38話 ノアの命運はいかに!
ツルカネオのいる屋敷に着いたノア、ヒューリス、ブスオリ、オーラの4人は、馬車から降りるなり大歓迎された。
ツルカネオが猛スピードでノアに近づき、手を握る。
「よくぞ帰ってきてくれました!ノア様、どうでしたでしょうか?大妖精は、なかなか見つからないでしょう?さぁ、中に入ってご飯でも…ん?」
ツルカネオはノアしか見ていなかったが、ふと視界に入ったオーラに気づく。
「すみませんが…そちらのお嬢さんは、どちらでしょうか?」
「こちらが、大妖精ですよ。ツルカネオ様が、ブスオリ様とともに探すように依頼を出した…」
「……ま、まぁ、話は中で聞きましょう。」
ツルカネオはノアを強引に引っ張って、屋敷に入れる。
────ガンッ
扉が閉まりそうなところで、ヒューリスが足を挟ませる。
「ツルカネオ様ぁ?息子様をお忘れでしょうかぁ?」
「…チッ」
ヒューリスは、屋敷に入る口実を手に入れる。
ヒューリスとオーラは目を合わせ、頷く。
「皆、入ってくれ。ディナーは、うちのシェフが腕によりをかけた最高級のもの…ノア様のために作ったと言っても過言ではないのですからな♪」
「お、お気遣い感謝します…」
「いいえ。なんのなんの♪」
貴族のツルカネオ自らが、冒険者であるノアを案内する。
「順調ね。このまま、ノアがツルカネオの機嫌を良くし続けてくれればいいけど…」
「大丈夫よ!私たちがすればいいのは、落とした後にめちゃくちゃ上げるだけ。もう落としたし、あとはノアがしっかりと可愛子ぶればいいのよ。」
帰りの馬車で、ヒューリスとオーラはノアに強く命じていた。
「絶対に、ツルカネオの機嫌を良くしなさい。とにかくデロデロにね。」
「なぜです?それだと悪い結果になりそうですよ…」
「いいこと?私たちは、しっかり守る。変な気が起きない程度に愛想良くしておけば、止める時にちゃんと止めるわよ。」
嘘である。オーラは少し痛い目に遭わせたいと思っていた。
「というか、ちょっと痛い目見ればいいのよ。私に屈辱的な思いをさせたんだから…!」
オーラは、魔力操作の件を引きずっていた……というのは建前だ。
(親しくもないのに、ディナー?ふざけないでちょうだい!あの幸せそうな顔を、ツルカネオなんて変な奴に見せるなんて嫌よ!)
ただのツンデレだった。
オーラは、ツルカネオに対する怒りの感情を滲ませている。
「怖いですよ…」
「ごめんなさいね。でも、 (ツルカネオを殺るのが)本気よ?」
「え! (自分を)酷い目に遭わせるのはやめてください!」
「別にいいでしょう?」
2人の話は見事に食い違っている。
「ううぅ…お嫁に行けませんよ…」
ノアが俯くと、オーラは少し慌てる。
「ち…違うのよ?ただ…ノアとディナーなんて贅沢だし…」
「へ……?今なんて言いました?」
ゴニョゴニョと呟いたオーラの言葉は、ノアには聞き取れなかった。
「な!なんでもないわよ!とにかく、嫌でも我慢してツルカネオをデロッデロに甘やかしなさい!」
「えぇ…」
ヒューリスは、少し焦るオーラを見てニヤニヤする。
「あれれ〜?ノアが本格的に心配になってきちゃったのぉ?あんなに素っ気なかったのにぃ〜♪」
「うるさいわね。私は、ただ計画をしっかりと成功させるだけよ。」
「ふーん…強がっちゃって〜♪ノアが心配なんでしょ〜?」
「あなた…ノアとご飯、食べたことある?」
急な質問に、ヒューリスは頭を傾げる。
「ないけど…何?」
「いや…何でもないわよ。可哀想に。」
「何よ……教えなさいよ?」
「ディナー食べるんでしょ?わかるじゃない。」
「先に教えなさいよ。」
「いやね。ブスオリ!あなたも、しっかりと胡麻を擂るのよ!」
オーラは話を変えて、ブスオリにもノアと同じ指示を出した。
そして、現在に至る。
ディナーが始まり、メインディッシュまででノアの心は疲弊してしまっていた。
「さぁさぁ…どうですかな?そちらは、最高級"ファットピッグ"の肉です。とても柔らかいでしょう?育て方に工夫があるのですよ〜!」
ツルカネオは話を区切り、ちらりとノアを伺う。が、ノアはそのことに気づかない。というか、無視している。
(今の私は、肉に夢中なので聞こえないでーす…)
すると、ノアの隣に座っているオーラが、肘で小突く。
(なんで…)
「ソウナンデスネー。ソダテカタデショッカンガカワルナンテ、スゴイデスネー。ゼヒキカセテクダサイー。」
「気になりますよね♪お目が高い!ノア様なら、素晴らしさに気づくと思っていましたぞ!」
「アハハ……」
(オーラさん……これで満足ですか?)
ノアは心の中で囁く。すると、テーブルの上に置かれたオーラの手が、グッジョブの形になっている。
「まずは、大草原の中で育てる方法が〜〜」
ツルカネオは上機嫌で話し出す。
ノアはヘトヘトだが、聞かなければいけない。愛想笑いで顔が引き攣りそうになるが、どうにか耐える。
「ふぅー…どうでしたかな?フルコースでしたが。」
「ハイ。トテモオイシカッタ。マタタベタイ……」
早く会話を終わらせたくて、食事中ずっと考えていた言葉を放つ。
だが、いつも敬語なのがタメ語になってしまった。
「もしや……!ノア様、高級なぶどうジュースがあるのですよ。いかがでしょう?」
「イエ。オナカ……イッパイ……」
「1杯だけでも……ね?」
(これは……ノア様にアレを出せるのでは?)
ツルカネオは、ノアに薬を飲ませようとする。
ツルカネオが用意した薬は、よくある媚薬……の上位互換のようなものだ。
「う……ノミマス……ノミタイナ。」
ノアは、飲みたくないと思いながらもオーラの小突きが思い出され、飲むことにした。
「それは良かった……おい!あのぶどうジュースを持ってこい!」
「かしこまりました。」
使用人は、媚薬入りのぶどうジュースをノアの前に置く。
「ありがとうございます……オイシイデス。」
(ただのぶどうじゃん…)
ノアは1口飲んだが、特別な味かはわからなかった。
────コンコンコンコンコンコンコンコンコン……
ノアが飲んだ途端、オーラとヒューリスがテーブルを鳴らし始める。
コンコンコンコンコン……コンッコンッ
「あれ(ぶどうジュース)に入ってるわね?」
ココンッ……コンコンコン…ココンッ
「ええ。このまま…どうなるか?」
オーラとヒューリスは、そのまま会話を続ける。
そんなことにも気づかず、ノアは立ち上がって宿に戻ろうとする。
(1回……退避っ……!)
「私……お腹が苦しいので、宿に戻りますね。」
「あ…あぁ…」
(何も起きなそうで良かったぁ)
ブスオリはホッとしたように返事をした。
だが、あの男がそれを許すはずがない…!
「苦しいなら、少し楽になるまでは私の部屋で休憩をなさっては?」
「いえ。迷惑をかけてしまいますし、遠慮します。」
「いえいえ。迷惑ではないですよ。」
ノアとツルカネオの遠慮合戦が始まる。
「いえいえいえ!本当に!だ、だい…じょ……ぶですか…ら……」
(なんだ?クラクラする……頭が酷く痛い……腰とかも急に痛くなってきた…)
ツルカネオはニヤリと笑みを浮かべ、ノアを連れて行こうとする。
「父上!」
ツルカネオはチッと舌打ちをして振り返る。
「大丈夫ではなさそうですね。私が送って差し上げましょう。他の皆さんは、使用人たちが案内しますよ。ブスオリ。ちゃんとな?」
「っ……はい。」
ブスオリはツルカネオの圧で動けない。
オーラとヒューリスに、ツルカネオの言葉が届いていない。というか、気にかけてすらない。今の2人には"コンコン大会"で優勝することしかない。
「では、ノア様は私と行きましょう♪」
「いや……迷惑なので。」
「さぁ……早く。」
(薬が効きづらいのか?効果が見えないな)
ツルカネオはノアを自室に招き入れて、ベッドに寝かせる。
「ん…」
「大丈夫ですかな?暑くはないですかな?そのような服だと、少々暑いでしょう。介抱のため、服を脱ぎましょうね♪」
「やめ…て」
ノアは、激しい頭痛で動けない。ツルカネオはノアの服を掴んで持ち上げると、腹部が丸出しになる。
「う……痛い…ああぁ!」
ノアが悶え始める。体を丸く縮こまらせて、苦しそうに叫ぶ。
「おおぉ!やっと薬が効き出したか!新薬だと聞いていたから、何が起こるかと思えば……」
ノアは痛みの末、頭からは猫の耳。腰あたりには尻尾が生えてきた。
「猫とは!素晴らしい!発情期の猫……というやつかな?ははは!」
「はぁ…はぁ……もう、帰らせてください…」
「その状態では、大変でしょう?私がしっかりとお世話いたしますよ。飼い主としてねぇ!」
ツルカネオは、ノアへと手を伸ばす。ノアは背を向けて逃げようとするが、媚薬の影響もあってしっかりと動けない。
「逃げないでください。私の可愛い子猫♡」
ツルカネオが、ノアをバックハグする。
「うぁ……」
「大丈夫……今はまだ困惑しているでしょうが、ディナーの時は私と心を通わせ合ったでしょう?」
「ちが……あれはぁ……」
(あれはオーラさんが……)
ツルカネオの手が、ノアの腕から太ももへと移動する。
「ひっ……」
(なんで、まだオーラさん来ないの?おかしい…ここまでする必要ない。オーラさん!オーラさん、助けて!)
扉「………」
ノアが心の中で叫んでも、オーラは来ない。
そうこうしてるうちに、ツルカネオの手はノアの靴下を脱がせ始める。
「き…汚いです!やめてください!誰か、助けてください!」
「遠慮せず。あなたは汚くありませんよ〜♪あ、あと、ここは人があまり来ませんから叫んでもいいですし、大声で鳴いてもいいんですよぉ♪」
(話が噛み合わない……嫌だ…気持ち悪い…でも、誰も来ない。諦めるしかない……?)
ノアは覚悟を決めるように、目を閉じる。
他に何か出来ないかと考える。と、思い出したように、ツルカネオに手を向ける。
(何を忘れてるの…私は魔法使いでしょ!)
「"ウィンドシールド"!」
風で盾を作るが、上手く魔力が体を循環しない。
「なんで…?」
「メインディッシュの下処理に、対魔法草……通称"対魔"が使われているんですよ。魔法使いが食べると、一定時間、魔法が使えないのです。話していませんでしたかな?」
「っ!」
万策尽きたノアは、力なく手を下ろす。
(誰でもいい……ヒューリスでも、ティオでも……)
ノアは、誰が来てくれるか、そもそも来れる人はいるのかを考え出す。
(というか…私がこんな目に遭っても、どうでもいいよね……)
ツルカネオが尻尾の根元付近に手を伸ばす。
「うぁっ……?嫌だ…やめてくださいぃ……」
「ノア様は冒険者……何かあっても、ギルドは何も言ってきません。そういう機関なのですよ。ギルドなんかより、私の所へ来てみては?」
(何か……あっても……そうだよね。私に価値はない。1人じゃ何も出来ない……)
ノアはどんどん悲観的になっていく。
「何かあっても……誰も?」 ボソッ
『PS.何かあったら、僕を呼ぶこと!』
ノアは「何かあったら」というワードで、レイの手紙を思い出した。
(レイ……でも、あの人はギルドマスター。忙しいし、そもそも、こんなことに気づくわけがない……)
「レイさん…助け…て…」
ノアは震える声で、ポツリと言った。が、何も起こらない。
(そうだよね…「呼ぶ」って言っても、手紙とかで伝えろってことだよね)
ツルカネオは、ノアの耳元に息を吹きかける。
(ひっ…気持ち悪い…!)
「そう怖がらないで。発情していたら、苦しいでしょう?服を脱ぐのも難しそうですし……切りましょうか。」
そう言って、ツルカネオは近くの机からハサミを取り出し、ノアの服を切り出す。
「や…いや!ミリアさん達がくれた服なんです!やめて!」
「おや…でしたら、こんな服よりいいものを買って差し上げます♪」
────バリんッ!
突然、窓が割れた。人が立っているが、月の逆光で誰かわからない。
「何者だ?……うっ!」
ツルカネオが蹴飛ばされた。
────コンコン大会────
それは、古より伝えられた……机をコンコンする大会である。
コンコンとは、リズムで伝達をする「伝達部門」、音楽を作る「作曲部門」……様々な用途、部門がある。
だが、あの2人が行っていたのは、そう……「威嚇部門」!
相手をより威嚇する部門である。
威圧感や耳障り度で、相手をどれほど不快な気分にさせられるか。それを競い合う。
ヒューリスとオーラはそんなことなど気にしないため、互いに不快感はない。
つまり、2人が行っているのは……「不毛な争い」。
ちなみに、「世界コンコン大会」の初代優勝者は、ルカである。




