プロローグ~出会いは突然に~
…眠いのぉ。
まぁ、それだけ平和な証拠なのじゃろうな。
さてまた今日も1日…。
「お休みなさい、なのじゃ」
…………。
……。
…。
一体どの位寝たのじゃろうか?
ううむ、眠いが外の様子を見てみるとするかの。
目向い眼を擦り、くああと欠伸をしながら洞穴の外へと這い出る。
「はてな、此処は一体何処じゃ…?」
洞穴から外へ出ると見知らぬ木々が辺りを覆い尽くしていた。
何処の森なのか。
獣の状態から人間の姿に変わる。
見た目幼女らしき巫女服の人物がそこに立っているばかりである。
「ふむ、どうやら妾は大変な目に遭ってしまったらしいの」
掌を水平に、額に当てながらきょろり、きょろりと辺りを見回す。
そこへ誰かの声が聞こえた。
「――あれ、なんで人間が此処へ…あれ…獣人?」
(け、獣が人間の様に服着て、喋って、二本足で立っておる!?
しかもちっさい女子とは…)
「ふむ…? お主は一体何者じゃ?」
確かに驚く事ではあるが、勇気を持って妾を見付けた人物に話す。
「何言っているの?」
ううむ、言葉が通じて無いのか一蹴されてしもたの。
じゃが、それは兎に角こちらにも言える事なのじゃがなぁ…。
「ううむ、言語の壁は厚いのぉ」
言葉の通じ無さに妾はこめかみを指で押さえ、とほほ…としょんぼりと俯く。
「仕方無い、あれを使うしかないの」
――――何時の間にやら木の葉が一枚、頭に乗っかっていた。
「『妖の極、”木の葉変化の術”』!」
どろん、と音がしたと同時にそ女子へと化けて見せた。
「……!?」
無理も無い、完璧に化けきっていたのじゃからの。
「う、そ…?」
再びどろろん、という音と共に元に戻った。
「脅かしてすまんの、しかし、そなたに変化したおかげで大体の言葉が分かったのじゃ。兎に角すまんのぉ」
「君、誰? 怪しい、人?」
「妾か? 妾は巫、羽衣巫じゃ。此方では確かナギ=ハゴロモと申したかの?」
「あ、あたし…ルナ=ウルフォウス」
「ルナか、良い名前じゃのぉ」
「えへへ」
獣人の幼女は初々しそうに照れた。
「ルナ、兎に角近くに村か、町はあるかいのぉ?」
「どうして?」
「妾は迷ってしまったのじゃ」
「どうして?」
「妾にも解らんのじゃ」
「キオクソーシツなの?」
「難しい言葉をよく知っているの、だが違うのじゃ」
このままでは埒が明かないと判断した妾は、ルナと申す女子に訊ねてみる。
「兎に角、案内して貰えんかの? 妾だけでは心許ないのじゃ」
「襲わ、ない…?」
「うむ? 襲う理由が何処にあるのじゃ?」
ルナは半信半疑で問うが、ナギは真顔で即答した。
「本当の、本当?」
「うむ、本当じゃ」
暫く沈黙が続いておったのじゃが――――信用してくれたのか、妾の巫女服の袖を掴んでこう言ってくれたのじゃ。
「…行こ」
「恩に着るのぉ」
妾達はそのまま、森の出口へと向う事となった。