坑道とゴーレム
深夜に新坑道の入り口にたどり着くと、見張りの兵は置かれておらず。どうやら助勢を願った王国騎士の到着まで閉鎖しておくつもりのようだった。まだ閉鎖が決まってから間もないからかバリケードは完全には出来ておらず、アキトの筋力で十分どかして入ることが出来た。
後ろからついてきているメイには安全が確保できるまでは、距離をとってついてくるように伝えている。護身用に厚みのある木に革張りされているラウンドシールドを持たせている。メイの体は小さいため、的になりにくく十分ラウンドシールドで身体を隠せる。ラウンドシールドの裏地に鉄板で補強を加えているが、新型クロスボウと矢の前では貫かれる不安がまだあった。しかし数発は耐えるだろうし、貫かれてそのまま当たっても即死はしないだろう。無論死なせるつもりは毛頭もないが、メイには命がけになることを説明し同意を得た。
アキトは右手に片手で使えるウォーピックを出す。これはツルハシを戦闘用に改良したもので射程は短いが頭に鉄製の兜をかぶっていようと容易く貫き殺すことが出来る武器だ。新坑道のゴーレムがどのような外見をしているかはわからないが刃が通りにくいのは確実だ。石や金属の塊ということであれば狭い坑道で使うチョイスとしてはひとまずこれに落ちついた。左手にはヒーターシールドを出す。カイトシールドより面が丸みを帯びた曲面になっているため、少しはましだと思ったからだった。
途中に兵士達が残したマーカーがあり、そのサインから行き止まりになっているところやどのくらい進んでいるかが判断出来るようになっていた。罠の類も見つからず、順調に進んでいける。後ろからついてくるメイには分岐路に注意を向けるように言っている。背後を取られるのだけは避けるためだ。メイは風魔法を使って何かをやっているようで一種の探査的な魔法のようだった。
アキトは兵士達のマーカーが残っているところまでは遠慮なしにどんどん進んでいった。絶対に死なない自信がそうさせているのもあるが、ここまで雑な踏み込み方は感情的になっている時だとエルは気付いていた。しかし何も言わずに黙ってアキトに任せていた。
二時間ほど進んだところで前方に石で作られた人形のような物が見えた。見えた瞬間にヒーターシールドに角度をつけて初弾を受け流す。重たい音を立てて矢弾がはじかれた。次弾の装填の間もなく一瞬でアキトが距離をつめる。
「アキト、何処かに核になっている魔石があるはずだ。そこを破壊して」
エルに言われるより早くアキトは怪しいと思った部位にウォーピックを振り下ろした。厚みがある胴体部分に埋もれるようにして守られていた魔石がバキンと音を立てて割れる。
(他の遺跡でもゴーレムは見たことあるが、どこも仕組みは大体同じだな・・・。核になる魔石が胸部や胴体にあるのは伝達系統が中心にあったほうが効率がいいからだ。しかしわざわざ人型に寄せて作ってあるな・・・)
思ったより人型に寄せた形をしているが、足は太くクロスボウの引き金を引く為に腕から先についている手や指はそれなりに精密な動きが出来るようになっていた。他の遺跡ではもっと原始的な形であり、武器を持たせるのは珍しい。クロスボウの弦を引き直そうとした時も足で押さえて引くのではなく手で引こうとしていた。構造を見る限り元々クロスボウは他の用途で作られ、ゴーレムはそれに合わせて手を改良したのだろう。破壊したゴーレムをアキトは調べながらエルと意見を交換する。
死霊魔法が自動で動き材料が安価、比較的入手が楽なことに比べてゴーレムは魔法制御によって一体ずつ丁寧に作る必要があり、核になる魔石が高額だ。魔石によって違いも発生しやすく同じ規格で作るのが難しく、汎用性も低い。だが死霊魔法と違い、命令出来るという大きな利点がある。
クロボウと矢弾を拾い上げて手元で消す。調べ終わり、分岐路に差し掛かったところで二体のゴーレムが見えたので撃ち出す前に走り出して距離をつめる。発射音が聞こえたのでヒーターシールドを構えると大きな音を立てて盾がへし曲がった。体に衝撃と痛みが伝わってきたが無視してゴーレムの胸部にウォーピックを振り下ろし、深く突き刺さったところで手を放した。
すぐに壊れず二体目を攻撃する邪魔になったので蹴り押してスペースを作り、踏み込んで右手に出したメイスで殴りつける。狭い坑道内で上手く狙った場所が叩けず持っていたクロスボウを破壊する形になった。そのまま素手で応戦しようとしてきたので押し合いになったが、力比べではアキトに分があり、そのまま押し込んで態勢を崩し倒れたところにメイスを振り下ろした。
「力は結構強いね、魔法強化されてる騎士より少し低いくらいかな。常時この出力と考えると驚異になる」
エルはアキトが筋力を抑えずに戦ってると仮定して、ゴーレムについて感想を述べている。アキトは手元のひしゃげたヒーターシールドとメイスをしまい、ウォーピックを引き抜いて周囲を見渡す。
破壊したゴーレムから数メートル先に血だまりがあり、引きずられた後があった。近寄ってみると壊れた武具や盾が無造作に落ちていた。どうやら兵士達が交戦した場所のようだった。アキトは無言で落ちている盾を拾い上げる。
鉱山街の職人が作り上げ、アキトもアイデアを出した盾だ。補強が行われ重さはそれなりだが、逆にこの重さが信頼に足る。ロソンの物ではなく、もう一人の兵が使っていたものだろう。消耗度を見る限り充分使える。代わりに左手でこの盾を持ち、そのまま使うことにした。
アキトがゴーレムを倒す前にあった分岐路の先は行き止まりになっているとメイがアキトに伝えてきた。どうやら風魔法で探査しつつ息を殺して確認していたようだ。メイの言葉を信じてアキトはそのまま道を進んだ。
道中何度もゴーレムに出くわすが、盾を使いながら特攻を繰り返し次々と破壊をしていった。何度かの交戦時に盾は完全に壊れて、運用が難しくなった。
(ロソンはやっぱり凄かったんだ。盾が壊れたタイミングが悪かった。僕は盾が壊れる前に何度も被弾しているし、使い倒す前に本来なら死んでいる。負傷した兵がいなくて盾の不調がわかっていればきっちり撤退も出来た筈)
壊れて役目を終えた盾をその場に捨てる。
(・・・)
進んだ先には坑道の先を覆うようにつくられた丸太で組まれた木製の壁とそれなりの大きさの扉があった。メイには離れて隠れてもらいアキトは扉を見つめてノックした。
「感情的になって全部壊すのかと思ったよ」
エルが僕に対して声をかけてきた。
「正直そういう気持ちはあるけどね・・・。僕は今大事な人の願いで動いている、ロソンの仇を打ちに来たわけじゃない」
(その筈だ・・・)
いつの間にか右手のウォーピックを強い力で握りこんでいた。
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