移動
戦争が本格化してきて約1か月。
ここから東に二百キロ離れた基地への移動となった。
珍しいことではない、頻繁にあることだ。変わるとすれば、マスタのホットドックが食べられなくなることと、気にかけたこともない所属名が若干変わるだけだ。
先ずは燈京隊が離陸、轟鮫隊、利奈隊、最後に鳳流隊という順。
トラクタ派を押し切り、少しずつ鳳流が配備数を増やしている。海軍で燈京の新型が出た、という噂を聞いた。それが空軍に来ることはないだろう。もう上はプッシャを推し始めている。
理由は簡単だ。単純に、統計上プッシャの方が戦果を挙げているのだ。最も、エースには新型機が早く回ってくることは考えられていないだろう。何か別のエネルギィが働いていることは明らかだった。
それが政治力なのか経済力なのか、あるいは軍事力なのかは知らないし、知ろうとも思わない。できれば軽い戦闘機に乗りたい、と思うだけだ。
僕らが一番最後だった。一応、弾薬は積んでいくと言われた。つまり、襲われる可能性がある、ということだ。
荷物は轟鮫隊に積んである。彼らが落ちても何冊かの本と、服が燃えるだけだ。スーツケース一個の、半分ほどしかうまらなかった。
柳橋は三編隊先だ。前方の編隊長が鈎山という名前だった、ということだけは把握していた。
向こうは霧がある、という事だった。到着するのは夜になる、とも言われていた。
一応、鳳流も夜間戦闘は出来る。が、あまり旨味が無いのでしていない。
最近はなかなか戦闘になっていない。
塔のような積乱雲。乱立するそれの間を通る。
ハーフ。ロールで背面に。
何もない。
でも、きっと来るだろう。
もうきっと無線は傍受されているはずだ。
目を凝らして遠くを睨む。
ほら、見えてきた。
『こちらドルフィン・リーダー、見たことない新型だ。応援を』
来た。
向こうで炎がちらちらとねじれながら墜ちていく。
スロットルに手を掛ける。
トリガに指をあわせ、
無線ボタンを押す。
「篠滝、密集隊形。シックスに付け」
言い終わるとスロットルをフルに。
前方で雲から双発のジョージが飛び出して前方の鈎山編隊に喰らい付く。
聡明にも二機はインメルマンで回避。
左後ろからも敵機。
スライス・バックで雲から。あと五秒で射撃位置につくだろう。
操縦桿を左右に。
篠滝機が主翼を翻して左上に離脱。
一秒待って、アップ。
一瞬だけフラップ。
スロットル・ハーフ。
宙返りの頂点で背面のまま確認。
もう一機、さらに後ろから。一キロは離れていないか?
篠滝は雲の中に逃げ込んだらしい。
ロールで一度上を確認。前方にインメルマンで切り返そうとする篠滝機。
僕はそのまま背面に。操縦桿を引き、その一機の前に滑り込み、2Gで右旋回。雲があったのを思い出し、左に切り返す。
前方で旋回してこっちに向かってくる一機。
旋回を続ける。緩い旋回。
相手が後ろにつく。操縦桿を倒しかけたが、そのまま。
相手が撃とうとするのがわかる。それぐらいに正確な照準。
だが、相手が撃つ前に篠滝の銃弾によって爆散。
操縦桿を引く。左斜め宙返り。
雲に突っ込む。操縦桿を緩める。
さあ、まだまだ。




