11月 (秋の桜子)
あちらと向こうとこちら、一つは昔、一つは中途半端の夢の中、ひとつは令和の時代過ぎた頃、霜月朔ついたち睦月のゾロ目。パラパラリズム。三つが揃う。悪い夢は川へと流せ。
月に並びし逓送ていそうしゆく物語始まりき
聖踊子・鳳凰は、制服姿でパラパラを踊る。俺はそれを眺めていた。何かが、何か、そう彼女の踊りは、俺の記憶を揺り起こす。胸に切なく迫る。無くしたモノを思い出すように。
それは隠し場所を忘れてしまった宝箱、それはほろ苦い熱を出したバレンタイン、そしてパッカーティーンなる技、エロコマンドーの称号、俺とヤツの類まれなる妄想の賜物、壁新聞。夏の日の思い出、今は記憶の中にしかない、手に触れれないモノ達への想いに似ている。
くすりと奴が無邪気に笑う、そしてなぜかな?懐かしいなとのほほんとした声で呟いた。
「懐かしい、ああ、そうだ『懐かしいんだ』」
俺はその言葉を口に出した。パラパラの曲が大きくなる、何処から流れて来ているのか、脳裏にダイレクトに入ってくるリズム、音が空間を支配する、
口の中に広がる甘いちくわのカレー、ポケットに入れてあるそれが、奴が書いたもう一枚が、カサリと動く、感情と物理が俺の中でクロスをした。
グニャリと視界が渦をまく。クスクスクス、アハハハ笑い声、やだなぁ、クソ!不平不満の声、泣き声、怒る声、渦の中にぼんやりと浮かび上がる校舎、スーパー銭湯の景色、ヤツの家、埃っぽい夜の教室。過去と夢と現実が重なる瞬間。
「ようやく来たのか、懐かしいよね、パラパラ、体育祭で、女子は団ダン(団体ダンス)男子は組体操だったっけ?で、どうするの?私達、はぁ、やらかしちゃったぁ」
スマホから流れていたそれを止めた彼女が、懐中電灯の灯りを顔の下に持って来ると、妖艶に微笑んだ。
「怖!あれ?おお!聖踊子・鳳凰!あ、いてて頭にコブ出来てっし!お前がやったのか?何で学校?」
「は?コブ?知らないし、あー、ここに来たのはパラパラに引かれたんじゃない?てかそんなの直ぐに治るわよ石頭、中坊の時の壁新聞の小説キャラ名で呼ばない、聖剣士・麒麟、あ、二人共に、エロコマンドー1、2のがいい?」
「ぐ、その名を、呼ぶな、?あれ?」
「聖銃士・龍ならそこで寝てるし」
見ればスヤスヤと奴は寝ている、コイツは、と思いながら、俺はガタンと席を立った。窓から外を見る。霜月の夜、草ぼうぼうの荒れ果てたグランドは闇に溶けている、それを見てクリアになる感覚。
「あーもう!何故、アイテムに『パラパラ』入れてるのよ、これ読んだけど体育祭のダンス入れてたし」
「てか。何でお前、こんな所にいるんだよ?学校だよな、ここ。あ!それ、もう少しで邪神ウロボロス退治前で終わっていた、クラス新聞」
「そう、残ってたわよ。私は………最後に学び舎を、アチコチ見たくなったから、有効利用とか言ってたけど、結局は潰しちゃうんだなって、たまたま戻ってこれたから、鍵壊れてたとこそのままだったし、もう!エロコマンドー片割れ!何でどうしてこっちに来たのよぉ!バッカ!なんじゃない?」
「あー?訳のわからんこと言うなよな、クソ!お前もいたぞ、スーパー銭湯でさ、あのままの役でさぁ、服装も、ハッハッハ!女コマンドー、お前、ぐふう、今思い出しても腹がイタイ」
「ぐ、ノリでキャラにしていいって言った事を葬りさりたい。全ての元凶は、この新聞、あの時、皆で集まった睦月の十一日、この学校最後の時に、全て持ち出し焼いておけば良かった、この場に残しておいたのはミスだわ」
「くひひひ、ふ、ぐうくく、え?なんでミスになるの?書きかけだから?」
「そう、最後まできちんと書くべきだった、道筋は出来ていたのだから、はぁ、覚えてる?貴方も執筆者の一人で、私はイラスト担当だった、壁新聞のトップスリー」
「う?うん、覚えてる。え、と、聖がつくのは三人、俺とヤツとお前だろ、俺達三人転生者で、それだけが現実からの借り物、そして、キャラに関わり合いの深いパートナー想像して、創り出して、俺は勝海舟の妾の糸美、お前は歴女らしく、パートナーは織田信長だっけ?そしてこいつは、坂本龍馬の嫁のりょうこ。最後は信長を『幸せ☆ハッピーバースデー&こちょこちょうひゃひゃ』から救い出してウロボロスを退治、二人で書いて、で清書してくれてさ、クラス新聞書いてたんだよな」
「そう、邪神ウロボロスを退治してめでたし、めでたしになるって聞いてたよ、それにここの神様とかも出してたっけほら正門の、その続きは無いの?」
「無いかな?ウェブのサイトからも借りたな、ブーメランパンツの神様とか、何、この恥ずかしいプロット、うん、正門脇の大銀杏の下、菩屡天様の祠だよな、出した出した、無い、書いてないや、え、うお!何!」
俺が鳳凰とあれこれと話していると、そうそう!とダンジョン経営者の菩屡天様が、窓ガラスに光をまとい姿を現すと、ふわりと抜け出して来た。思わず窓から下がる俺。
「はい?え?今現実じゃないの?目が覚めて戻って来たんじゃないの?ここ、スーパー銭湯のまま?」
「はい?聖剣士・麒麟、まだ寝てんのなら回し蹴り一発いっとく?側頭部に命中させてあげる、よく見ろ、龍は学生服だろうが」
聖踊子・鳳凰が立ち上がると、軽くステップを踏む。おい、ヤメロ、コブじゃすまねーよ。と彼女にお断りをしている間に、エーテルの様な姿が、それらしい実体に固まった菩屡天様。
「ウホ、呼ばれて飛び出てジャジャジャーン、コレコレ、喧嘩はならぬぞよ、この場か?違うな、眠るそやつがいる過去でもない、ワシが遊んでいる書きかけ途中の過去の夢でもない、お前達の本来いるべき令和でもない。そう、ここはのぉ『狭間』じゃ、止まった世界とも言う、睦月のいちのゾロ目、最後に三人が集うた日、呪われた輪の中なので、待っとれぬから近いゾロ目に、お主らが揃うよう、ちっと神様しちゃった」
「は?ゾロ目……、輪の中、あー、邪神ウロボロスか、で何でコイツ起きないの?」
「あった、13番目の時を迎えてはいけないとか、振り出しに戻るの?それか別な世界に、より一層過酷な飛ばされるか、どちらにしろいいことはないわね、神様来たから起こしたら?」
そうだな、俺はヤツの肩を叩いて起こそうとした、その時、菩屡天様の鋭い静止の声がかかる。手を止める俺。
「さわるな!そやつは今存在が、三つに分かれておるのじゃ、一つは過去、一つはコヤツが書いた夢の世界、そしてここじゃ!二つは幸い過去の世界、なのでひとつになっとる故、狭間以外の世界では何しようと良いが、所詮人の身の上で分かれてるとなると、ここに残るモノは、触れば崩れる、そうなれば持たぬこやつは、令和に戻れん」
「は?三つ?何でわかれてるの?」
「それはお前が持っているモノの影響だ、心を込めて書いてあるそれだ、タマシイの欠片が散りばめられておるのじゃ、それがあるからそやつは、全てを向こうにもっていかれずに、お主の側に留まっておる」
ポケットの中をまさぐる、カサリとそれが動く。そういえばヤツの書いたのは、あっちにお供えしてあった。書き初め、ヤツと俺が作ったパングラムの文章が白抜きされた黒い卵、学級新聞の束、ちくわ入りカレー。
口に広がる、おばあちゃん………うん、ヤツを絶対に、つれてかえるよ!そして呪いを解く、十三月は阻止してみせる。そのためには考えなくてはいけない。
「何故に俺達は違う?あ、俺達もヤツに書いてもらっているから、違うのか………あの世界は俺達が手を貸そうとも所詮はヤツの世界」
「そうじゃ、龍は『一言主』の力を、ちぃーとだけ持っておる、まぁ、おまじないが効く程度だが、言の葉を真に近づける事が出来る、聖銃士・龍が密かに持っている力じゃ、まずは先に中途半端な世界を完結させ、めでたしめでたしにしなくてはならない。そして次がある、アチラのこやつをここに連れて帰れ」
どういう事なのか、にょほほん顔をした神様に、真面目を貫き聞く。
「邪神ウロボロス、これをお主達は、今からアチラに向かい、信長公を呼び出し斬る、それで全てが元に戻ると、本気で信じておるのか?」
「は?どういう事?」
「優れた才は離したくないという、ワガママな輩が神の世界にもいるのじゃよ、アチラの世界で邪神を討伐後には、大人のウフフ、あっハーンがあるということ、それに溺れれば、浦島太郎になるぞ、まぁ、そこのオナゴは………どちらかといえば、その影響は無いだろうが」
「信長様を、私の側から離さぬように、するのもしないのも、私の手腕ひとつ、ふふふふふ今度はオナゴで籠絡したくて、いまわの際に切に願った」
おい、女コマンドー森蘭丸やはりそうだったのか、俺は………いや、昔勝海舟は忘れたい、民子正妻よ、お前の遺言が今脳裏に浮かぶ………大人になってから、何かで読んだ。スマヌ、やはり妾糸美のがかわいい。
「そうか、ならば………さっさと終わらし、あいつをここに連れて帰って来る、それからどうすればいい?」
「紙に記してあろう、そもそも大晦日とは何か知っておるのか?カウントダウンやら、あかしろ歌合戦の日ではない、また誰とでもチュウの日でもないぞ」
少し威厳を正したにょほほん顔の神様、口はキリッと、目はにょほほんだが。大晦日、俺はフル稼働で無い知恵を絞り出し、そして思い出した、ヤツのあれを取り出し広げる。
上から順に追う。辿りく一文。
『一月は年のはじめなれば年神としがみを招まねく』
『年神様』数多なる万物霊長に『歳』をひとつ一つ与えながら、年を渡るという日本の神。
与える事が出来るのならば…………。




