89.【俺】マルタノダンジョン攻略開始
自分の行動が返ってくる素晴らしいゲームだが、だからこそ油断できない。ゴブリンを指示し放置したのを忘れていた。ただ一々解除しないといけないのはちょっと面倒かも。トレントでもやったしいい加減気を付けよう。
こっそりとサブサブロを操作し、ギルドを出ようとする。その際、ウィルソンがちらっとこっちを見てきてドキリとした。
「大丈夫だよな?」
別に俺が殺されるのはいいが仲間を失ったり拠点を壊されるのはごめんだ。切り株ダンジョン近くまで歩いていき、速攻ゴブリン達をスパーダに飛ばした。
ゴブリン達が集めたお宝は泣く泣く放置。消えたら消えたで怪しまれるかもだから。まさかここまでNPC達が痕跡を追ってくるとは思わなかった。
「よし」
誰にも見られないよう細心の注意を払って、俺は引き返してマルタノダンジョンへと向かった。
マルタノはペルシアの隣。切り株と違って門番を配置し、警備はしっかりしている。冒険者の出入りも多く、その流れを求めて入口に出店が軒を連ねていた。
ちょっと割高なポーションや武器が並ぶ。旅館の自販機みたいなもんかと俺は思った。迷宮で出土したものなのだろう魔道具は興味を引いた。
今は時間がないからスルーするけど、また見に来ようと思う。
「C級から魔道具ドロップ有りか。いいの落ちてくれたらいいんだけどな」
≪難度C級マルタノダンジョン≫
とゲームらしく画面上側に表示され到着したことを教えてくれる。難度C級というけれど階層で難度が異なるらしく、全80層中手前20層はD級──中層60がC級であり80層がC+級相当と解説にはあった。
ダンジョンはあみだタイプ。そう、あのあみだくじのあみだである。階層内に幾つも階段が存在し分岐してゆく。そのルートは1,000を超えるとも言われ、故に数多くの冒険者達が入っても混雑したりはしないのだそう。
数が入るようにする仕組み。ペルシア経済を支えるほどの豊富な資源。
(もしかしてだけどダンジョンマスターがいるのかもな)
既にその存在は匂わされている。何故ダンジョンが存在しているかなど突っ込んだ世界観はまだ秘密のデュアルミッシュ。予想としては俺のようなプレイヤーにみたてたNPCがいる設定なんだと俺は思ってる。そういうキャラが出てくるんだろうって。
(そういえばサブサブロも封印されてたよな?)
忘れてしまいそうになるがサブサブロの本体は空白の大地に封じられていた化け物であり、この体は帝国兵の死体である。あそこで彼らが戦っていた理由も、もっといえばリーデシアがどんな場所なのかも分かっていない。
まだまだ謎だらけのこのゲーム、途中で放り投げてなければそのシナリオは長編ものとなるだろう。早く進めたいがそのためにもレベ上げだと俺はバワンと大福を連れてダンジョンに入ったのだった。
マルタノ第一層。入口ということもあって人が多く、まだ新人なのか若い冒険者が目に付いた。大体この手のゲームは主役以外の描写が省かれるものだがやはり凄まじいまでの拘りを感じる。
大福とバワンの索敵に頼り、一気に5階層までほぼ戦わず突き抜けた。流石にモブからストーリー変化が起こるとは思えないが人目を嫌う日本人の性がでた。
まあもうどこがフラグになってバレるかわからないし俺もかなり抜けてる所があるので慎重くらいが丁度いいだろう。
「ゲームでも視線ないと落ち着くしな。よしやるか」
20層までは地図がある。ギルドで買ったそれによればワイルドウルフ、ゴブリンノーズ、キラービートル、ラウンズロックなる魔物達が登場するようだ。
外の魔物を殺すのは躊躇うが迷宮の魔物には容赦しない。テイムできないのと意思疎通を図れないのがでかい。それにどうも黒い靄となって消える感じをみて本体っぽく思えない。多分、これがミミックメイカーってやつなんだろう。
俺の奴は階層主のみって書いてた気がするからもしかしたら上位かも。糞ー潤沢にメイズポイント集めやがって。
20までは上げられたがそこから必要経験値が跳ね上がった。俺は魔王なので魔物を倒してもそこまでレベルアップは期待できない。なので迷宮攻略は基本魔物のレベリングと連携確認になる。極力魔物に倒させるつもりだ。トドメで変わるか知らんけど。
「サブサブロのレベリングは盗賊討伐依頼とかで稼ぐしかねえよな……」
迷宮を動かせない以上、普通の人を狩らなければならないが何だかリアルなので一般人を倒すのはどうにも気が進まない。
ただ、生死を問わない盗賊の依頼を見つけた。C級に上がれば受けられるそうなので最悪それでレベ上げを行おうと思ってる。
岩の化け物が現れた。ラウンズロックだろう。つうわけで──
「じゃ、実力見せてくれよバワンと大福」
俺は2匹を下ろし、配下との共闘を楽しむのだった。




