第4話
衝撃派が通り抜け、白銀の煌めきを纏った神宮寺さんがふわりと俺の前に着地をする。
「すみません、遅れを取りました……」
片腕をプラプラしながら笑う神宮寺さん。ぱっと見折れているようにしか見えないのだが……。
「左腕、大丈夫なんですか?」
「あはは……大丈夫じゃ無いですね……っっ!」
痛みに顔を歪める西園寺さん、小さく何か呟くと沢山の文字が描かれた布が現れ腕に巻き付いていく。
「止血・痛み止め用の呪布を巻きましたが……正直、マズいです……」
袖の下から覗く左腕、そこに巻かれた布へ血が滲みダメージが伺える。
「小鳥遊様、今のうちに逃げて下さい……この敵は私の力では足止めが精一杯です。それに、もしかしたら……」
斬り飛ばされた大型魔獣が立ち上がり憎々しげにこちらを睨む。西園寺さんに斬られた部分からは他の魔獣と違い黒い血が流れてる。
「良い一撃だ、それだけ力があれば食いでがありそうだ」
ニィっと厭らしい笑みを浮かべる。その問いに西園寺さんが憎々しげな顔をする。
「そんな……全然効いてない……」
「ごめん西園寺さん……俺も戦えたら……」
「いいえ。小鳥遊様は能力をお持ちでないですし、そんな方を守るのが私達の役目ですので……」
俺へと向ける笑みに余裕が無くなってきている。
(戦えない俺が居たら余計に西園寺さんが危険になるかもしれない……だけど……)
「大丈夫です、私も本気を出しますから。ですが、私の技は小鳥遊様を巻き込んでしまうかもしれません……ですから、逃げて下さい」
直接言わないが、足手纏いという事なのだろう。
「わかりました……それでは。また会いましょう……」
悔しい気持ちを抑え、笑って約束をする。
「はい、また会いましょう……。では、私が一撃入れますのでそのタイミングで飛び出して下さい。〝決して〟後ろは振り返らないで下さい」
「わかりました!」
「今です!」
落雷が落ちた音がした瞬間走り出す、一目散に公演を抜けようとしたが背筋が凍る。
「どこへ行こうというのだね?」
「へっ?」
あの獣の声がした瞬間、足元が無くなり地面に転がる。
「逃がす訳なかろう……」
「あぁ、ああぁぁぁぁぁ!!」
声のした方を見ると、見覚えのある膝から下がすっぱりと切られ転がっている。痛みが脳に認識されたのか、とんでもない激痛が全身を支配する。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃいぃ!?)
「しかし、現代の巫女は質が下がったな……まさかひと薙ぎで《《割れて》》しまうなんてな。まぁ、腹に入れば一緒か」
その声と共に俺の横に何かを投げられる。それが西園寺さんの上半身だと気付いたのは彼女の虚ろな目が俺を捉えたタイミングだった。
「ごめんな……さい……たか……なし……さ……」
口から血を吐き出し、絞り出すような声で俺に謝る西園寺さん。
「あがぁぁぁ……」
呻くような声しか出ない、短い時間とは言え寝食を共にした相手がこうなる事に対して様々な感情が渦巻いていく。
「さて、今際の別れも済んだであろう、痛みもあるだろう。仲良く腹の中で我の力になるがいい」
「あぁ! 西園寺さん!!」
あんぐりと口を開け西園寺さんがひと呑みされる、バキバキという咀嚼音と血が地面に落ちる音を飛びそうな意識の中で聞いていた。
「ふざ……けるな……!」
視界もぼやけ意識も途切れ途切れになる……。
『勇者の因子確認……勇者へ成りますか?』
(あぁ、西園寺さんを助けられるのであれば……)
『神の力の素体確認……この世界初の勇者です。特典として欲しい能力が神より与えられます、選択してください』
(全部だ……あの魔獣を倒し、西園寺さんを救える力を!)
『全ての能力の取得を開始…………能力の数が多すぎます、優先順位を指定して下さい』
(今必要な能力を優先に取得だ!)
『複数の能力を取得……西園寺家御家流……取得。回復魔法……取得、修復魔法……取得』
(だが、身体があれじゃ戦えない……)
『優先順位を変更。魔力による肉体の欠損を補填……完全回復魔法の発動を確認』
(体の感覚が戻って来る、今度は〝戦える〟)
『ようこそ、新世界へ……勇者』
その声によって意識が途切れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
――ドクン
心臓の音が聞こえる……。
「……ぷはぁ!! 俺……生きてる?」
身体を起こして周囲を見る、思い出そうとするが記憶がおぼろげである。
「西園寺さん! いっつ!?」
頭痛を我慢しつつ倒れ込んだ西園寺さんに駆け寄り抱え上げる、魔獣に食い散らかされて下半身の無かった彼女がいつの間にか元通りになっている。
「一体……何が起きたんだ?」
すると軽い頭痛と共に少しだけ記憶が蘇ってくる。俺が襲ってきた魔獣を打ち破って西園寺さんの蘇生まで行っている事に。
「俺が? どうやって?」
あの時聞こえた声は不明だけど、なんか勇者とか魔法習得とか何か色々と言ってたな?
「んっ……あれ? ここは?」
「あ、起きたんですね……ごふっぅ!」
飛び込んでくる西園寺さん受け止める。
「良かった! 良かったです!!」
「あぁ、なんか少年漫画みたいに土壇場で勇者に覚醒したみたいだ」
「なんですかそれー!」
大泣きしながらツッコミを入れてくれる彼女を宥めていると、チラチラとなんかありえないものが視界に入る。
「西園寺さん、一つ質問なんだけど……獣耳って生えてたっけ?」
「ふぇ? 私は至って普通の人間ですけど……?」
泣き止んだ西園寺さんが目をぱちくりとさせて俺を見る。カワイイ……。
「あーえっと……ごめん、見てもらった方が早いかも……」
無事だったスマホで写真を撮って見せる、画面の中には可愛らしい耳と尻尾の生えた姿がそこにはあった。
「なっ……なんですのこれぇぇぇぇ!?」
西園寺さんが悲鳴を上げる。その瞬間、先程までの記憶が一部だけ蘇る。
「――っつ!」
「あっ、ごめんなさい!」
「あー大丈夫、なんか今記憶が戻ったんだけど。ごめん……あの魔獣の攻撃で喪失した分の肉体が足りなくて。蘇生する時に不足部分に魔獣の力を使わざるを得なかった……という事みたい……」
気まずい俺は頬をかきながら明後日の方を見る、死んじゃう所だったし許してほしい。
「そんな、どうしましょう!! お母様になんと言えば良いのでしょうか!?」
「やっぱりまずかった?」
「ど、どうなのでしょう……昔、狗憑きが現れた時は……」
「座敷牢に幽閉の上、生涯飼い殺しですわ」
突然聞こえた柔らかい声による回答、二人して驚きながら振り返ると柔和な笑みを浮かべた銀髪で西園寺さんと瓜二つな巫女さんが立っていた。




