23 そして
「評議会で、私が首席になることが決まったよ」
とシュルツが家に戻ってきてユージーに伝えたのは、それから一週間後のことだった。
「早かったんだな」
ベッドに寝たままユージーは答えた。
飛んでいったはずのユージーだが、実はしばらく飛ぶと出血多量と疲労のために落っこちて、鳥のくせにやっと歩いてシュルツ邸までたどりついたのだった。
「みっともないぞユージー。その面を見てみろ。青い髪はボサボサ、無精ひげが汚いぞ。だいいちなんでひげは黒いんだ」
「知るか。俺のせいじゃない」
「自分の体だろうが。四百年の間少しは不思議だなぁとか思ってみなかったのか? ノアタックに研究してもらえばよかったんだ」
「うるさいなぁ。目がまわるんだ。静かにしててくれよ」
「まったく不死身が聞いてあきれるよ」
「ホントに不死身ならデモノバイツが絶滅するもんか。あ〜あ、どこかにデモノバイツの雌が生き残ってないかなぁ。デモノバイツの家族を作って、楽しくくらすんだ。・・・あ、そういえばレーコは?」
「クレイモアと昨日星に帰った。クレイモアはやっと帰れるんだ。それも凱旋だよ」
「・・・そうか」
「二人ともおまえに会いたがっていたよ。居場所は知らないと言っておいたが」
「・・・そうか」
「おまえあのアンドロイドにプロポーズしたそうじゃないか」
「そうさ。そしたら、私はマリアの代用品じゃないと言われたよ。・・・ふん、なんだ、マリアなんか。ただの人間だ。いずれ死ぬんだ」
「そうだ、そのマリアなんだがな・・・」
シュルツは言葉を切った。
「・・・なんだよ」
「聞きたいか?」
「ふん」
「・・・マリアたちは今日星に帰るんだ。おまえのことを隠していたせいか、あれから私には会ってくれないんだが、見送りはさせてもらおうと思ってるよ」
「・・・・・」
ユージーは身動きもしない。シュルツはしばらくユージーの反応を待ったが、やがてため息をついた。
「家政婦のジャネットにスープを用意させよう。顔ぐらいあたっておけ。ジャネットは若い子だからむさくるしいところを見せないほうがいいぞ」
「・・・スープなんかいらん」
「飲めよ。じゃあ私は出かけるからな」
シュルツが出ていって、しばらくたった。
空港に行こう。
ユージーは自分の女々しさにため息をついた。
遠くから見るくらいいいだろう。
そして隼に変身しようとした。が、あちこちが痛む。
こりゃ時間がかかりそうだ。
その時、ノックの音がした。
ユージーはあわてて毛布をかぶり、鳥になりかかった体を隠した。
「スープをお持ちしました」
「あ、うん。そこに置いていってくれ」
ワゴンが中に入ってくる音がする。ユージーは必死で人間の姿に戻り、ほっとした。
「大丈夫ですか? 体が痛いのでは? 食べさせてあげましょうか?」
「い、いや、いいよ」
と言って、ユージーははっとした。
こ、この声は!
ガバッとふとんをはねあげて、目の前にマリアの姿を発見した。
「・・・! ! !」
「あのねユージー、私考えたんだけど」
マリアは平然としている。
「私って、もうアイランズに戻る必要ないのよ」
「・・・・・」
「だってもうホワイツ家が治星官である必要はないでしょ。シュルツ首席が、植民星を独立させてくれるんだから、もう地球から治星官が送られてくる心配はないのよ。民間から投票で大統領を選べばいいわけよ」
「・・・・・」
「つまり私の仕事はもう終わったってこと。んー、せいせいしたわ」
ユージーはごくりと息をのんで、ようやく腹から声を出すことに成功した。
「・・・それで、どうしてここにいるんだ」
「ああ、私傭兵になろうと思って」
「・・・・・え?」
「ただお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「今はいいけど、この先私ばっかり年をとるとすぐあなたを追い抜いてしまうでしょ。それで私考えたんだけど」
「考えたのか」
「あなたが変身で年をとればいいのよ。毎年ちょっとずつ。それでね、私たちたくさん子供を作りましょうよ。そうしたらあなたの子孫がずうっと続いて、あなたは寂しくないと思うの」
ユージーはゆっくりとまばたきを二度した。チクバとの約束を思い出した。さすが親子だ。
「名案でしょ」
マリアは笑った。
「ちょ、ちょっと待て。君にそんなことさせられるもんか。アイランズに帰るんだ!」
マリアはひょいとベッドに座った。
「あきらめた方がいいと思うけど。私もう決めたんだから」
マリアが一度決めてしまったらそれは必ずそうなるのだ。
「キスしてくれないのデモノバイツ。知ってる? 人間てね、好きな人にキスするのよ」
マリアは笑った。ユージーは、シュルツの言うとおり顔をあたっておけばよかったと思った。
了
あとがき
二作目です。
あとがきを書くのを楽しみに書いていたのに、完成したらすっかりあとがきのことを忘れていて、これは、最終話をUPして数日後に書いています。
実は、以前に書いた小説を少しずつUPさせてもらっているのですが、こうやって出してみて、この話が、初投稿作品の「城の桜は紅に映え」とテーマがほぼ同じだということに気づきました。こういう、崇高な精神と使命を持っている女性を、強い男が守っている、という話が好きなんでしょうね。で、実は今、月を舞台としたものを書いているのですが、やっぱり同じパターンなので、もう開き直って三部作ということにしようと思っています。同好の士が読者になってくれるかもしれない。
デモノバイツ、というのは、「デモン・オブ・ホワイツ=『白の星』の悪魔」という意味なのですが、敬愛する手塚治虫先生の「デモノバース=デモン・オブ・アース=地球の悪魔」からとっています。それにしても手塚先生は天才です。
感想をお待ちしています。