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空に昇った英雄も、寒ければ息が白む
夏の空
星降る夜に
オリオンの
吐く息白く
山のあかつき
3000m級の山の肩、車で登ることができる国内最高高度の場所で行われる天体観測会。
参加者のうち大半の目的は、倍率の高い望遠鏡を使った惑星や星雲の観測だ。
だが夜明けが迫ってくると、風景写真が趣味の私や、一部の元気が有り余っている参加者はすこし山を登って、眺めの良い場所へと移動を始める。
風が強い。
遮るものがない山肌を駆け上がった空気が、私たちに押し寄せる。
あるものは身を寄せ合い、またあるものはカメラの準備をしながら、ひたすら夜が明けるのを待つ。
ついにその時が来た。
徐々に白む空からは星が消え始め、陽の光に彩られていく。
力強く輝き続けるオリオン座に、未だ地平の向こうから出てこない太陽に照らされ、ひとかけらの雲が近付くのが見えた。
まるで、英雄オリオンの吐く息が白くなったかのようだった。
そこで初めて、自分の息も白んでいることに気がついた。