十話「 謎の少女との遭遇 」
俺は五人をさがすために少しづつ缶から離れていった。
そもそも缶けりとは、鬼ごっことかくれんぼを合わせたような遊びである。
攻める側は隠れ、見張りが居なくなったら隙をついて缶を蹴る。守る側は相手を見つけたら缶を踏んで名前を呼び、捕獲する事ができる。
このルールにおいて守る側が一番してはいけない事は完全に缶から離れる事だ。もしかしたら俺の進んでいる真逆の方向から突然相手が現れるかもしれない。多少怪しくても深追いは禁物だ。相手側も見つかったら一貫の終わりだが、見つからなければ自由に動き回ることもできる。
俺は一番近くに隠れやすそうなブロック塀の裏を確認しようとした。
だが俺の動きが止る。自分の意志で止まったわけではない。体が勝手に、まるで金縛りのように止まったのだ。俺は自然に目だけで辺りを見渡す、すると俺と新遊部の連中しかいないはずのグラウンドに一人の少女が立っていた。
少女と言っても俺と同い年か一つ年下くらいだと思うが、なぜか俺の視界には彼女しかうつらなかった。
この学校の者ではないと思われる黒い制服。白髪のショートカットに赤い瞳。右目には医療用の眼帯がついている。その少女はずっとこちらを見ている。話しかけようにも声がでない。なぜだ?。体も言うことをきかない。ずっと見てくる少女の大きな瞳にまるで吸い込まれるようだった。
無言という名の空間が今の俺達を支配している。
さすがにこれは尋常じゃない事くらい俺にも分かったさ。でも今の俺には何もできない。嫌な汗をかきながら固まっていると、少女の小さな口がひらいて俺につぶやいた。だがその無言な空間を打破する音が俺には聞こえた。
缶が思いっきり吹き飛ぶアルミの音だ。その音を合図にするかのように俺の耳には回りの音が聞こえるようになった。
「やったわ!。我が新遊部の圧倒的な大勝利よー!。」
缶を蹴ったのは重松で、現在いる場所でハイテンションのジャンプをくりひろげている。気づけば体も動くようになり、あの少女がいた方をもう一度見るが、その姿はどこにも無かった。
「あんた張り切ってたわりには随分と呆気ない勝負だったわね?。」
満足そうな笑みで重松は俺に近づいてきた。
「なぁ、さっきまでここにいた女の子しらないか?。」俺の質問に対して、重松の解答はとんでもないものだった。
「はぁ?何言ってんの?。女の子どころかアンタまで居なったじゃない。一体どこまであたし達を探しに行ったのよ。缶がガラ空きだったわよ。」
俺はその言葉を聞いたときに寒気を感じた。待ってくれ、俺はこのブロック塀の前にいたぞ?缶から20メートルくらいしか離れていない。見えないわけないだろ。
「ですが一宮さん。確かに缶の周りには誰もいませんでいたよ?。私達も見てましたから。」
隠れていた場所から出てきたのだろう。俺の後ろから声をかけたのは咲野さんであった。さらにその後ろには朝比奈と先輩達もいた。
「どういう事ですか、俺はここから動いてませんよ!。俺が居なかったってどういう事です。」
俺が混乱する気持ちも少しは分かってくれ。俺は今ありえない現象と直面していたのだ。必死の反論にも相手は首をかしげるだけで、俺にはやり場のない不安だけが残った。
結局、今回の勝負は先に先制点を取った新遊部の勝利となった。だが今の俺にはそんな事どうでもよかった。
その日は家に帰るとすぐに眠る事にした。だがあの少女は絶対にあの場にいた、それだけはハッキリ憶えている。そして最初で最後の言葉を俺に発したのだ。
『……また、会えたね……。』と。




