九話「 新遊部1-0統括委員会 」
回想話はここまでかな、こうして俺はグラウンドにいる。さらに説明をつけたすなら、このグラウンドについてからの事だ、咲野さんが缶けりのルールを知らないと言ったので重松から大まかなルールが説明された。
簡単に言うなら勝負は三回、俺が缶を守り、残りの新遊部の五人が缶を蹴ればいい。ちなみに俺は相手を見つければ缶を踏んで名前を呼ぶだけでいい。
しかもグラウンドのど真ん中、隠れる場所なんてそんなに無いし見渡しもいい。この勝負はもらったという確信と自信が少しづつ出ていた。
最初は重松が豪快に缶をすっ飛ばしてゲームスタートの合図がなされた。俺はその缶を取りに行き、所定の位置に置いた頃には誰も居なくなっていた。まぁ当然だが。
…っとまぁこんなところだ。今度こそ回想終わりだ。
それにしてもどこに隠れたんだ。こんだけ見渡しがいいんだ。うかつに缶から離れるとリスクが生じる。でも相手も正面からくるほど馬鹿じゃない。
恐らくは俺を缶から遠ざけるために隠れる場所が遠いこのグラウンドを選んだのか?俺は考えたが、このままではらちがあかない。
俺は覚悟を決めて少しづつ前に進んだ。後ろから不意打ちがくる事も考えて、背後にも気配を配った。だが事態は終息的に始まり、そして終わった。
俺の真横に突風が巻き起こったのだ。グラウンドの砂が撒き散らされ、俺は腕で顔隠すようにかばった。風がおさまり後ろを振り返えると、さっきまで地面にあったはずの缶が宙を飛んでいた。
その下、元々缶が置いてあった場所には一人の生徒が立っていた。黒髪のポニーテールをたなびかせ、こちらを振り向く。
通称忍者の成瀬先輩だ。さっきまで人影一つも無かったのにこの距離をどうやって移動してきたのか。俺は茫然と立ちつくすしかなかった。
「やったわ二葉ちゃん!さっすが忍者は伊達じゃないわねー!。」
向こうの草むらから重松が顔を出すとこちらに歩み寄ってきた。それを合図にするように、他の三人もそれぞれ姿を現した。
どうやら一回戦目は俺の負けのようだ。だがこんなの反則臭いような気もするんだが…。
「ならば拙者、次からの勝負には缶を狙うことは辞めるで御座る。」
俺の嘆きを聞いた成瀬先輩は一方的な試合はしないと約束してくれた。それを聞いて不満がありそうな顔をしていたのは重松だけだった。
「じゃあ次、大斗!。思いっきり蹴り飛ばしてやんなさい!。」
重松が指をさして指定したのは朝比奈大斗であった。えぇ俺?と言いたげそうな表情で自分に指をさす朝比奈は嫌々缶を蹴り飛ばした。
嫌々やったわりには結構飛んだな。俺は缶を取りに行くことすら面倒になってきた。缶を置いて辺りを見渡す。もしこれで俺が負けてしまえばこの勝負、二勝無敗で新遊部の連中が勝ってしまう。それだけは何としても避けたい。次は成瀬先輩の瞬間移動もない事だし、俺は五人を探すために一歩前に進んだのである。