第45話 終息と新たな任務
半ば消化不良気味に解決した異世界ハイネルのイネストリア問題は世界中に知れ渡ることになった。
新たに現れた異世界をむやみやたらに信じるのは危険だという注意喚起ではあるのだが、その公表は賛否両論を生んだ。
それは異世界を否定するということか。そう訴える異世界側。
危険だから異世界は排除すべき対象だ。そう訴えるファンタジーアース側。
両者の意見も理解はできる。
それほどまでに今回のイネストリア問題は苛烈過ぎた。
なにせ人間を家畜に、魔法道具の材料にしていた世界なのだ。
これから手を取り合って時代を切り開いていく次元の異なる世界同士の間に亀裂が入るのは目に見えていた。
だが公表せずにはいられない。
それがF・E・T・S上層部の判断であり、異世界側に対する警告であった。
何もしなければ良いだけ。
郷に入っては郷に従え。
ただそれだけの意味。
と、そんな事件から数日。
アナハイドはF・E・T・Sの名札を付けて施設内を歩いていた。
「くそぉ。ボーナスって金じゃないのかよぉ」
「まだその文句言ってるの? もう聞き飽きたんだけど」
隣を歩くのはポチータだ。
彼女もどうやらF・E・T・S出向組の一人らしい。
「いいじゃないか。お金は手に入らなかったけど、衣食住が確約されている好待遇だよ? 君みたいな散財癖と借金まみれの男からしたら万々歳じゃないかな」
「手元に残る金が無けりゃ一文無しとおんなじなんだよ。ばかばーか」
「あー! バカって言ったなぁ。おいらよりも頭が悪いくせにぃ!」
にらみ合い、二人が目指したのは施設内にある収容区画。
そこには異世界からやってきた犯罪者たちを収容する部屋があるのだが、その部署の受付で二人は花と合流する。
「やあ、久しぶりだべなぁお二人さん。また仲の良いことで」
「「良くない!」」
「おっと、喧嘩中だったべか……」
引き気味に花は呟いた。
「んで? どうなったんだ?」
どうなった。つまりはここに収容されている彼女たちについてだ。
花はアナハイドの問いに頷きつつ、
「もう少しで釈放されるみたいだよ。といっても保護観察。当分はこのF・E・T・Sでタダ働きの見習いオペレーターだべな」
「あっそ。で、元気にしてんのか?」
「さっき私もエルマタルさんと面会してきたんだべが、まあかなり元気いっぱいだったよ。魔法の勉強に、異世界の魔法についての本を読み漁ってるべなぁ」
ハイネルの独創的な価値観から解き放たれた反動なのだろうか。
エルマタルたち、魔法学院の学生たちはみんな他所の異世界の魔法文化に興味を示したらしい。
流石学生だけあるとアナハイドは思った。
「それじゃあ、あとはイーグレットとの和解だね」
「だべ」
ポチータの言う和解とは、イーグレット警察で行われるハイネリアン魔法学院生徒による謝罪会議である。
そこでエルマタルたちは自身の行いについて謝罪し、今後ファンタジーアース側の人間に危害を加えないことを証明するのだ。
まあ世界に向けた一種の誠意の証明というやつだ。
たとえ自分たちの身を守るためであっても手段を考えるべし。
自分で行動を起こす前に警察、もしくは治安維持組織を頼れ。
そういったものだ。
その会議の場に連れ出すためにアナハイドたちは来たわけだが——
「それじゃあさっさと始めるとしますかね」
「んだ。申請も済んだことだしね」
「それじゃあおいらはヘリの準備を手伝ってくるよ」
そう言ってポチータは施設内のエレベーターに向かっていった。
屋上にはヘリが停めてあるはずだが、その最終準備を手伝うのだろう。
対してアナハイドと花は地下にある収容区画へ向かうわけだが。
「にしてもアナハイドさん」
「なんだ?」
「あなたの魔法は不思議だべな。ハイネルの魔法なんだよな?」
「んー。さあ」
聞かれても分からない。
アナハイド的には魔法は魔法である。
そこに異世界の違いはないと考えている。
まあ、よくよく考えてみれば彼の魔法はホールの中で習得したものなのだからハイネルの魔法とは違うのだろうが、まあ違いがそこまでない以上はハイネルの魔法で良いだろう。その程度しか考えていない。
「さあって……」
「別にいいじゃねぇか。魔法ぐらい今時なんも珍しくねぇだろ?」
機械的な杖を魔法の杖と呼ぶ集団。
人間を素材に魔法道具を作る国。
昔ながらの詠唱呪文を唱える魔法使い。
そしてアナハイドのような謎の魔法を持つ存在。
なんにも不思議なものはない。
もはや今の時代では当たり前なのだ。
それに——
「話で聞いたけど、この組織にはそれよりもよっぽど頭のおかしいものがあるんだろ? 高井直哉、だっけか? 人間兵器の——」
「そうだべなぁ。たしかに彼を出されたらなんとも言い返せないべ。まあいい人だよ? また紹介されるんじゃないべ?」
「出来れば関わりたくないんだけどな……」
そんな人物と関わる時なんてきっと碌な状況ではない。
そう考えながらアナハイドと花は長く続くエレベーターを降りて収容区画へと向かうのだった。
***
「仕事が終わったと思ったら次の仕事かよ……」
高井直哉はげんなりとそう呟いた。
異世界アルデバラン、そこにあるグリデンガルドに出向して王ヒュルズと話し合いをしてきたばかりである。
といっても帰りに時間をかけ過ぎた所為で、到着したのはつい先日の事なのだが。
「仕方ないだろ。こっちだって仕事が目白押しなんだ。ホール問題。テラ級カリギュラの活動傾向に、新たな異世界問題。あとは——」
「クルーエルだろ? 分かってるって」
「そうだといいんだけどね」
ラボで言い合う相手はアイリスである。
久しぶりに顔を合わせたというのになかなか冷たい。
直哉的にはもう少し感動の再会と洒落込みたいのだが、もしかして反抗期という奴だろうか。
アイリスももう良い歳だ。
直哉が考えてるほどもう子供じゃないのだろう。
(なんとも悲しいねぇ。これが世の中の父親の感情か……くっ)
「な、なに泣いてるんだい……」
「いや、娘の巣立ちに涙を禁じ得ないだけだって……」
「誰が娘だよっ!」
とツッコミを入れつつアイリスは席に座り直し、手元にある資料を直哉に手渡した。
「これは?」
「次の仕事の資料。行き先は大和だよ」
「大和? っていったら日本だった国だよな?」
「まあね。今は魔物が多く闊歩してるエセ日本みたいな国になってるけど」
エセ日本というと、昔外国から見た日本の想像風景的なものだろう。
年がら年中桜が咲いていたり、城がまだあったり、サラリーマンが刀を帯刀していたりといったそんな——
「そこでなにがあるってんだよ」
「テーマパークだってさ」
「はい?」
「だから! テーマパーク! ホールの中に新しく遊園地を作ろうって話があるんだって! その安全確認! あとはカリギュラの掃除だよ。まったく……」
「はいはい。資料に目を通せって言いたいんだろ、悪かったって……」
そう言いながら直哉は資料に目を向け始める。
アイリスはそんな直哉をちらりと見て頬を緩めた。
なんだかんだ言っても直哉の事が大好きな彼女である。
そんな彼とまた一緒に仕事が出来ると思うと嬉しかったのだ。
そんな直哉が見つめる資料には作戦参加者の名前が載っていた。
高井直哉。
高井アイリス。
アナハイド。
ポチータ。
以上4名の名前が。
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