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第17話:王国跡地の『サブスク・スマートシティ』計画と、大公閣下の愛の巣(絶対防塞)

「……さて。先日の『王城引っこ抜き工事』によって、旧・ローゼンバーグ王国の中心部には、見事なまでに巨大なクレーターと広大な更地が残されたわけだけど」


オーシャン・モールの最上階、CEO執務室。

 ルミアは、壁一面に投影された旧王国の惨めな更地のマップを指し示しながら、最高級のダージリンティーを一口啜った。


「せっかく金貨百枚で買い取った『我が社の私有地』よ。ただの空き地にしておくのは、経営者としてあまりにも非効率だわ。アリス、この広大な土地を、世界で最も利益を生み出す『究極の不動産』に作り変えるわよ」


「究極の不動産って……普通に家を建てて売るの? でも、あんなボロボロになった土地、帝国の貴族がわざわざ買って住むかしら?」

 私が首を傾げると、ルミアは悪魔のように艶やかな笑みを浮かべ、バインダーで机を叩いた。


「家を『売る』? 馬鹿ね、アリス。不動産を売り切りにしてしまうのは三流の商売よ。私たちが提供するのは『家』ではなく、『A&Lが提供する完璧な生活空間ライフスタイル』そのものよ」


ルミアは空中に、美しく整備された未来都市の完成予想図をホログラムで投影した。


「名付けて、完全管理型定額制都市……『A&Lスマート・ユートピア』!!」


「て、定額制サブスクリプション都市……!?」


「そうよ。この都市に建つ家は、すべて我が商会からの『賃貸リース』とするわ。住民は家を買うのではなく、毎月ヒマ端末の『A&Lペイ』から自動引き落としで『居住システム利用料』を支払うの。その代わり、家事、掃除、防犯、そして食事の手配に至るまで、すべてをアリスの魔導技術で完全自動化オートメーションしてあげるのよ!!」


ルミアの口から飛び出したのは、都市そのものをサブスクリプションの商材にするという、国家の概念すら覆す恐るべきビジネスモデルだった。


「なるほど……! つまり、家そのものを一つの巨大な『魔導具』にしてしまうのね!」

 技術者としての私の脳髄に、強烈なインスピレーションの電流が走った。


「任せてルミア! 私の魔法陣なら、究極の『怠け者専用住宅』が作れるわ! まず、各部屋の壁と床に『微弱・浄化結界クリーン・フィールド』を常時展開させる! これでホコリやカビ、虫の侵入は物理的にゼロよ! 掃除という概念がこの家から消滅するわ!」


「素晴らしいわ、アリス。富裕層の奥様方が一番喜ぶ機能ね」


「それから、キッチン! ここには『A&Lダイレクト・エクスプレス(即時空間配送)』の専用小型ポータルを冷蔵庫に直結させるわ! ヒマ端末で食材をタップすれば、一秒で冷蔵庫の中に新鮮な野菜や肉が転送されてくるの! 調理は備え付けの『火と風の精霊アシスト・コンロ』が全自動で完璧な火加減を保証するわ!」


「完璧よ。さらに、その食材の購入費もすべてA&Lペイで自動決済。住民がこの都市で息をしているだけで、我が社にチャリンチャリンとお金が落ち続けるというわけね」


ルミアは恍惚とした表情で、両手を広げた。


「そして、この都市の最大の強みは『絶対的な治安維持』よ。もし家賃の支払いを滞納したり、この都市で犯罪を犯そうとした不届き者がいれば……」


「家の防犯システムが作動して、その人間を『空間転送』で即座に都市の外(荒野)へ強制排出エジェクトするわ! 文字通り、一秒でホームレスよ!」

 私が満面の笑みで物騒な機能を付け加えると、ルミアは最高に邪悪な笑みで深く頷いた。


「あはははは! えげつないわアリス! 滞納リスク・ゼロ! 犯罪率・ゼロ! 快適さ・無限大! こんな夢のような都市、他国の王族や帝国の超大金持ちが放っておくはずがないわ! 入居の権利だけで、天文学的なプレミアがつくわよ!!」


もはや国家の税金よりも確実に、そして永遠に富裕層から資産を吸い上げ続ける『究極の搾取都市』の青写真が、ここに完成した。


「さあ、アリス! 今すぐゴーレム部隊を編成して、旧王国の更地を白亜のスマートシティに塗り替えなさい! 建設の動力源は、地下で走っている『例のハムスターたち』をフル稼働させればいいわ!」


「了解! 徹夜で都市計画の魔力回路を引いてくるわ!!」


私が作業着の袖をまくり上げ、ラボの設計デスクに向かおうとした、その時だった。


「――相変わらず、君たちの考えるビジネスは神の領域すら侵食しそうだな」


ふいに、執務室の空気がピンと張り詰め、極上の威圧感と甘い香水が混じった空気が流れ込んできた。

 重厚な扉の前に立っていたのは、漆黒の軍服に身を包んだ帝国の影の皇帝、ユリウス大公だった。


「ユリウス様! お疲れ様です! どうですか、私たちの新しいスマートシティ計画!」

「大公閣下。またしても護衛なしですか。この部屋のセキュリティが全く意味を成していませんわね」


ユリウスはルミアの小言を完全に無視し、長い脚でスタスタと私に歩み寄り、デスクの上に投影された都市のホログラムを見下ろした。


「すべてが中央サーバーで管理され、住人の生活データから資産状況まで完全に把握できる都市……か。まさに完璧なパノプティコン(監視監獄)だな。帝国の特務憲兵たちも、このシステムには舌を巻くことだろう」

「監獄だなんて人聞きの悪い! 至れり尽くせりの楽園ですよ!」


「ああ。だが、私が感心したのはそこではない」


ユリウスはアメジストの瞳を細め、ホログラムの都市の『中心部』を長い指で指し示した。

 そこには、都市の魔力制御を司るための、ひときわ巨大な区画が空白のまま残されていた。


「アリス。この都市の防衛と魔力供給の要となる中央区画。……ここに、私と君が暮らすための『大公邸(愛の巣)』を建造しろ」


「…………えっ?」

 私は、自分の耳を疑った。


「あ、愛の巣、ですか!?」

「そうだ。帝都にある私の本邸も悪くはないが、いささか古臭くてな。君の創り出す『最新の魔導技術』と、私の『絶対的な武力』を融合させた、世界で最も快適で、世界で最も難攻不落の要塞スイートルームをここに建てる」


ユリウスは私の腰をグッと引き寄せ、至近距離から熱っぽい視線で私を射抜いた。


「君の寝顔を誰にも覗き見られないよう、窓ガラスには完全な幻惑結界を。寝室には、君がどれだけ疲れていても一瞬で回復する極上の治癒魔方陣を。……そして、私以外の雄の気配を検知した瞬間、空間ごと圧縮して塵にする防衛システムを組み込んでくれ」


「ユ、ユリウス様、それ家じゃなくてただの戦略防衛陣地ですっ! どんだけ物騒なマイホームなんですか!」

「君という世界最大の宝を隠しておくのだから、当然の措置だ」


彼は私の抗議など全く意に介さず、私の耳元に唇を寄せ、低く甘い声で囁いた。


「……私の最愛アリス。君の好きなように設計していい。君と二人きりで、誰の干渉も受けずに過ごせる、完璧な城を……私にプレゼントしてくれないか?」


ひゃっ……!

 耳元に吹きかかる熱い吐息と、反則級に色気のあるおねだり。

 こんなの、断れるわけがない。私の心臓はすでに大爆発を起こし、顔は限界まで真っ赤に茹で上がっていた。


「わ、わかりました……っ! 世界一快適で、ユリウス様しか入れない超・絶対防塞のスイートルーム、徹夜で作りますから……っ!」


「ああ。期待している。……愛しているぞ、アリス」

 ユリウスが満足げに私の頬にキスを落とす。


「(……はいはい、ごちそうさま。大公邸の建設費用は、ユリウス様の個人資産から天文学的な額で引き落とさせてもらうから、好きにイチャイチャしててちょうだい)」

 ルミアが呆れたようにヒマ端末の電卓を弾きながら、呆れ顔でため息をついていた。


こうして、世界最高のスマートシティと、その中心にそびえ立つ『パトロンの愛の巣』の建設計画が、凄まじい勢いで幕を開けたのである。


◆◆◆


数日後。

 オーシャン・モールの地下最下層、魔力自家発電プラント(懲罰房)。


「ぜぇ……はぁ……!! ぎ、ギルバート先輩!! 車輪が……車輪が重すぎますぅぅぅ!!」

「泣き言を言うなザイード!! お前がペダルを緩めたら、俺の足元まで超高熱プレートの温度が上がるんだぞ!! 死ぬ気で回せぇぇぇ!!」


かつて私を婚約破棄した王国の元王子ギルバートと、カジノでイカサマをして捕まった西の国のザイード王子。

 二人の哀れな元・王族は、巨大な鉄の回しハムスター・ホイールの中で、汗と涙と鼻水を撒き散らしながら、絶叫と共に走り続けていた。


『あらあら、元・殿下たち。随分とペースが落ちているんじゃなくて?』


頭上のスピーカーから、ルミアの冷酷で楽しげな声が響き渡る。

 同時に、懲罰房の壁面に設置された巨大なモニターがパッと明るくなり、ある『映像』が映し出された。


「な、なんだあの映像は……!?」

 ギルバートが、走りながらモニターを見て息を呑んだ。


そこに映っていたのは、彼らがかつて支配していた『旧・ローゼンバーグ王国』の現在の姿だった。

 しかし、そこには泥だらけの街道も、古臭い建物も存在しない。

 数百体の巨大なアース・ゴーレムたちが、一糸乱れぬ動きで大地をならし、純白の大理石とミスリルで構築された『超未来的な巨大都市スマート・ユートピア』を、まるで魔法のように次々と組み上げていく光景だった。


『ふふふ。貴方たちが今、一生懸命に汗水流して発電してくれている莫大な魔力……それはすべて、この新しい【A&Lスマート・ユートピア】の建設用ゴーレムたちの動力源として使われているのよ』


「な、なんだとぉぉぉ!!?」

 ギルバートの顔が、絶望と屈辱で激しく歪んだ。


「俺たちの国が……俺たちの王都があった場所が……あんな得体の知れない白亜の街に塗り替えられていく!! やめろぉぉ! そこは俺の、俺の土地だぁぁぁ!!」


『貴方の土地? 勘違いしないでちょうだい。そこは金貨百枚で私たちが合法的に買い取った、魔導商会A&Lの【私有地】よ。貴方たちがかつて無能な政治で腐らせたドブのような土地を、アリスの魔法が世界一美しい楽園に作り変えてあげているの。感謝してほしいくらいだわ』


ルミアの言葉は、ギルバートのプライドを物理的な刃のようにズタズタに切り裂いた。


「アリス……! アリスぅぅぅ!!」


自分が「地味で色気がない」「空調の修理ばかりしている」と蔑んで捨てた女が。

 今や、自分の祖国を更地にし、そこに誰も見たことがないような神の如き未来都市を建造している。

 そして自分は、その都市を建設するための「ただのハムスター(動力源)」として、暗い地下で一生走り続ける運命にあるのだ。


『さあ、貴方たちの労働が、美しい都市の礎になるのよ。休んでいる暇はないわ。……熱板の温度、三段階アップ!!』


「ぎゃあああああああ!! 熱いぃぃぃ!! ザイード! 走れ!! 足が焼けるぅぅぅ!!」

「うおおおおおっ!! ギルバート先輩、置いていかないでくださいぃぃ!!」


完全なる因果応報。

 無能な元凶たちの悲鳴と絶望の涙は、最強のスマートシティを築き上げるための極上のスパイス(魔力)として、一滴残らず吸い尽くされていくのであった。


◆◆◆


そして、一ヶ月後。

 旧王国の跡地に突如として出現した『A&Lスマート・ユートピア』の完成披露式典は、帝国のみならず、大陸中の歴史を永遠に変える衝撃を与えた。


「信じられない……! ゴミ一つ落ちていない白亜の道! 家に入れば、照明も空調も勝手に最適な状態に調整されるだと!?」

「食事はヒマ端末をタップするだけで、一瞬で熱々の料理がキッチンに転送されてくる! 掃除も洗濯も、備え付けの魔導具が全自動で片付けてくれる!」

「これが、これが人間の住む場所なのか!? まるで神々の住まう天界ではないか!!」


招待された帝国の貴族や、他国の大富豪たちは、その圧倒的な快適さと魔法の技術に触れ、全員が理性を失ったように入居契約書に群がった。


「毎月の居住システム利用料が金貨千枚!? 安い! 安すぎる! この生活が手に入るなら、領地の一つや二つ売ってでもここに住むぞ!!」

「私も契約する! 防犯システムも完璧で、犯罪率ゼロなら、暗殺の心配もない! ここは究極の安全地帯だ!!」


ルミアの目論見通り、スマートシティの居住権は文字通り『飛ぶよう』に売れた。

 家を売るのではなく、毎月永遠に莫大なシステム利用料サブスクを徴収し続ける。

 しかも、食費も光熱費も、すべてA&Lペイを通じて我が商会に還流する。完全なる経済の永久機関の完成であった。


「あはははは! 素晴らしいわ! 見なさいアリス、私たちの創り出したこの完璧な都市を! これで大陸の富裕層の財布の紐は、永遠に私が握ったわ!!」

 ルミアが、新都市を見下ろす高台で歓喜の高笑いを上げる。


「ええ! 私の魔力回路も一ミリのバグもなく稼働しているわ! 大成功ね!」

 私が満面の笑みでガッツポーズをした、その時。


 スッ……と。

 背後から伸びてきた漆黒の腕が、私の腰を強引に、しかしひどく優しく抱き寄せた。


「ゆ、ユリウス様……!?」


「ああ。素晴らしい都市だ。……だが、私が最も称賛すべきは、この都市の中心にある『私と君の城』の出来栄えだ」


 ユリウスは私を腕の中に閉じ込めたまま、都市の中央にそびえ立つ、ひときわ美しく、そして荘厳な『大公邸』を見つめた。


 それは、私の持てるすべての技術と、ユリウスの莫大な資金を注ぎ込んで完成させた、究極の『愛の巣(絶対防塞)』であった。

 外壁はあらゆる魔法を反射する『白き神星岩』で覆われ、周囲にはユリウスの承認がない者を一瞬で塵にする不可視の断絶結界が張り巡らされている。


「アリス。今夜から、君はあそこで私と共に暮らすのだ。君のラボも、巨大な実験施設もすべてあの家の中に用意した」

「い、一緒に暮らすって……あの、それってつまり……同棲、ですか……?」


私が顔を真っ赤にして見上げると、ユリウスはアメジストの瞳を限界まで細め、極上の色気を纏った笑みを浮かべた。


「同棲? 違うな。……これは、帝国の法と魔法陣によって完全に保護された、私と君の『新婚生活』の始まりだ」


「し、しんこん……っ!!?」


「当然だろう。君の薬指には、すでに私のマスターリングが光っている。もう君は、一秒たりとも私の腕の中から逃れることはできない」


 ユリウスは私の反論を一切許さず、そのまま私の唇を深く、熱く塞いだ。

 青空の下、世界最高のスマートシティの完成を祝う歓声が遠くに聞こえる中。

 私は、最強の魔王パトロンが用意した絶対無敵の愛の巣に、文字通り完全に捕獲されたことを悟ったのだった。


 もはや誰も、私たちのビジネスと、この甘すぎる独占愛の覇道を止めることはできない。

 旧王国の残骸の上に咲いた狂気のユートピアは、今日も天文学的な利益と、世界一甘い悲鳴を生み出し続けていくのだった。


(第17話 終わり)

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