85.【魔物・ギルド】動き出したサブサブロ包囲網
【魔物6傑】
アタイとあんたで話がしたいさね。そう言われ珍しいとつぶらな瞳を細めるのは白丸ボディーを持つ兎、大福。主であるサブサブロは6傑を集めて並べるだけ並べてどこかへ行ってしまったため暇を持て余していた。
「二人きり……でね。主様への謀反を企んでいるなら応援はするけど参加は断固拒否するわよ」
「誰がそんなことするさねっ!?」
「っチ」
魔怪鳥バワンとは主の頭という最高の縄張りを取り合う関係だ。鳥臭い匂いがついて敵わないと邪険に思っていた。それでこそ6傑という同じ地位にいて雌なのだ。主の寵愛を取り合うライバルになると理解していた。
「アタイは停戦を提案しにきたさね」
「停戦?譲ってくれるということかしら」
「そっそれは駄目さね。何よりアイツがサブサブロがアタイを求めるさね」
「あの方はお優しいのよ。お恵みよお恵み」
「なっ!!そんなことないさね。それを言ったらって!だから!喧嘩してる場合じゃないさね。アタイ達はピンチさね」
「ピンチ?」
どこがと大福はない首を捻る。6傑に入った時点で魔物側では勝ち組。更に主であるサブサブロには撫でて貰えるほどの近い距離に置かれているのだ。そこにこの鳥も加わっているのは不満だが。
「さっき戦ったあのニンゲン達」
ああ、中々手強かった。だが、魔物を鍛えるための捕虜だと大福は考えていた。
「あれが何?」
「あれはサブサブロが囲った雌さね」
「馬鹿言わないで。主様が人間に興味を持つわけないでしょう」
「一人、アタイが相手をしたエルフにサブサブロの匂いがついていたさね。ビッシリと」
「なっなんですって!?」
「それにアイツらから汗以外の匂いがしなかったさね。厚遇されてる可能性があるさねアタイ達よりも」
「あり得ないわ。主様は人ではないわよ」
「でも、人型さねっ」
大福はつぶらな瞳を見開く。魔物にとって形は重要だった。本来、形の違うものには惚れないようになっている。それを覆すのは圧倒的な魔の力のみ。盲点。確かに囲ってもおかしくはないように思える。
「サブサブロほどの存在。人間もほっとくわけないさね。奴ら人どもがアタイ達と同じ妻の座を狙うなら、真っ先にやることは」
「私達魔物嫁の排除」
まだ嫁でもなんでもないが、もうその気であるバワンはコクリと頷いた。
「アタイ達が番となるためには5人の人間と争わなければならないさね」
「成程、これは確かに手を組む必要がありそうね」
「今は休戦さね。まずは」
「ええ、ニンゲンどもを追い落とす」
互いに頷いて手が結ばれる。ここに6傑二匹が手を組んだのだ。
「それに、まだあるさね。アタイ達には最強のライバルであるバッツがいるさね」
「貴方の弟?雄じゃない」
「ふっサブサブロは両刀さね。よく見るさね。サブサブロはいっつもバッツばかりを見てるさね」
「なんですってえええええ」
その後、加わった教会グループを見てミハエルも嫁候補だと勘違いしたことでサブサブロ嫁レースは混迷を極めてゆくことになる。
そして、きゃいきゃいと騒ぐ二匹のメスを見てゴブウェイは欠伸をして
「ねむ」
と特にコメントせず眠りにつくのだった。
【ギルド】
同時刻、ギルド長室に呼び出された受付嬢シアラの姿がそこにあった。葉巻を咥えるギルド長ダンプストの機嫌は悪い。殺したと思っていた相手が生きていた。流石は魔道技術が他より100年進んでいると言われるリーデシア帝国。
そして噂通り、よくわからない行動をするその兵士。銃に撃たれたのに気にした様子も見せず、要求はあったものの少ない慰謝料で去っていった。
無茶苦茶である。そしてそんなものを担当したばかりにとばっちりを受けているとシアラは目を伏せた。
「シアラ、お前があの担当者ということでいいネ」
「たっ確かに私が登録などを請け負いましたが専属とかそういうものではなくて」
「お前が一番近い存在。そうですネ」
う゛……否定することはできない。実際、彼女以外対応していないのだから。
「はい……」
「では、あれを誘惑するネ」
「え?」
「示談を望んだということはあれはこの町で活動する気ネ。だが、意図が掴めないのネ。そもそも何故このペルシアの町に現れたのか……。お前たちが綺麗どころである理由それを忘れたとは言わせないネ」
受付嬢はいわば餌。強力な冒険者を囲うためのハニートラップ。そこに個人の自由はない。現代社会なら炎上しているだろうがここはエルダイン。
「っ……了解しました。ギルド長様」
眼のハイライトを消したシアラはペコリと頭を下げた。顔も知らぬ相手に媚びを売る、それもゴブリンキングの耳を送ってくるような蛮族に。ふっとシアラは自嘲する。
いっそ帝国がこんな国本気で支配してくれたらいいのにと。だが、その願いを告げる相手は今の彼女には無かった。




