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「うおーすげー!天狗の群れだ!ザンガン!見ろよ!」
カジロウ達と目的を同じくして鴉王カラテンは部下を連れてキョウトを目指して飛んでいた。
「ふむ、沢山居ますな……これが霊山の天狗か……」
若い天狗達は飛行船の窓を覗き込んで何かを確認している。
「オッスゥー!」
窓越しにウザ男は必死に挨拶をジェスチャーしてみせるが天狗達はシカトしている。
……天狗?……興味があるが……
カジロウは半覚醒状態でそれを聞いて、
半目を開けたが、すぐに眠気に負けて再び深い眠りに着く。
「ゼスタさん……ここはお願いします、皆さんは少々こちらでお待ちください」
「わかりました」
ドリーはゼスタに船内を任せると飛行船の後部のハッチを開き飛び出した。
そのドリーに天狗の群れの中で一番体の大きい白毛の天狗が近づいていく。
「ほっほっほ!ドリーでしたか……それではこの不思議な乗り物は……」
「鴉王様、お久しぶりです……御察しの通り骸王様の飛行船ですが……骸王様は現在お休みになられています……」
「そうか、そうか……それは悪い時に出会ってしまったなぁ……が、骸王は現在末席、古株のワシに挨拶もないのか?」
鴉王はドリーを睨み付けて威圧し、鴉王の部下達はその場で固まった。
「鴉王様お戯れを……王の位は大魔王様から頂いた職位……
上も下もございません……が、それでも骸王様に弓引きたいと言うのであればその怒りは私に向け、存分に発散してください」
鴉王の扇に風が集まり、周囲を急激に冷やし所々に大玉の雨粒を出現させ、凍って行った。
この強風をドリーに向けられれば、ドリーの体は氷に晒され無事ではすまないが、ドリーは目を瞑ってそれを受け入れる。
ドリーの着ている服に仕込んだ小さくした骨兵により、カジロウは始終を把握していた。
「……ほっほっほ!……ドリーよ、それ程迄に魅力的な人物か?……」
「私は大魔王様の命令で仕えた方には差別なく身を挺して尽くします」
『全員よく狙っておけ!』
《キリキリキリキリキリ》
カジロウは後部ハッチを開いて、飛行船の大砲で鴉王を狙う。
カジロウの大砲には広範囲に広がるネットを仕込んである……これならある程度高速で動かれても骨達は当てることができるだろう。
カジロウの周りにはカイゼンハーツの骨部隊が杖を掲げて溶岩を宙に浮かせて待機している。
これでも空戦ではやはり鴉王に部があるだろうが、鴉王達、天狗は意味もなく仕掛けてこない自信はあった。
彼等から送られて来る遺体は何時も損傷の激しい部分等にはワザワザ布が巻かれたりと丁寧にしてあったからだ。
喰王から送られて来る遺体なんて酷いもんだが……まぁそれは良いか……
「まぁ、そういう事にしときましょう!」
鴉王は突然速度を上げて後部ハッチ内に降り立ったがカジロウは落ち着いて見ていた。
「鴉王!私が骸王だが、何か用件が?」
「ほっほっほ、人間にしては若いのに度胸がありますなぁ……遺体は気に入っていただけてますかな?」
ダンジョン攻略やクロダイに齧られたりとカジロウもファンタジーのモンスターに大分慣れて来ている。
「何時も遺体をありがとうございます……で?今日は何用で?」
「ほっほっほ!そう邪気にしなさんな……風が吹き荒れてきたので少し骨休めじゃよ」
「そうですか……こんな所では休まらないでしょう……ドリー!座席に座ってもらえ!」
「はい!」
ドリーは鴉王を追って遅れてハッチに降り立ち、鴉王を客室に迎えて座らせる。
「うおっ!天狗が来た!」
「冒険者!無礼な口を聞くな!」
カジロウはウザ男に対して少し声を荒げた。
「そうですぞ!」
「あんた止めなさいって言ったでしょ!」
「私もそう思う」
……これだよ!こいつらはいつもこんな調子……イライラするな
「結構結構!ほっほ!これは楽ですなぁ」
「トウキョウで生産している日本酒です……どうぞ……」
「こりゃどうもご親切に……くぅ〜老体の身体に染み渡りますなぁ!」
「あっドリャーさん、私にももう一本……」
「はい……」
「ほっほっほ!お嬢さんいける口ですなぁ!ドリー、私の部下にも酒を運ばせている……持ってきてもらえ」
「お爺さんこそお歳の割には良い飲みっぷりですねぇ」
「ほっほっほ!そうかの?」
ドリーは忙しく右往左往して給仕に勤めていた。
「はい、只今!」
ゼスタ!いい加減にやめろ!……なんて言ったら鴉王まで遠慮してしまうか?
「ドリー、悪いね」
「いえ、これも仕事ですから」
鴉王はホロ酔いになったのか、カジロウに話し掛けてきた。
「骸王よ」
「なんです?」
「酒の御礼というわけでは無いが、老婆心ながら忠告を……大魔王様は新たに王が加わる度にその王に試練を与える……恐らく今回も……心しておく事だな」
「これはワザワザありがとうございます」
「ほっほっほ!」
……試練…ねぇ……




