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みんな大好きハーゼ先生

 診療所から宿に帰り、旅支度の確認をする。昼から必要な物を全部揃えたが、路銀を消費した分補いたいとも思う。


 ハーゼの薬草採取は路銀稼ぎとしてはかなり有効であり、魔物狩りと比べれば楽だ。それにハーゼの知識は面白いところがある。しばらく研究にこもると言っていたが、再び薬草が必要になるかもしれない。ハーゼ自身も各地で医療を行っているようで、話してはいないが魔力がない人間の噂等を聞いているかもしれない。


 それこそ魔法が使えないのだから薬や医学に依存することは十分に考えられる。であれば、しばらくハーゼの研究を手伝うのも悪くない、こちらの知りたい情報を引き出す前にハーゼの事を

もっと知る必要があると思ったからだった。



 診療所がもう閉まっている時間かもしれないと思いながらもアキトは、ハーゼに薬草集めの依頼を継続しないか確認しにいくことにした。


 診療所の前までたどり着くと診療所の扉が開きっぱなしになっていた。不用心だなと思いながらも声をかけながら診療所の中に入っていく。すると中にはゼクスがいた。


「うわ・・・ちょっとびっくりしたよ」


「アキトか、驚かせてすまないな」

ゼクスは若干困り顔で立ち尽くしていた。


 何をしているのか尋ねたところどうやらゼクスは今日の内容をエリスに伝えたところ、明日すぐにでも行くと言い出したらしく、まだ薬を飲み切りで飲んでいないしハーゼもしばらく研究に入るから患者を受け付けていないだろうと思い相談に来たとのことだった。


「ゼクスって結構まめなところあるよね、でこの状況は?」


 エルが僕達以外に誰もいない状況の診療所で何故ゼクスが立ち尽くしているのかわからないようだった。


「それだが、俺がここに来た時に最後に診察を受けたであろう患者が出てきて今日はもう終わりだとハーゼ先生に言われたというのを教えてくれてな、しかし診察ではなく軽い相談だから診療所の扉にクローズの札をかけにハーゼが出てくる時に聞こうと思ったんだ。しかしいつまで経っても出てこない」


「札のかけ忘れだろうけど、それで中に入っちゃったんだ?良い事ではないね。アキト、日を改めたほうがよくない?」


 エルが明日再度ここに訪れようとアキトとゼクスに提案したところで二人も納得した。しかしその時、小さなうめき声がかすかにだが聞こえてきた。あぁ・・・うぅ・・・と言ったような声だ。


 それをアキト達は全員聞き逃さず、エルはなんだろ?ともらしている。



 アキトは扉の札をハーゼの代わりにクローズにするため待合カウンターに置いてある札をとって扉にかけて、診療所の中から扉を閉めた。


「・・・」


「どうしたの?アキト」



「エルはさ、診療所の裏の集団墓地の噂覚えてる?」


 エルはエリスから聞いた噂話のことだねと思い出したように語る。集団墓地に幽霊が出てうめき声が聞こえてくる、結構前からあるといった噂話だ。その話を聞きながらアキトは自分の考えを口にしていた。


「・・・実を言うと僕はハーゼの事を少し疑っている。」


ゼクスとエルがアキトの言葉を聞き、耳を疑ったような反応をする。


「僕は魔法についての知識が薄いし、幽霊と言われても正直ピンとこない。でも君達は違って、幽霊って言われたら割とすんなり腑に落ちてくるだろ?あぁ教会の聖職者を呼んで対処してもらおうみたいな感じで」


「当然」


(それが僕からしたら変なのだけど、事実そういった現象が魔法によって存在する。)


「今まではそれで通ってきてて、毎回僕が異物だからそう感じるんだなって思ってたんだ。事実、幽霊でした・・・みたいな。馬鹿馬鹿しいと思うけどね、そんなもんかって慣れるんだよ」


「アキトー何が言いたいかわからないよ」

エルが話の要点を早く言えとせかしてくる。


「ハーゼはどちらかというと僕側の人ってことだよ、ロボって話じゃなくて考え方って意味でね。僕が彼を疑う要素というのはいくつかあるんだけど君達に伝えても君達の常識で考えるだろ?」


 しばらく間を置いてからアキトは待合室から診察室の扉に向かって歩く。

「だから僕は自分で調べることにするよ、違ってたらみんなに謝るさ」


「えぇ!?」


「待て、それならば俺も行く」


ゼクスが僕についてくると言い出した。

「お前は信頼できる奴だ。ここでお前を止めるのや自分は関係ないと帰るのではもやもやするだけだ。確認して間違っていたら一緒に謝ればいい。」



 皆が僕についてくることに同意したので診察室の扉に手をかけ、ゆっくり開ける。診察室の中に入るとそこはもぬけの殻で誰もいないようだった。ハーゼは間違いなく診療所からは出ていないので、ここからつながる部屋があるはずだ。あたりを探しながら見て回る。


 すると診察スペースからは死角になる場所の床にハッチ型の扉があった。ゆっくり静かに開ける、梯子で下にいけるようになっている。どうやら地下室につながっているようだ。


 アキト達が長い梯子を静かに降りて見渡すと、いくつもの通路と区画化された部屋がある広い空間に出た。空間はとても薄暗く、アキトはランタンを取り出して左手に持ち光であたりを照らす。


「これでワインセラーとかだったら可愛いのになー」

エルが変なことを言っているが、それは周囲の壁が真っ白でまさに実験室を思わせるような空間になっていたから出た言葉だった。


 様子をうかがいながらアキト達は区画化されているいくつかの部屋に入る。最初に入った部屋は地下でも育てられる薬草を栽培しているスペースだった。エルは栽培のために使われている照明を出す高価な魔道具や設備に目が行き、アキトは栽培されている薬草を見回していた。


「うーん、草を育てるだけでこんな投資するかな?」

「毒草が多いね、所持が禁止されているものも多分あるよ」


「・・・」


 ゼクスは黙ってエルとアキトの様子を見ていた。草を育てるのに室温が調整される魔道具も置かれているようで、部屋の中は暑かった。天井には換気するためのダクトのような穴がある。


 他の部屋にもアキト達は入り込んでいくが、植物園以外は暗く。本や巻物の資料が沢山ある区画や標本として使われているらしき人骨や透明なガラスの器の中に怪しげな液体に浮かぶ何かがあった。


「アキトの言葉がいよいよ真実味を増してきてたね、怪しいうめき声とかってのもろくなもんじゃない気がしてきたよ」


 奥に行く通路があったため慎重に進む、見ていた区画では未だハーゼは発見出来ず。いるとしたらこの先にいることが確実だったからだ。


 通路は人が3人並んで歩けるほどで横にはそれぞ鉄格子のようなもので塞がれた部屋がある。鉄格子で塞がれている部屋の中は暗く、ランタンで中を照らすと中にはベッドや簡素なトイレがある。この通路の天井にも植物園のような換気口があり、アキトはここの上は丁度集団墓地のあたりなのではないだろうかと思い出していた。


 長い通路の先に扉があり、通路の間にはびっしりと鉄格子の牢屋部屋が並んでいる。照らしながら歩いていると声が聞こえてきた。


「眩しいよ・・・ハーゼ先生、どうしたの?」


獣人の少年が牢屋の中にいて、目を覚ましたようだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。風邪をひいてしまいました。

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