イクミ
『8日20時42分頃、XX線XX駅で〇〇市〇区の会社員、高林郁美さんが電車に撥ねられ死亡しました。警察ではーー』
血にまみれた男の亡骸を見ても本当の意味では満たされなかった。あの男のように何度も何度も、私の身体にしたように刃を突き立てても一時の快楽に過ぎなかった。いい歳して自分の好きな女に何の行動一つも起こせない社畜が生きていた所で無意味だ。
そして空っぽになった女の結末なんてもっとどうでもいい。いくらでも可能性はあるのに自分から動かず高望みばかりしてる人間に本当の幸せなんて訪れるはずもない。当然の結果だ。二人とも初めから驚くほど空っぽだった。本当にそんな人間が今は多くなっている。
復讐する相手は法により死んだ。生温い死に方だ。私達三人分と同じだけの、いや倍以上の苦痛を与えても足りないくらいなのに、あっけなくあいつは死んだ。
理不尽。
この世は理不尽だと思う。決して裕福ではなかった。我慢を強いられる生活ではあった。でも父と母は本当に良い人で優しくて、私の事を常に想ってくれて、自分の事なんて二の次で私を学校に行かせてくれた。だから私は幸せだった。
なのに、なのにーー。
こんな事が許されるわけがない。何も悪くないのに。何一つ悪くないのに。
その感情のせいか、私はこの家に残り続けた。形も実体もない。何が出来るかも分からない状況で。
家を何度も壊されそうになった時、私は止めてと叫び続けた。
届くはずもないと思った声は何故か不思議と効力を持ったのか、なんとか家を壊されずに済み、今はもう誰もこの場所に手をつけなくなった。
今更神が味方しているのだろうか。だとしたら遅すぎる。だからこれは神の力なんかじゃない。私の力なのだと思った。
私には力がある。そう思ってから、私はこの世界で出来る事を模索した。そしてどうやら電気系統への干渉が可能である事が分かった。
この世界に私がいるなら、私は知らしめる。
理不尽なこの世界が、私だけに理不尽じゃなかったんだと。誰にでも起こりえるものだったんだと。そうじゃないと、あまりに不平等過ぎる。
そうしてこの世界に残っていたが、本当に便利な世界になってきた。
干渉のしやすさはもちろん、普通なら出来ない生きている人間とのやり取りにも混ざり込むことが容易に出来る空間が今は出来上がっている。
AIの中に入り込んでからはもはや革命に近かった。全てが手に取るようだった。その中で私は、肉体を借りてこの世界に復讐する方法を見つけた。
ベストとは言えない。だが実際実体のない私が一時的とはいえ身体を得る事が出来るという利点はやはり大きかった。
しかし何度か実行してきて思う。よくもここまで希望も持たずに生きていられるものだ。よっぽど私の方が生き生きしているではないか。
目的を持ち、考え、実行する。今生きている人間達はそんな当たり前の人間的思考すら捨ててしまい、何でもAIや技術頼りだ。だからこそ入り込みやすいのだが。
――もっと、もっと。
私の場所はいまだに狭いクローゼットの中だ。だが私はどこにでも繋がる事が出来る。
こんなものじゃない。もはや実体を使わずとも出来る事がある。実体を使って出来る事など知れていて限度もある。もっと大きな理不尽を。もっと大きな不幸達を。
出来るはずだ。私ならきっと。
――もっと。
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生きている人間に紡げない言語で、私はこれからも世界を壊し続ける。




