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ジャンスネークは喉を鳴らして威嚇しながら料理人との間合いを図っている。


一本の包丁を逆手持ちした料理人はジャンスネークを睨み付けて微動だにしない。


『皆様、このジャンスネークは捕獲後によく肥えさせております、如何でしょう?わかりますか?この粘液に含まれる甘い油の匂い……今日のジャンスネークは最高の仕上がりとなっております!』


両者は睨み合っていた。


今にも動きそうだが……しかし気になる

『学者!この技術はウチの国にあるか?』

『残念ながら』

そうか……先ほどジャンスネークの攻撃を弾いた目の前に広がるこの膜……これはどんな仕組みなんだ?出来ればこの技術が欲しい……これがあれば……聖職者たちの使う【聖なる盾】みたいな物だろうか?


「ちょっと良い?」

「ばぱぁ!」

「え?はい……」


膝に乗るポラをパエリに渡した。

カジロウは立ち上がり……膜の柱と柱の間に貼られた膜に触ろうとした。


「失礼します……骸王様、おやめ下さい……」

その瞬間、ドリーは膜に触れそうな手を掴みガッチリと止めた。


「……何故だ?」

「この膜は内側に対しても先程と同じように触れたものを弾きます……骸王様が触ればおそらくは……」

俺ぐらい体が弱ければ腕が吹き飛ぶ……くらい言いたい所を飲み込んでいるようだ

……ドリーは俺のプライドを気遣っているようだ

「そうか……」

カジロウは腕を下ろした。


『よし!あの試作品を試すぞ!』

『畏まりました』

メグロ国にある研究所の骨が骨達の発明品フュカウンターを手に取った。


『どうぞ……』

【ラブネクロ】


カジロウの内ポケットに居る骨兵と研究所の骨兵が交換された。


さてと……

カジロウは送られてきた骨兵からカウンターを手に取り起動させる。


このフューチカウンターはカジロウが異世界から現実世界へと移動する手段を骨達に研究させていた時に副産物的に発明出来た物だ……メイリク法で対象のあらゆる未来を予知してその平均点を基準点と比較して数値化する……まぁ簡単に言うと近い未来を予測した戦闘能力の結果を数値で表す機器だ。


これを作るために墓に眠る占い師を何万人と骨化し、協力してくれた生きてる者も数千人が過労で死んでしまった……そういえば占の天才と呼ばれたバリスクは何処でどうしているだろう?

彼は依頼しようとした直前に何故か消えてしまった……本当に惜しい事をした……事前に逃げたという事は彼こそ一番欲しい人材だったはずだ……


「カジロウさん……それは何です?何の針です?」

ゼスタが背後からカウンターを覗いて五月蝿く喚いている。

こいつに覗かれながらやるのは何となく気分が悪い。


「ドリー、養老の滝から取れた酒……あれをゼスタに頼んであげて?」

「畏まりました」


ドリーは注文オーブに向かって語り出した。

『養老の酒を全て持って来なさい』

『注文ありがとうございます……申し訳ないのですが、ジャンスネークの披露に伴い、養老の酒は現在注文が殺到しておりまして……』

『骸王様の注文だ……全てここに集め、他はキャンセルしろ、いいな?』

『……承知致しました』

『悪い事ばかりでは無い、披露しているジャンスネーク……あれは私達の人数では食べ切れん……無償で他の客に提供するつもりだ……キャンセルした者達に優先的に提供すれば良かろう……それとセブンナッツ……あれを至急もってこい』


『承知致しました……お心遣い感謝致します……骸王様にも宜しくお伝え下さい』


闘技場でジャンスネークの攻撃を避けるスコッティを熱狂的に実況していた司会者はスタッフに耳打ちされアナウンスを始めた。

『闘いの最中ですが……養老の酒を御注文の皆様にお知らせがございます……養老の酒は当店の在庫管理の不備によりお出しできなくなりました……ご了承の程をお願い致します……繰り返します……』


『ッザッケンな!……俺たちに飲み食いさせない気か!……』

観客席は騒ついていた。


「お待たせ致しました」

カジロウの席に給餌が来てテーブルの上にグラスと虹色のピーナッツが盛られた皿を置いた。


給餌は酒樽を持ちグラスへ酒を注ぐとお辞儀をした。

ゼスタはいつの間にか席に座って酒を一口、そしてピーナッツを入れて噛んでいる。


ゼスタの口からパキパキと何かが弾ける音が七回聞こえ歯が折れたかと驚いたがゼスタは幸せそうな顔だ……


「ん〜……美味しいです」

「硬そうだな……」

「そんなこと無いですよ?音を立てて飛び跳ねますが……一口食べてみます?」

「いや……遠慮しとく」

「この塩辛加減が酒に合う……」


ゼスタは旨そうに食うが……

カジロウには最初の印象を払拭する事が出来なかった……何だか歯まで砕けそう……


ゼスタの空になったグラスに給餌は酒を注いでいる。

「ああ……自分でやるのでもう結構ですよぉ〜」

「左様でございますか……次の樽は時を見計らってお届けに上がりますので……」

ゼスタが言うと給餌はお辞儀をして廊下へ出て行った。


ゼスタは上機嫌だが、他の観客は不機嫌だ。

飛び交う怒号の渦は最高潮に達していた。

『ふざけんな!ジャンスネークは高いから匂いを肴に酒で落ち着こうと思ったのによ!……おいっ!何だ?あれ見ろよ!あそこの席だけ酒飲んでる野郎がいるぞ!後ろには酒樽まで用意してやがる!あのクソガキ!』


向かいの者たちは酒飲みゼスタを見つけて怒鳴っている……目の良い奴らだな……乱闘になったら子供達と逃げよう……

「調子に乗るなよ……小僧ども……」

小さく呟いたドリーの目は暗く沈んでいく。


……この膜があるからだ来るなら廊下からか……子供達だけなら余裕だな……出来ればゼスタをシンガリに残して逃げよう……


『皆様、ご不満な事と存じます……しかしご安心ください!彼処に居られます骸王様のご好意でジャンスネーク料理を皆様に振舞う予定でございます』


場内は突然の静寂に包まれた。

『骸王?関係ねぇな!』

ドリーは黒い炎をカジロウの席から向かって3時の方向へと投げつけた。


その炎は膜を貫通し、文句を垂れた観客とその左右の観客席を焼き尽くしていく。

炎に包まれたなんだかわからない人型の黒い塊がポロポロと暑そうに暴れながら観客席から落ち、闘技場の地に着く前に燃え尽きチリとなって消えた。

カジロウが振り向くとパエリは興味津々で見たがるポラの目を手で塞いでいる。


ジャンスネークとスコッティもその光景を凝視し、動きを止めている。


『……お……おお……骸王様!ありがとうございます!』

静寂の後、徐々にカジロウを絶賛する声が大きく聞こえて来た。


ドリーは少々やり過ぎな気もするが魔王軍としてはこれが正常なのだろうか?

……まぁいいか……


カジロウは膜の調査を始めた。

カウンターを膜に向けるとキリキリと音を立てて針が動く。


……針は8000フューチか……

何も持っていない成人男性カジロウは約100フューチ、メグロ国の騎士が1000フューチだった……

こんなのに触ったらドリーの言う通り俺の腕は……いや腕だけでは無い……体ごと粉微塵に吹っ飛んでいたかも……


しかし不思議な事に膜の数値はバラツキがある……柱に近付けば近付くほど数値が高い……柱の数値は1万……何故だろう?


「ドリー……この膜の原理知ってるかい?」

「滅ぼした陰陽師達の中には非常に優れた結界を張るもの達がおりました……その者達を人柱にした様です……すみません、しっているのはそこまででして……その方法や原理については私も存知ておりません」

「そうか……」


再現出来るものなのか?……


「よぉ〜っす!」

「カジロウ様、お招き頂き光栄にございます」

ザンガン達、冒険者が到着し、続々と席に座って行く。


「おねいさんだあれ?」

「私は護衛を依頼された冒険者よ……よろしくね」

「ねぇさん…つおいの?」


ウザ坊は闘技場のよく見える位置に駆け寄りはしゃいでいる。


「おお!すげぇ!ジャンスネークじゃん!すげぇじゃん!カジロウさ……ジャンスネークか……凄いですな……」


……何だこいつ……いつも以上にイラつかせてくれる……


『さぁ!そろそろ決着がつきそうですね!ジャンスネークの5つの粘液分泌器官のうち4つは断たれ、残すは眉間に存在する器官のみです!しかし

厄介な事にジャンスネークはこの器官が潰れ……即死した次の瞬間、身体中に毒が飛び火します……その毒は強力で養老の酒でも解毒出来ません……さぁ!今その技術が試されます!』


糠漬けの糠の様な粘土を身体中に塗りこまれ毒を分泌出来なくなった体を畳み、バネの様にしならせジャンスネークは一撃を繰り出そうとしている。

スコッティはそれに対して静かに構えているだけだった。


ジャンスネークはバネと化した尻尾で壁を蹴りスコッティに噛み付こうとする。


スコッティは包丁の背でその攻撃を受け回転し、ジャンスネークの眉間を貫き地面まで貫通させた。

ジャンスネークが悲鳴を上げる間もなく、勢いそのままもう一方の包丁でジャンスネークの首をぶつ切りにした。


ジャンスネークの身体は頭と切り離され死んでからもバタバタと暴れていた。


仕留め終わるとスコッティの助手達がおりから近寄って皮を剥いで、塩を擦り付けたりしていた。

唐揚げを作っている時の香ばしく優しい油の香りに人間のカジロウはヨダレを垂らして腹をならせた。


人間のカジロウでさえこれなのだ……場内をトントンパチパチという料理の音とグゥという腹の音が支配している。

マタタンはヨダレを垂らしながら壁を引っ掻き回して走り回っている。

隣からも壁を叩く音が聞こえる……ウルフマンも興奮しているのだろう……


運ばれて来た刺身は甘味があり、醤油のしょっぱさと丁度よく絡み合った。

その後も唐揚げや天ぷら……鍋などが次から次へと運ばれてくる……幸せだ……こんなに美味しいものを食べた事があっただろうか?何もかも許せてしまう……


「貰い!」

「……私の……そう思う」

またやっているが、良かろう!良かろう!


「バンペルトくんはヤンチャだなぁ!……みんないつもありがとね……ゼスタさんの酒は足りてるかい?注ごうか?あはははは!」


視線を一斉に受ける、自分でもテンションがおかしいってわかるよ、でも気にはしないよ……今、ぼくぁ幸せだからぁ……

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