこの世界で繰り返しを終わりにしたい。



「う〜ん、大分わかった気がする」


 メモ書きに使用している、ヤツの手元のノートは挿入記号や矢印やらの記号が飛び交い、文字で埋め尽くされている。


「『魔の13月』が発生すると『永遠に2019年が続く』んだったな……そして3月〜8月までのクラス新聞に、そのデータがお前を介して残されている。 もう既に『魔の13月』が始まっているとしても、クラス新聞が発行される間、猶予が残されているって考えは甘いかな? 突入契機は俺が夢で見た文言……あの行数分の、月。 『夢で見た』ってのもそうだし、他にも8行までの事柄が、ほら……微妙に符合しているように感じないか?」

「確かに……!!」


 話し合える相手がいるという事は良い。相手が中三だと思って侮るなかれ、だ。記憶が戻ったり、変に覚醒していない、というのも逆に良かったのかもしれない。なにか突破口が見つけられるような気がしてきた。


「ところで……本来通る筈だった未来、お前の知ってる限りでは2019年はどうなっていたんだ?」

「俺が知っている2019年……うっ?!!」


 思い出そうとしたその瞬間、頭に強い衝撃。

 それと共に俺の世界は暗転した。




 まるで頭を鈍器で殴られたようなガンッという音。

 ……それもその筈、俺は知らなかったが実際に鈍器で後ろから殴られていたのだった。





 遠くにアイツの悲鳴と怒声が聞こえた気がした。



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