第3話:一晩の過ち
その後、何か色々と悶々とした入浴タイムから冷静さを取り戻した後、リビングへ戻ると西園寺さんが電話をしている所だった。
「はい、はい……わかりました。お母様もお気を付けて……。あ、小鳥遊様」
「あっ、えっと……お家の人? 迎えに来てくれるとか?」
「はい、お母様からですね。ですが、今日は仕事で帰れないそうです」
「そうなんだ、お父さんは?」
「お父様は、たしか今……ロンドンでお仕事をしているはずですね」
「ロンドン……」
「はい、外交官ですので」
「じゃあ、お家の使用人の人とかは?」
あの黒服の人とかはちがうのだろうか?
「流石に普通の家ですので、使用人などは数名おりますが……」
「あ、いるんだ……」
「ですが、流石に皆様、今日は仕事を終えてしまっているので……」
うーん、どうしよう。最近連続失踪事件とか起きてるし、西園寺さんくらい浮世離れしてる雰囲気だと真っ先に標的にされそうだし。
「流石に、この時間一人で帰らせるわけには……。だからといって今度は送ると帰りの電車が無い時間になってしまうし。ちなみに、ウチはここなんだけど、西園寺さんの家は?」
スマホの地図アプリを見せ自宅の位置を示す、それを見た西園寺さんが苦笑いをする。
「そうですね、私の家の最寄り駅はここから電車で4つほど先なので……」
「お、おぅ……」
4つと言っても大体3〜40分くらいする距離なので、車だと相当距離があるな……。
「で、ですので……もしご迷惑でなければ、一晩軒下を貸していただければ……」
「へっ? 軒下って……?」
「はい、修行の為に外で寝るのは慣れてますので……」
「えぇ……流石にそれは気になるからリビング<ここ>使ってよ……」
「ででで、ですが! それだと小鳥遊様と同じ屋根の下で寝ることに……」
「いやいや、一緒に寝る訳じゃないし……。それに一人で帰らせたりするほうが心配だからさ、なんかあったら責任感じちゃうし」
いくら呪術師だとはいえ女の子のひとり歩きはかなり心配だ。
「は、はい……ではお言葉に甘えさせていただきます」
頬を赤く染める西園寺さん、なんというか俺のシャツを着てるということもありこれは相当にやばい。
「うん、じゃあ布団持ってくるよ。干してないから、そこは我慢してくれると有難い」
「あっ、はい! ありがとうございます!」
「――くっ……!」
こういうのが目に毒というのだろうな……。なんて思いながら布団の準備をするのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん……んんっ!?」
いきなりの衝撃と共に口に何かを当てられる、入ってくる月の明かりと顔に落ちる黒羽の髪に目を見開く。
「ごめんなさい小鳥遊様……ですが緊急事態でして……」
耳元で囁かれる、西園寺さんの格好とか諸々に意識がくらりと奪われそうになる。
「小鳥遊様?」
「……ふぁっ(はっ)! ふぉふぇんふぉふぇん(ごめんごめん)、ふぉうひふぁの(どうしたの)? 」
「勘違いだったら申し訳ないのですが、犬などはお飼いになられてますでしょうか?」
「ふぃふぃは(いいや)ふぁってふぁいよ(飼ってないよ)? ふぉひゅうふぁ(というか)ふぉろふぉろふぁふぁして(そろそろ放して)」
「………………???!!!!!」
口に添えられている手に手を重ね、彼女の先程からチラチラ視界に入る水色のモノを指差す。すると、まじまじと自分の姿を見た西園寺さんが瞬間沸騰する。
「すすす、すみません!」
西園寺さんの声、それと共に階下からガラスの割れる音がした。
「!! 小鳥遊様……!」
「いいや、ウチは犬飼ってないよ……それと、これなら綺麗だから」
西園寺さんへ体操着の短パンを手渡すとそれを履く、というかさっき渡せばよかったような……。
「ありがとうございます。そうですか、私は下を見てきます……」
「俺も行くよ、泥棒とかだったら危ないし」
真っ直ぐに目を合わせて返すと、西園寺さんは大きく息を吐く。
「わかりました、すぐに逃げれるようにしておいて下さい」
「わかった……」
懐中電灯……もとい自転車のライトを持って階下へ降りると、リビングは悲惨なくらいに荒らされていた。
「あれは……犬?」
「あれは!」
「ガウウゥ!」
「「!?」」
唸り声とドタドタと暴れるような音がする。中を覗くと大きな狼らしき獣が先程まで西園寺さんが寝ていた布団と持っていた荷物を破壊している。
「なんなんですかあれ……」
「魔獣と呼ばれる存在ですが、あんな大きさ見たこと……」
「きゃっ!?」「あぶなっ!!」
目があったと思った瞬間、西園寺さんの手を引いた……その瞬間リビングと廊下の壁が壊れる。
「逃げます!」
「は、はい!!」
玄関に走り慌てて靴を履く、あの体躯よりも細い廊下が幸いしたのか藻掻いている間に外へ出る。
「ま、魔獣って!?」
「私達、古来より人類が相手にしている存在です! ですがあんな大きさのは初めて見ました!!」
するといつの間にか俺のスマホを西園寺さんが操作をしている。
「小鳥遊様、周囲に広めの空き地などは!?」
「公園がある! こっちだ!」
西園寺さんの手を引いて走り出す、家の中からの遠吠えと共に数匹の影が周囲を囲むように現れた。
「眷属まで……どれだけの人が……」
苦々しく唇を噛む西園寺さん、その顔から伺えるのはパワーアップには人を襲う必要があるようだ。
「そういえば西園寺さん……武器はあるんですか?」
一応何か無いかと慌てて取った鉄シャベル(1個)しか無いけど。
「えぇ! とはいってもこの数相手だと……」
(7……8……9……まだ増えるのかよ!?)
振り返った時には十匹を超えた魔獣達が追ってきている。親分はまだ来てないのか姿は見えない。
「ここだ! そこまで広くないけど!」
回転ジャングルジムや数基の遊具が置いてある、少し大きめの公園に到着する、そして囲まれる俺達。
「この広さであれば大丈夫です……」
手印を刻むとどこからか御札を取り出す、それから何かを唱えると長めの日本刀へ変化する。
「すごっ! かっけぇ!」
「そ、そうですか……」
照れる西園寺さん、その隙を見逃さなかった魔獣が飛びかかってくる。
「はぁっ!」
「――――!!」
大太刀によって一瞬で十字に切られた魔獣が悲鳴も上げずに露と消える、今何したの?
――パチ――パチパチ――
音の方を向くと……西園寺さんがなんか光ってる!?
「小鳥遊様、動かないで下さい……狙いがズレますので……」
「へっ?」
変な声がして瞬きをした瞬間、周囲を囲んでいた魔獣が霧散する。一瞬西園寺さんの姿がブレたと思ったらこうなっていた。
「大丈夫でしたか……小鳥遊様!!」
西園寺さんに突き飛ばされた瞬間黒い影が横切る、鈍い音とともに前方に先程の大型魔獣が目の前に降り立つ。
「ぐるるるる……」
「お前……」
シャベルを構える、いくら鉄製とはいえ攻撃が通ると思えない……。
「ほぅ、面白い……我が食い散らかしてやろう!」
人語を喋りニヤリと不気味な笑いを浮かべる化物が大きく口を開ける。
「させません!!」
飛び掛かられた瞬間、白銀が体の横を駆け抜け巨大な体躯を弾き飛ばした。




