火の不始末
あなたは鳥と目があったことはあるだろうか
チチチチ、チチチチ
いつもと変わらぬ朝、いつもの目覚まし音で俺は目を覚ました。
眠い目をこすりながらその音源を止め、もう少しとまた布団にくるまる。
余裕を持って起きたはずなのにふと気付けばもうこんな時間。急いで飛び起き朝のルーティンを手早く済ませると急ぎ足で家を出る。
この時間はいつも憂鬱だ。みんなが急いでる。それにつられて自分も早歩きになる。
駅前の1車線の赤信号、車は来ていない、ほかの人も渡っている。
時間もないし自分も渡ってしまおう。
人の間を縫うように走る自転車が横を通り過ぎる。
内心舌打ちをしつつ構っていられないから進み、改札を抜けて列に並ぶ。
分かってはいたけどいつも通りの満員だ。
パーソナルスペースなんて存在しない、押されて奥へ奥へと追いやられる。
唯一の救いは3駅で済むというところだ。
窮屈で息苦しい、揺れること数分、また数分と耐えればようやく到着だ。
また1日が始まる。
——くるるる、くるるる
鳩が鳴いた
眠い、しっかり寝たはずなのに眠い。
眠気ごまかすためコーヒーを買いに席を立つ。
…先客だ。自販機の前で談笑している。
コーヒーを買うだけだから早くどいてくれ。そう思いながらその場を後にし、少し歩いて時間をつぶす。
しばらくして戻るといなくなっていた。これでやっと買える。
コーヒーを缶…いや、ペットボトルで買おう。
そうして自分のデスクに戻り、ちびちび啜りながら午後を迎える。
大きなトラブルもなく今日はいつもより早く終わった。珍しく定時で帰れる。
不思議と日中のだるさがなくなり足取りが軽い。せっかく早く終わったんだ。家もそう遠くはない、歩いて帰ろう。
不思議と空気がおいしく感じる。たまには歩いて帰るのも悪くないな。
そう思っていた時、嗅いだことがある。いや、正確な銘柄なんかはわからないがこの不快感は覚えている。歩きたばこだ。
せっかくのいい気分を台無しにされた。
そもそも歩きたばこなんてマナー違反だろ、自分の肺を汚すのはいいけど他人に迷惑かけんなよ。
自然と俺の視線はそいつに向いていた。
どうせポイ捨てするんだろ?まったく、これだからヤニカスは…。
案の定、そいつは吸殻を消しもせず投げ捨てた。
道端でくすぶっているソレからは微かに煙が出ている。
ほら見ろ!やっぱりだ!
拾って落とし物ですよって投げつけてやろうか。いや、あんな奴が口付けたものなんて触りたくねぇ。きったねぇひげ面だな。
すれ違い、後ろ姿になっていくそいつをまだ目で追っていた、そしてその背中が遠くなった頃聞こえないくらいに舌打ちをした。
本当に台無しだ。
気持ちよくかいていた汗も今ではすっかり冷えて衣服が張り付く不快感にかわっている。
もういい、あと一駅の距離だけど電車で帰ろう。
———くくるる
離れたところで鳩が鳴いた。
駅は遠くない、少しだけ歩けば到着した。
時間も時間だ、歩いていたとはいえ、やっぱり人は多い。また押し込まれて揺られるのかと憂鬱になる。
まぁでも一駅だ。我慢我慢…
なんてことを考えていると電車が見えた。減速する電車、やっぱりすでに人はそれなりに乗っているな…
っておい、嘘だろ?白線の外側歩いてるバカがいるぞ!?いやいやいやいや、死にたいのかこの命知らずは!?
は?しかも俺の前に割り込むのかよ。ふざけんな!こっちは並んでたんだぞ!
停車し、扉が開く、ぽつりぽつりと降りる人たち。それを割って押し入る命知らず。
内心舌打ちをして狭い車内へ足を運ぶ。
不運にも俺の後ろに命知らずが居やがる。関わりたくもない、このまま放っておこう。
ずし…
は?俺にもたれてきやがったぞコイツ。何様だよ、クソ。
加齢臭が鼻を突く、押し付けられる肉、硬い骨、やたら高い温度。
耐えられない。離れよう。
狭い車内、離れようともがいても移動なんてできるはずもなく。
そうしているうち、降りる駅に到着した。よかった、早く降りなきゃ———
ドンッ
後ろのそいつも降りる駅がここだったんだろうな。俺を突き飛ばして降りようとしていた。
瞬間、脳内が真っ白に塗りつぶされた。
「ふざけんな!!!!」
次の瞬間、拳が後頭部にめり込んでいた。
不快な熱と鈍い衝撃。
二度、三度、倒れたソレに拳を振り下ろす。
周囲が一気に騒がしくなる。
全部、遠のいていく
とても静かだ。
———ガァ、ガァ
どこかでカラスが鳴いた。




